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2017.05.20

レビュー

美しく残酷な「イヤミス」は、中毒になる。メフィスト賞・北山猛邦の快作!

メフィスト賞作家、北山猛邦(きたやま・たけくに)さんの短編集です。

北山さんの作品ですので、内容はもちろんミステリ。個人的には、短編集の先頭を飾る「恋煩(わずら)い」がとくにお気に入りです。主人公の女子高生アキのウブな恋愛を主題に据えた「恋煩い」は、実は本格ミステリの佳品でもある。物語の内容、構成はどちらもいたってシンプル。それだけに北山さんのミステリ作家としての手筋のよさがよくわかります。オムニバスドラマの1作として、土屋太鳳さん主演で映像化もされました(今年の4月に放送。僕はドラマ未視聴ですが、オフィシャルサイトのあらすじを読むと、ドラマ化に際して設定が脚色されているようです)。

本書に収録の短編はその「恋煩い」に加え、「妖精の学校」「嘘つき紳士」「終(つい)の童話」「私たちが星座を盗んだ理由」の計5作品。

「妖精の学校」は、謎の島に集められた子供たちの物語です。主人公の少年ヒバリは記憶のほとんどを失っており、自分の本当の名前すら思い出せません。ヒバリは島の秘密を探ろうとするのですが、「妖精の学校」を読み終えた大半の読者は、読了と同時に首を傾げてしまうでしょう。本作がリドル・ストーリー(作中で謎が解き明かされない物語)で、真相解明を読者の判断にゆだねているからです。短編の最後の1行に提示されている数字の羅列が、謎が謎のままで終わってしまう本作を読み解くための最大のヒント。数字の意味がわからない方は、ネットで検索してみてください。その意味を知った上で本作を振り返ってみると、これまでとはまったく異なる景色が見えてきます。

「嘘つき紳士」は、友人の借金を背負わされて自暴自棄に陥った男の物語。彼が拾ったのは、赤の他人の携帯電話。その携帯は、なぜかかすり傷だらけです。携帯の本来の持ち主とは、どんな人物なのか。その携帯の本来の所有者の恋人とおぼしき女性から送信されてくるメール。借金苦の主人公は、そこで妙案を思いつきます。恋人のふりをしながら、彼女から金を巻き上げようと考えたのです。良心の呵責(かしゃく)は感じるものの、金が欲しい。そうしているうちに男の心境にも徐々に変化が見え始めて……。

「終の童話」は、西洋ファンタジー風のミステリ。主人公ウィミィの少年時代に、村が「石喰い」と呼ばれる怪物に襲われてしまう。「石喰い」とはその名のとおり、人を襲って石に変え、その石を食べる化け物のこと。何人もの村人たちが石に変えられたその悲劇から長い年月が流れました。ある日、石化した人間を元に戻すことができる能力者が、村長の依頼で村に現れます。ところがそれを機に、また新たな事件が発生。物語が最終盤を迎えるにあたり、ウィミィはある決断を下すことに。

「私たちが星座を盗んだ理由」。短編集のラストで、表題作です。主人公の姫子と、彼女の姉。そのふたりが淡い恋心を抱いていた幼馴染みの夕(ゆう)兄ちゃんとの過去の三角関係が描かれています。タイトルのとおり星座がキーワード。入院してる姫子の姉のために、夕兄ちゃんが夜空から「首飾り座」を消してしまうと言うのです。夕兄ちゃんがいかにして星座を盗んだのか。それが本作の読みどころのひとつ──ではあるのですが、それとは別の思惑がこの短編の本当の主題です。

さて、本書に収録されている各短編を簡単に紹介してみましたが、察しのいい方はすでにお気づきかもしれません。収録されている5作品すべてに「どんでん返し」があります。

また、あえて言いますが、本書の読後感は、決して心地のよいものではありません。読者はそれを覚悟の上で読むべきでしょう。ただし、これは明らかに著者の狙いだと思いますし、読後感のよし悪しが必ずしも物語の面白さとイコールではない、という事例にもなっている。そもそも昨今のイヤミス(後味は悪いが癖になる・つい読んでしまうミステリ)の隆盛を思えば、珠玉のイヤミス短編集たる本書をおすすめしない理由がないのです。

レビューの冒頭ですでに述べたとおり僕のお気に入りは「恋煩い」です。確かに後味は悪いけれど、面白いからまたこんな作風の小説が読みたくなる──そういう気持ちにさせてくれる作品が、本書をきっかけに、あなたにも見つかるかもしれません。

レビュアー

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赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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