博物館に足を運ぶと、太古の恐竜の復元標本や、その地域で発掘された化石などが展示されているはずです。子どもの頃はそうした博物館に通って、時間も忘れてそれらを眺めていたという方も多いのではありませんか?
今回はこうした博物館や古生物、化石、カンブリア爆発、多様化……そんなキーワードに生唾を呑むような方におすすめしたい1冊をご紹介します。
巨大な博物館・バージェス頁岩から見つかる進化の証人たち
上の写真は、バージェス頁岩(けつがん)と呼ばれるカナディアン・ロッキーにある化石産地です。5億500万年前の動物化石が数多く産出する、ラガシュテッテンのひとつです。ラガシュテッテンとは、ドイツ語で「母なる鉱脈」という意味があります。
進化の過程を研究するのに化石を調査するのはとても重要なことですが、実はほとんどの生物は、死んでもその体が化石になることはありません。死ねばその体は、他の生物に食べられてしまうからです。
そのごく一部の遺骸がたまたま静かな湖に沈み、他の生物にバラバラにされる前に、すぐに堆積物におおわれることもあります。そして堆積物を通り抜けてきた水が、骨や貝殻などの内部の小さな隙間を新しい鉱物で埋めていき、数千年が経過すると、遺骸のまわりの堆積物は岩石に変わり、化石ができあがります。
しかし、世界中の博物館に展示されている動物の化石のほとんどが、骨や歯、あるいは貝殻などの化石です。筋肉のような軟組織が、鉱物化することは滅多にありません。それには特殊な条件が必要ですが、そうした場所が世界に何ヵ所かあり、それらがラガシュテッテンと呼ばれています。
なかでもバージェス頁岩は現在、約150種もの動物の軟体部の化石が発掘されており、古生物学の歴史上、もっとも重要で、世界中の科学者から注目されているのです。
バージェス頁岩が重要なのは、動物の軟組織が保存されているからだけではありません。動物が一気に多様化した、進化史上重要な時期を記録している、いわばスナップショットの役割を果たしているからです。
たとえば上の図のような生物。古生物好きにも大人気のハルキゲニアです(左:ハルキゲニア〈Hallucigenia〉の復元図〈スミスとカートン、2015年より〉。右:ハルキゲニアの化石)。このユニークな生物の造形から、「幻覚のような」という学名をつけられた経緯がありますが、このように多様な進化を遂げた生物たちが、バージェス頁岩から多数見つかっているのです。
バージェス頁岩は、いわば巨大な博物館といえるでしょう。
化石が語る、絶滅した生命たちの当時の生態
化石を調べることで、科学者たちはさまざまな生物たちの、生きていたときの姿や生殖様式、習性を知ることができます。
たとえば子どもと一緒に保存されている海生爬虫類の成体の化石から、その種が卵ではなく子を産むことが分かったし、上の図のように、別の魚を食べている途中で化石になった魚の例もあり、どういった動物を食べていたかが分かります。
絶滅した生物が、その一生を通じてどのように成長したのかも、化石から推定できます。異なる年齢で死んだ同じ種の化石が手に入れば、成長による形態の変化を追跡できるからです。
また、子育ても推測できます。卵と孵化した子ども、そして親がいる巣の化石から、カモノハシ恐竜マイアサウラ(上図)が育児をしていたことがわかりました。
化石から分かる生命の多様化、多細胞化、巨大化
進化における大きな節目のひとつは、多細胞生物の出現です。多細胞生物といえば、私たちヒトです。ヒトの体は数十兆個もの細胞が接着分子によって結合したもので、協調してはたらく器官や組織に分化しています。
多細胞化のヒントは、現生種の研究からヒントが得られます。たとえばバクテリア(真正細菌)。それぞれのバクテリアは、個々に成長し分裂することができる一方で、バイオフィルム(ゼラチン状のシート)という多細胞生物のような構造をとることもできます。
また土壌に住む真核生物のキイロタマホコリカビ(ディクチオステリウム・ディスコイデウム)は単細胞ですが、集合してナメクジ状の形になってはうこともできるし、胞子をつける柄も形成します。キイロタマホコリカビやバイオフィルムは、多細胞生物がどのように進化してきたかの手がかりになるのです。
さらに、複数の系統で、独自のエネルギー獲得方法を持つ多細胞生物が進化しました。植物、緑藻、褐藻、紅藻は光合成をします。菌類は、酵素で食物を分解してから吸収します。そんな多細胞生物の中で、他の生物を飲み込むことができる体を進化させた系統が、ひとつだけあります。動物です。
今日の動物には、哺乳類や鳥類のような、私たちに身近なグループが含まれます。その一方で、カイメンのような、あまり身近でない動物もいます。カイメンには脳も、目も、口もありません。しかしカイメンは、動物にしかない数千もの遺伝子を持っており、それらは、動物以外の生物からは見つかっていないのです。
生命の大躍進、カンブリア爆発で知られる時代よりもっと前に、葉っぱのようなものや、幾何学的な模様のついた円盤状のものや、タイヤの跡のようなものといった実に奇妙な形をした生物が現れました。カンブリア紀以前には1~2mmくらいしかない小さな殻が残されていたのが、1メートルを越すような巨大なものが見つかったのです。
これらの奇妙な生物はまとめてエディアカラ生物群と呼ばれ、カンブリア紀の始まりくらいの5億4100万年前にはほぼ絶滅したと考えられます。その後、カンブリア紀の後期になればなるほど、現生種につながるグループが数多く出現しました。
やがて生命はもうひとつの大きな変化を迎えます。陸上への進出です。
こうしたことが、すべて化石の研究で分かるようになってきたのです。
本書『カラー図解 進化の教科書 第1巻 進化の歴史』は、最新の研究から分かったことを踏まえながら、生命の進化を俯瞰しつつ解き明かしていきます。ハーバード大学やプリンストン大学など、米国の200以上もの大学で採用された進化の教科書ですが、平易で丁寧な訳により、古生物や進化に興味を持つ方の知識欲を満たす入門書としても最適です。
美しいフルカラーの図版入りで第3巻まで刊行予定ですから、「カンブリア爆発」「進化」などのキーワードにピピッときた方は、ぜひお手元に!