読むとお腹が空いてくる!? でも不思議と心は満たされる!
「真夜中のパン屋さん」の著者、新シリーズスタート!!
屋台の料理店「ほたる食堂」の物語
お腹を空かせた高校生が甘酸っぱい匂いに誘われて暖簾をくぐったのは、屋台の料理店「ほたる食堂」。風の吹くまま気の向くまま、居場所を持たずに営業するこの店では、子供は原則無料。ただし条件がひとつ。それは誰も知らないあなたの秘密を教えること……。彼が語り始めた“秘密”とは? 真っ暗闇にあたたかな明かりをともす路地裏の食堂を舞台に、足りない何かを満たしてくれる優しい物語。
著者メッセージ
「醤油をコップ一杯飲むと、熱が出て学校休めるよ」 中学時代、そんなことを教えてくれた子がいました。なんでもその手法で、時々学校をズル休みしていたようで。
当時から私は結構なバカだったので、「そうなの!? すごいな!」とただ感心してしまったのですが、大人になってから、ちょっと言うことを間違えちゃったんじゃないかな、と思うようになりました。
例えば、体温計をこすれば熱はあげられるよ、とか(私は基本その方法で、学校をズル休みしていたので)。あるいはお腹が痛いと言い張れば、一日くらいは誤魔化せるかもよ、とか(その方法でも休んだ)。醤油飲むなんて無理はしなくても、学校は休めるよ、と。そのくらいのことは、言えたんじゃないかなぁ、と。
そんなことを思い出しながら、書いた話です。楽しんで読んでいただけると幸いです。
<著者プロフィール>
1975年、岐阜県生まれ。2005年に「ゆくとし くるとし」で第9回坊っちゃん文学賞大賞を受賞しデビュー。ドラマ化もされた「真夜中のパン屋さん」シリーズで注目を集める。他の著作に『ばら色タイムカプセル』『てのひらの父』『空ちゃんの幸せな食卓』(すべてポプラ社)がある。
「読むとお腹が空いてくる」美味しそうな料理シーンを特別公開!
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《お好み焼き》
いっぽう店主は、鉄板の上に広げたそれらを、ヘラでもって次々手早くひっくり返しはじめる。カシャンッ、パフッ! カシャンッ、パフッ! カシャンッ、パフッ! その器用な手さばきに、少年は思わず見入ってしまう。ひっくり返されたお好み焼きは、こんがりキツネ色に焼きあがっている。ちょうどいい塩梅の焼き色だ。
続いて店主は、そのキツネ色に刷毛で飴色のソースを塗りだす。たっぷりと塗られたソースは鉄板の上にこぼれ、ジュワーッ! と泡状になりながら大きな音をたてる。同時に勢いよく湯気があがり、むせ返りそうなほどの甘酸っぱい匂いが立ち込める。 -
《餃子》
カリカリでモチモチの皮を、ひとたび口の中でガブッと破ると、たっぷりの汁が溢れ出てくる。そのガツンとしたうまみに、たまらず咀嚼を続けると、さらに餡の中から、うまみ汁がにじみ出てくる。ハフハフハフ。肉の脂と、野菜の甘み。それにショウガと黒酢がよく合う。ハフハフ。口の中は、もう大騒ぎの様相だ。ハフハフハフ。 -
《焼きおにぎり》
ボウルの中には焼きおにぎりに塗るたれが入っているようだった。神は刷毛を手に取り、ボウルの中身を軽く混ぜはじめる。そうしてフライパンの上のおにぎりに、ササッと塗りだす。するとおにぎりは、ジワ~ッとかすかに音をたてはじめる。それからやや遅れて、甘辛く香ばしい香りもふわっと鼻に届く。つまりたれは砂糖じょう油味か。あるいは、甘味噌か。それにしてはコクのある香りだ。