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2017.04.12

レビュー

【最新の介護常識】動かないだけで病気になる「生活不活発病」が怖い

例えばこのようなことがありませんか?
「長い道を歩くと疲れる」
「外が歩きにくい」
「立ち上がりにくい」
「座っているだけで疲れる」

あるいは
「最近からだが弱ってきたようだが、年だから仕方ないか……」
「病気した後、いつまでも元気が戻らないけど、年のせいで病気が治りにくいのだろうか……」
このようなことに心当たりがある人は「生活不活発病」にかかっているのかもしれません。この病はかつては「廃用症候群」と呼ばれていました。けれどこの呼び方では誤解を生じかねないということで大川さんは「生活不活発病」と名づけたのだそうです。なにが誤解を生むのかというと……、
──この病気は「用を廃した」、つまり「全く使わなくなった」時にだけ起こるのではなく、「使い方が減った」だけでも起こるものなのに、それを正しく示していない。──

大川さんは次の3つの理由から「生活不活発病」という名称を考えたのだそうです。
1.生活のあり方・仕方に関係があるので、「生活」を使っている。
2.不活発なことが原因であることがわかりやすい。
3.不活発なことが原因で、「不」をとって活発にすることが予防・改善のポイントであることを理解してもらう。
──生活不活発病とは、その名の通り、「生活が不活発になった」ことが原因となり、あらゆる体や頭のはたらき(機能)が低下する病気です。この病気は誰にでも起こる可能性がありますが、特に高齢者に起こりやすいものです。また、うっかりしていると「寝たきり」にまでなってしまいかねない、「こわい病気」でもあります。──

「こわい病気」でありながらも「不」をとって活発にすることが予防・改善できるというのはどういうことでしょうか? それを大川さんは「誤った常識」から「新しい常識」への変化と記しています。

「誤った常識」とは例えば以下のようなことです。
「病気の時は安静第一」が本当によいのでしょうか? 
「不自由なことを代わりにやってあげることが親切」なのでしょうか? 
「年をとると体が弱るのは仕方ない」ものでしょうか?

これらの行動は一見疑う余地のないことに思えます。また介護や親切心として私たちが行いがちなことです。しかし、この“善意の支援”が時に生活不活発病と呼ばれるものを生むことにもなりかねないのです。
──生活動作の不自由なことを「手伝って補ってあげる介護」、すなわち「補完的介護」だけでは、本人が生活動作を行うことがますます少なくなり、生活不活発病の悪循環をいっそう強めることになりかねません。「よくする」ためには、現時点の不自由さを考えるのではなく、将来の生活・人生について具体的な「目標」をたて、その実現に向けてはたらきかけを行うことが大事です。──

もちろん「病気のため」「病後」ということがあるように、介護等には注意を払わなければならないことはいうまでもありません。この生活不活発病の症状は詳細に(図示を含め)語られています。「生活動作の困難」という症状は心身ともにあらわれることを忘れてはならりません。

災害時にもこの生活不活発病のことに留意する必要があります。大川さんは中越地震、東日本大震災などを例として、支援を含む災害時対応が生活不活発病を生むことに注意を呼びかけています。生活不活発病の難しさであり、また被害者の支援活動の難しさでもあります。「生活不活発病は、知識さえあれば、防ぐこと(予防)ができるし、起こってもよくすること(改善)ができる」のですから、そのことを踏まえた支援・介護活動を行わなければなりません。(実例がこの本のなかに詳しく紹介されています)

「生活の不活発化」、「生活の仕方」から起こってくるのが生活不活発病は、ちょっとしたことがきっかけでこの病になることが多いのです。例えば、「定年になってすることがなくなった」「 子ども夫婦と同居するようになったら、お嫁さんに遠慮して家事を行わなくなった」「病気の後に『安静にしなければ』と考えて運動量が落ちた」「 夏や冬の気候の厳しいときに外出を控えたら体力が落ちた」などがありますが、大きく3つのきっかけとして考えられるそうです。
1.社会参加の低下:「することがない」「(周囲の目などを気にするなどの)遠慮」「自己制限」
2.生活動作自体の「やりにくさ」:「病気のため」「環境の悪化」
3.生活動作の量的制限(やろうと思えばできるのに、していない状態のこと):「病後」「介護や支援のありかた」「生活動作自体の『やりにくさ』」「季節の影響」
こうあげてみると生活不活発病の発症の原因は身近でいたるところにあります。

では生活不活発病にならない(生活を活発にする)最適な方法とはどのようなものでしょうか。それは、「その人らしい(個性に合った)『充実した人生』を楽しむことで、活発な生活をつくっていくこと」につきます。
──ふつうの病気の場合も、病気を直す目的は充実した生活を送れるようにすることですが、生活不活発病ではその目的自体を達成することが、予防・改善の基本手段でもあるのです。──
『充実した人生』とは、すなわち「どう生きるか」ということにほかなりません。人が生きること(生活機能)には次のような構造があります。
1.「社会参加」・「生活動作」・「心身機能」の3つのレベルがある。
2.これらは「社会参加」をトップにした3層の「積み重ね構造」をなしていて、これら3つのレベルは互いに影響を与えたり、受けたりしている。

1の3つのレベルとは
1.社会参加:「社会」とは、家庭を含む広義のものであり、「社会参加」とはその中で何らかの役割を果たすこと、楽しむこと、権利を享受することなど「社会」と関わるすべてです。働くこと、学校へ行くこと、家庭で役割をはたすこと、やさまざまな場での交友、文化的活動、社会的・宗教的・政治的活動など広い範囲にわたる。
2.生活動作:生活の中で、何らかの具体的な目的をもって行うあらゆる動作・行為。移動動作以外でも身の回りの動作、仕事上の動作、家事や育児、文化的技術(絵を描く、楽器演奏等)、スポーツの技術、趣味の技術。
3.心身機能:体だけでなく、頭や心のはたらきや構造のすべて。
となります。

──「社会参加」の具体像が「生活動作」である、それはさらに「心身機能」から成り立っている。(略)「社会参加の制約」が「生活動作の低下」を起こし、「心身機能の低下」を起こす。──
というようにこれらの相互関係はどのようになっているかは詳しく語られています。生活不活発病予防のために、また介護の改善のためにもじっくりと読んでいただきたい個所です。

「動かない(生活が不活発)」→「生活不活発病」→「動きにくい」→「動かない(生活が不活発)」→「……」、という「生活不活発病の悪循環」は「個性に合った『充実した人生』を送る」うえでも避けなければなりません。ささいなきっかけ(「まあいいか」などの安易さも含めて)を見過ごすことなく、社会参加から、生活動作を多くし、心身機能を使うという流れを作る必要があるのです。支援・介護のありかたを再考させる1冊です。とりわけ『歩くことは多くの身体と精神の機能を使う』という1節は必読です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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