ベストセラー『僕は君たちに武器を配りたい』の著者で、気鋭の論客として注目を集める瀧本哲史さん。各地の中学校で行った14歳のための特別講義のエッセンスを集めた期待の新刊『ミライの授業』について、担当編集者と語り合った。
東京大学法学部卒。マッキンゼー&カンパニーなどを経て独立し、エンジェル投資家として活動。現在、京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授を務める。近著に『読書は格闘技』など。
東京大学文学部卒。1980年に講談社入社。フライデー編集長、週刊現代編集長などを経て、現在、第一事業局次長。
14歳に教える、未来をつくる具体的な方法とは?
撮影/尾崎三朗
加藤瀧本さんと本を作るのは、今回が3度目ですね。1冊目は『僕は君たちに武器を配りたい』(2011年9月刊)でした。
瀧本この本は大学生に向けて書きました。世の中を変えるための本を作ろうというのが根本にあって、では実際に「誰」が変えるのかといったら、それは大学生だろうと思ったんです。
加藤発行部数は10万部を超えました。2冊目が『君に友だちはいらない』(2013年11月刊)。これは、社会を変えようという意識のある人に向けて、実際にどうすれば社会を変えることができるのかについて書かれた本ですね。
瀧本部数こそ前作を下回りましたが、反響は大きかったですね。小泉進次郎さんをはじめとする政治家や起業家の方から、「この本を書いた人に会いたい」というオファーがたくさんあって。
加藤その小泉さんとは、2014年に東大の学園祭(本郷キャンパスの五月祭)でトークイベントをやりましたよね。そして、今回の『ミライの授業』。14歳の中学生に向けて語りかける形になっています。
瀧本ますます大変な時代に入っていく日本を変えるには、大人に訴えかけるだけでは間に合わないと思ったんです。まだ、何もなしえていないけれど、何でもできる可能性がある14歳が、「俺が、私が、やってやる!」と熱い情熱を持っているうちに、「そうだ、世の中を変えるのは君たちなんだ!」という思いを届けたい、と。
加藤瀧本さんは以前、昭和を代表する進歩的知識人の吉野源三郎さんが1937年(昭和12年)に著した『君たちはどう生きるか』に影響を受けたと仰っていましたね。満州事変のあと、時代がどんどん戦争へと傾斜していく困難な時代に、吉野さんは子供たちに「自分の頭でじっくりと物事を考える大人になれ、けっして希望を捨てるな」と説いた。その平成版が、今回の本なのだろうと思っています。
瀧本そうですね。『ミライの授業』はタイトルの通り、未来を生きる子供たちに向けた、未来を変えるための特別講義です。具体的には、世界に変革をもたらした20名を紹介し、彼らの生き方や考え方から、「未来をつくる法則」を導き出しました。
講義のタイトルは「未来をつくる5つの法則」。ぜひ法則の「?」に入るキーワードを想像してみてほしい。
加藤20名の変革者の中には、誰もが知る人が多く含まれています。たとえば「白衣の天使」と呼ばれるナイチンゲールも本書に登場します。でも、一般的に伝わっているものとは違う、その人物の本当の真価は別のところにあったという指摘に、新鮮な驚きがある。
瀧本実は彼女は統計学者でもあったんです。戦地の病院で看護の仕事に励んだあと、ナイチンゲールは戦死者の死因を分類・集計したり、衛生管理の改善につながる多様な統計データを収集・分析するなどして、医療態勢の変革が急務であることを訴えていきます。
加藤現在の病院システムの原型を作った人でもある。
瀧本ナイチンゲールが献身的に傷病者の看護にあたったのは事実ですが、それだけでは世界は変わらなかった。変革者が世界を変えるに至ったことの根本には何があったのか、何をしたのかを解き明かす必要があると考えました。
実際に講義を聞いた女子生徒が「私も、やってやろう!」と
京都大学の授業風景
加藤この本を作るにあたって、瀧本さんには実際に全国の中学校をまわっていただき、中学生に向けて授業をしてもらいました。その中から厳選した話が『ミライの授業』に収録されています。
瀧本授業をして印象的だったのは、一見おとなしそうな女子生徒の反応。僕の話を聞いて、「私も、やってやろうと思いました」と言ってくれた女子が何人もいました。
加藤本には、サッチャー元英国首相やデザイナーのココ・シャネル、『ハリー・ポッター』を書いたJ・K・ローリング、元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんら、女性も多く登場します。
瀧本中学生だけでなく、彼ら彼女らのお母さん世代の方々にもぜひ読んでほしい。「世界を変える」「自分を変える」のに、年齢制限はありません(笑)。
加藤授業を聞いた先生の中にも、「こんな授業を中学生のときに受けていたら、僕の人生もきっと変わっていた」と仰ってくれた方もいました。とはいえ、名門企業がとんでもない不祥事を起こし、景気も良くならない。世の中はどうにもならないから、新しいことはせずに、嵐が去るのを待ったほうがいいという空気が広がっているようにも感じますけど。
瀧本でも、嵐は去らない。ますます嵐は激しくなる。だから世の中を変えないといけない。そのための方法論と勇気を、この本で届けたかったんです。