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2017.04.23

レビュー

超名作『甲賀忍法帖』続編! 伊賀と甲賀が共闘する「忍法バトル」の最高峰

故・山田風太郎さんの忍法帖シリーズ第1作目『甲賀忍法帖』。1959年に刊行されたこの作品は、甲賀10名、伊賀10名の超人的な精鋭忍者たちが、血で血を洗う凄絶な忍法バトルを繰り広げ、どちらの陣営が勝つかで徳川家の世継ぎが決まるという、奇抜なアイディアの小説でした。甲賀弦之介と伊賀の朧(おぼろ)、ふたりの敵対する若い忍者同士の恋愛が物語の重要な要素でもあり、半世紀以上も昔に書かれた作品なのに、いま読んでも面白い。

その小説をもとに、せがわまさきさんが漫画化したのが、『バジリスク~甲賀忍法帖~』です。こちらは全5巻。2005年にはアニメ化もされました。

そのアニメ版では、小説、漫画では詳しく語られなかった、ある登場人物ふたりの過去の悲恋が、第1話で子細に描かれている。これが出色の出来で、僕にとってアニメ版『甲賀忍法帖』は、第1話から号泣させられた希有な作品です。

今回紹介させていただく『桜花忍法帖 バジリスク新章』は、それら小説と漫画の2作を原案に、山田正紀さんが紡ぐ『甲賀忍法帖』の続編とも言うべき長編小説です。2015年11月に上巻が、翌12月には下巻が講談社タイガから刊行されました。

本書に登場する甲賀八郎と伊賀響の兄妹は、『甲賀忍法帖』のラストの新解釈と言ってもいいほどの、大胆なキャラクター設定によって生み出され(ネタばらしになるので、『甲賀忍法帖』のラストに関する具体的な言及は避けるものの)、ええー、そうきたか、と驚かされました。

その八郎と響の忍法は、瞳術です。ふたりの瞳術は、それぞれ両親から譲り受けたもの。父親から継承した八郎のそれは、自分に向かってくる敵意や殺意を相手にそっくり返してしまう忍法、たとえば相手が刀で斬りかかってきても、八郎の瞳術が発動すると、敵は自分で自分を斬り殺してしまう。

かたや、母親の瞳術を受け継いだ響は、相手の忍法を完全に無効化します。忍法が効かない忍法。忍法を発動させない瞳術なので、これはこれで恐ろしい。

それほどの力を持っていますから、まだ若い八郎、響とはいえ、わけあって離れ離れになったあとは、八郎が甲賀の、響が伊賀の棟梁になります。やがては、『甲賀忍法帖』で地獄のごとき死闘を演じた甲賀と伊賀が共闘することに──これは前作のファンなら、火傷するほど胸が熱くなる展開。

それにしても、なぜそんなことになったのか。そのきっかけは、成尋(じょうじん)なる謎の僧侶に率いられた忍者たち、「成尋衆」によって、甲賀、伊賀の手練れたちが鎧袖一触、惨殺されたからです。

あえなく殺された甲賀、伊賀の忍者たちは、いずれも常識離れの身体能力と物理法則を無視する強力な忍法の使い手たち──いわゆるエリート中のエリート忍者だったのですが、成尋衆の強さは、その比ではなかった。その圧倒的な強さ、暴威でもって、彼らは何をしようとしているのか。超人たちの忍法バトルに加え、その謎がリーダビリティです。

『桜花忍法帖』では、前作に引き続き禁断の恋も(しかも今回は、八郎と響の兄妹間の恋愛が)描かれていて、タブー具合がスケールアップ。それに関係にして、図らずも発動した忍法「桜花」と「有情」が、のちのち大きな意味を帯びてきます。

ひらりと舞う桜の花びらのごとく、忍者たちは美しく散ってゆくわけではありません。苛烈な戦闘の末、無惨に死に果ててゆく。殺し合うことの理不尽を痛感させられるのは、『甲賀忍法帖』同様です。原案の小説、漫画、それらをもとにしたアニメと同じく、珠玉のエンタメ忍法バトル物でありながら、その背後には常に儚さと虚しさで織りなした哀切が漂っている。その悲哀が読者の心をつかんで離さないのは、『桜花』、『甲賀』の両作品が内包する最大の魅力にして、作者が読者に仕掛けた忍法だからなのかもしれません。

レビュアー

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赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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