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2017.04.14

レビュー

ネタバレ厳禁「タイトル当て」で話題のエロ・ミステリをご存じ?

第50回メフィスト賞受賞作品。本書は、その文庫版です。

著者は、早坂吝(はやさか・やぶさか)さん。2014年9月に、本書のノベルス版でデビューし、これまで順調なペースで新刊を上梓してきた早坂さんの代表作といえば、エロくて笑える「上木(かみき)らいち」シリーズでしょう。

『○○○○○○○○殺人事件』は、その「らいち」シリーズの第1作目に当たります。○が8つも続くタイトルの読み方は、『まるまるまるまるまるまるまるまる殺人事件』。この、ともすれば人を食ったような奇抜なタイトルには、もちろん重要な意味があるのですが(それは後述するとして)、本書の舞台は小笠原諸島の孤島、主人公は、上木らいち──ではなく、区役所職員の沖健太郎という青年です。

健太郎はその島で、趣味を同じくする人たちと毎年オフ会を開いていた。メンバーは、彼が片想いしている大学院生の小野寺渚。アウトドア派のフリーライター、成瀬瞬。成瀬の同伴者で、赤毛の女子高生──上木らいち。弁護士の中条法子。医師の浅川史則。仮面を被った孤島の所有者・黒沼重紀と、その妻、深景(みかげ)。

彼らがオフ会を行っているその島で、今年は失踪者が出ます。それだけでは終わらず、とうとう殺人事件まで発生。孤島で殺人事件という、オーソドックスな展開からもわかるように、本書は、謎が論理的に解明される本格ミステリなのですが、実は「タイトル当て」小説でもある。

『○○○○○○○○殺人事件』の8つの○は伏せ字で、この伏せ字の部分を推理するのです。

著者の早坂さんが、なぜそうした趣向を試みたのかというと、
──諸君が真相を解明するのは不可能であるように思う。そうなった場合、犯人もトリックも当てられず作者に完全敗北したまま本を閉じることになる。それではあまりに哀れだと思ったのだ。
犯人もトリックも当てられなかったけどタイトルだけは当てられた──そんな、ささやかな成功体験をしてほしい。そういう思いが本書には込められている──

早坂さん、上から目線すぎるぞ。上木らいちシリーズは(下ネタ満載の)コメディタッチ本格ミステリなので、著者のこの見得の切り方はユーモアと解釈すべきですが、読者にはそうやって冗談だと思わせておいて、早坂さんには真相を見抜かれない絶対的な自信も、確かにあったのでしょう。

実際のところ、僕はタイトルも真相も見抜けませんでした。ネタばらしになるので、具体的な言及は避けますが(未読の方のために、上木らいちに関する説明も、あえてしません)、本書の笑いのノリが合う人は、絶対に忘れられない1冊になるはずです。それぐらいのインパクトを備えた小説でした。

そして嬉しいことに、文庫化に際して、挿話がひとつ追加されています。それに伴い、らいちシリーズではお馴染みの、ある人物がまさかの登場。ノベルス版既読の読者が再読しても、楽しめる内容でしょう。

ところで、実は僕は、以前にも一度、『○○○○○○○○殺人事件』のレビューを執筆していて、その当時、こんなことを書いていました(ネタを割らずに本書の特徴と魅力を表したものだと思うので、以下、引用して、レビューを終えます)。
──著者の早坂さんは、メフィストのホームページで「受賞を知ったとき、最初に思ったことは? その後、まずしたことは?」との質問に対し、「初恋の人に自慢しようと思いました。しかしその後自作を読み返して、やっぱりやめようと思い直しました」と答えています。

なるほど……。
本作の熱烈なファンである僕も、確かに好きな人にだけはお薦めしないかも。『○○○○○○○○殺人事件』はそんな作品です。是非、ご一読を!──

レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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