『霊感検定』は、第14回講談社BOX新人賞Powers受賞作品。本書は2013年1月に講談社BOXから刊行され、今年2016年8月には文庫化された青春ホラー小説です。
大阪から東京の学校に転校してきたばかりの高校生、藤本修司(ふじもと・しゅうじ)は、バイト帰りの深夜、バスに乗ろうと列の最後尾に並んだところを、突然、ひとりの少女に引き止められます。
物語の冒頭からいきなり、青春小説の王道、ボーイ・ミーツ・ガール。その瞬間……なのですが、『霊感検定』の場合は、そこからがいささか奇妙です。
「あのバスには、乗っちゃダメなの」
修司に忠告した少女の名前は、羽鳥空(はとり・そら)。華奢で小柄、髪が長く、目が大きい。彼女は修司のクラスメイトです。
なぜあのバスに乗ってはダメなのか、修司は尋ねようとするものの、空はタクシーに乗って帰ってしまいます。最終バスに乗り損ねた修司も、仕方なくタクシーに乗車するのですが、
「あそこのバス停のとこに立ってたでしょ。もうバス終わってるのにさ」(運転手)
「雨でバスが遅れとったみたいで……」(修司)
「遅れてないよ、時間通りに来たよ。あそこで客待ちしてたから見てたんだけどね」
もう少しでバスに乗るところだった修司にしてみれば、おかしな話です。不可解な出来事は、しかしそれだけにとどまりません。
修司のバイト先のラブホテルで、彼は白いワンピース姿の女性を何度も目撃します。ところが、ラブホテルなのに彼女はなぜかいつもひとりなのです。修司自身、疲れが溜まっているのか、首から背中のあたりまでがどんよりと重い。
「結論から言うぞ。藤本、おまえは霊に取り憑かれている」
図書室の司書で、自称・心霊研究家の馬渡(まわたり)にはこう指摘されてしまいます。修司はこれに先立って「霊感検定」を受けさせられるのですが、霊感検定とは、霊感の強さを測るものであり、馬渡が考え出した特別な検定試験のことです。
この霊感検定によると、修司は三級。準一級の空は「霊と対話ができるレベル」で「霊感検定を受けた人間の中ではダントツ」。
他にも空に過保護なモデル風の美男子・晴臣(はるおみ)、図書委員の笛子(ふえこ)、他校に通う夏目(なつめ)などが、馬渡を中心とする「心霊現象研究会」──通称・霊研のメンバーたちです。
その活動内容はというと、
「西に心霊スポットがあると聞けば調査にかけつけ、東に霊障に悩む市民がいると聞けば手を差し伸べる。インターネット他のメディアを駆使して心霊現象の情報を集めたり、生徒や教職員、その家族などからの心霊相談も広く受けつけている。心霊写真の鑑定なんかもするな。つまり、心霊関係全般、なんでもありってことだ」
霊感の強い修司は、不本意ながらもこの霊研の活動にたずさわってゆく──というのが、『霊感検定』のアウトラインです。
連作風の長編という構造の本書には、青春、恋愛、ホラー、ミステリ、それぞれの要素が、各エピソードによってその濃淡を使い分けながら、丹念に描かれています。なかでも個人的なお気に入りは、デート直前に事故で死んでしまった女子高生の願いを叶えてあげる「第四章」と、エピローグにあたる「彼女の話:about her 2」。
このどちらも、小説のベースはホラーです。しかし、それぞれのエピソードを構成する話の核は、高校生と、かつて高校生だった男女の青春・恋愛を描いた、切ない人間模様です。もはやどうすることもできない運命と現実、それを自覚している人たちの心の揺らぎや機微なのです。
ライトホラー的な楽しみ方も充分可能な本書ですが、僕はこうした人間ドラマの方により惹かれました。大勢の読者を惹きつける『霊感検定』最大の魅力──もちろん本書のどこに魅力を感じ、楽しむかは人それぞれですが、たぶんこう言いきってしまっても、さしつかえないでしょう。
読み終わったあとは、不器用な高校生たちの恋愛や友情が微笑ましくもあり、くすぐったい気持ちにさせられました。微弱な電気を流されたみたいに、じんと胸に迫る切なさ。それが勢い、手足の末端にまで行き渡ると同時に、ほんのり、じんわりと優しい気持ちにもさせられる1冊でした。
レビュアー
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。