──良い習慣はたしかに大切だけれど、私たちが持てる力をフルに発揮できない理由は往々にして、悪い習慣にある。世の中のありとあらゆるよい習慣を身につけたところで、悪い習慣を温存していたのでは、目標になかなか到達できないだろう。こう考えてみてはどうだろう? あなたの一番悪い習慣が、あなたの価値を決めている、と。悪い習慣とは、身体に重しを巻きつけて一日中ズルズル引きずっているようなもの。重しはあなたのスピードを鈍らせ、くたくたにし、いらいらさせるだろう。──
彼女がとりあげた悪い習慣とは……「自分を哀れむ習慣」「自分の力を手放す習慣」「現状維持の習慣」「どうにもならないことで悩む習慣」「みんなにいい顔をする習慣」「リスクをとらない習慣」「過去を引きずる習慣」「同じ過ちを繰り返す習慣」「人の成功に嫉妬する習慣」「一度の失敗でくじける習慣」「孤独を恐れる習慣」「自分は特別だと思う習慣」「すぐに結果を求める習慣」の13です。これらにとらわれると私たちのメンタルな部分に弱さがあらわれて自分の持っている力が十分に発揮できません。
彼女が指摘した悪い習慣、見たところやめるのは簡単そうに思えるかもしれません。そんなこと分かっているよ、という声も聞こえてくるようです。でも本当にそうでしょうか……。では、このケースはどうでしょう?
「過去に何事もなかったようにふるまうこと」
「変化を起こしたい気分になるまで待つこと」
「得意でないことに手を出そうとしないこと」
「旅の終わりまで、お祝いを先送りすること」
一見メンタルを強くするような要素に思いえますが、これらは、すべてやめるべき〝悪い思考習慣〟なのです。
たとえば、「過去を引きずる習慣」をやめるべきなら、「過去に何事もなかったようにふるまうこと」は間違いではないように思ってしまいがちです。
──過去を引きずらない、と決めることは、何事もなかったふりをすることじゃない。経験したことを受け入れて、今を生きることだ。そうすれば心のエネルギーが解き放たれ、、何者になりたいかに基づいて、今後の計画が立てられる。──
つまり、過去をやり直そうとしたりすることには、「過去を引きずっている自分に気づき、感情を癒すのに必要な手段を取ること」が必要なのです。過去の出来事を、現在の自分が行動しないことや前へ進むことを決断しないことの理由(言い訳)にしているのではないかといっているのです。この微妙な違いがこの本の、エイミーさんの心理療法士(サイコセラピスト)としての核心なのではないかと思います。
「得意でないことに手を出そうとしないこと」も意外な感じがするのではないでしょうか。ややもすると自分の得意なことをするのがいいように思いがちですがそうではありません。
──「失敗を繰り返しても大丈夫」と理解すれば、人生は安らぎと満足感に包まれる。「1番にならなくちゃ」「評価されるには成功しなくちゃ」と気をもむこともなくなる。それどころか、「失敗するたびに成長できる」と、どんと構えていられる。──
「どんと構える」まではいかなくても失敗を恐れていることからは解放されるのではないでしょうか。「失敗や拒絶がこの世の終わりじゃない」ことは確かですし、失敗から学ぶということは仕事の進め方という技術的なものだけではありません。ここではエイミーさんの義父・ロブさんの逸話が紹介されています。「うまくいくまで失敗を繰り返すのを恐れなかった」というロブさんのエピソードはこの本のなかでも心温かくなるエピソードのひとつです。ぜひ探して読んでみてください。
この本で取り上げられた〝悪い習慣〟のいくつかは、すぐにそうだと思うものもあります。けれどそれだけではありません。良い習慣(?)だと思い込んでいたものが本当は違っている、むしろマイナスになっていることに気がつかされると思います。
──ハッとさせられるのは、どの習慣も喫煙や深酒といったいかにもな悪癖ではなく、本人が自覚さえしていない、一見どうってことない「心のクセ」だということ。──(本書
「訳者あとがき」より)
〝クセ〟だけに気づかずにしてしまい、見過ごしてしまっていることがあるのではないでしょうか。思い当たることが実に多いことに驚かれると思います。
この本には章ごとに細かいチェックリストが付けられています。鉛筆を手に自分の〝クセ(習慣)〟をチェックしてみてはどうでしょうか。極めて実践的なアドバイスがあふれています。たとえばこんなチェック項目があります。
・ほかの人がどう感じるかに、責任を感じる。
・失敗したり、恥をかいたりすると、心の中で何度もそのシーンを再現してしまう。
・新たなスキルを学ぶより、すでに持っているスキルをアピールしたい。
・何かを手放さなくちゃいけないことが悲しい。
・私には幸せになる資格があると思う。
これ、実はすべて危険信号なのです。その理由はとてもわかりやすくエイミーさんが解説しています。100項目以上におよぶチェック項目の解説を読むと、いかに自分が錯覚や思い込み、さらには根拠のないものの上に立っているのかがよくわかります。
──メンタルが強いというのは、「なにが起こっても大丈夫」と知っていること。(略)どんな運命が降りかかろうと、人生の現実に対処できるだけでなく、自分の価値観に従って生きることができる。メンタルが強くなれば、最高の自分でいられる。正しいことをする勇気が持てるし、自分が何者で、何を達成できるかに対して、心からくつろいでいられる。──
これはいわゆる〝ポジティブ思考〟とは違っていると思います。やさしい言葉で書かれているので、その違いも読むとすぐに分かります。
自分の〝クセ(悪い習慣)〟に気づき、できるところからやめていきましょう。そしてメンタルを強くし、自分の持っている価値観で正しく生きていくことを目指すことが自分の人生を生きることなのです。それが健全さというものなのだと思います。その助けになる、心強い味方となる本です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。
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