息苦しさを感じさせるような母親の過干渉、自分の気持ちを分かってくれない母親……。もし、子どもがそのようなことを感じているとしたら、その大きな原因のひとつは〝自己愛マザー〟と呼ばれる母親の存在にあるのかもしれません。
この本ではまず、〝自己愛マザー〟とはどのような母親であるのか、それが子どもたち(この本では娘が中心ですが)の心や行動にどのような影響を与えるものなのかを解き明かしていきます。マクブライドさんが聞き出した子どもたちの肉声は、読むものに母親の前で戸惑う娘たちの姿を浮かび上がらせてきます。子どもたちが母親の期待や意向に真摯に向き合おうとすることが、かえって子どもたちを苦しめていることになっているのがよくわかります。
〝自己愛マザー〟に育てられたというとぴんとこない人がいるかもしれません。でもこのようなことを感じたことはないでしょうか。
「なぜ、自分は愛されないと感じるのか?」
「なぜ、自分は不十分な人間だと感じるのか?」
「なぜ、満たされないのか?」
「なぜ、自信がもてないのか?」
もしこのようなことを感じていたとしたら、あなたは、あるいは〝自己愛マザー〟に育てられたということが原因にあるのかもしれません。
〝自己愛マザー〟とはどのような存在なのでしょうか。マクブライドさんは6つの自己愛マザーのタイプを上げています。
1.華やかで外交的な母親
2.成功追求型の母親
3.病気を利用して周囲を操る母親
4.依存症の母親
5.表と裏の顔を持つ母親
6.感情的な欲求の強い母親
このなかには〝子どものために一所懸命になっている母親〟のふるまいというものと重なるところがあります。でも、その心の奥にあるのは母親の自己自身への願望・欲望なのです。〝自己愛マザー〟にとって「重要なのは世間にどうみられるか」であり「自分を精一杯よく見せ、自分が特別ですばらしい人間だと世間に思われたい」ということが中心なのです。そのために母親は子どもに過干渉したり、あるいは無視したりします。マクブライドさんによれば「母親の自己愛は『呑みこむ母親』か『無視する母親』かの両極端のかたち」として表れてくるそうです。
〝自己愛マザー〟に育てられた子どもにはどのような特徴がみられるのでしょうか。
〝自己愛マザー〟には「人間の価値は、あなたがだれかではなく、なにをしたかで決まる」という考えがあります。マクブライドさんの面接・調査で、そのもとで育てられた子どもは対極的な生き方をしがちだということが明らかにされました。母親の意向に添うために「頑張りすぎる」か、母親を無視するために「自己破壊する」というような激しい両極端の人生を送りやすくなるというのです。
〝自己愛マザー〟にとって子どもは母親の自己充足のための存在でしかありません。いくら母親自身が子どもへの愛情を持っていると思っていても、それが子どもに届くことはありません。かえって大きなトラウマを子どもに与えていることになっているのです。
また一方では「自己愛の強い母親が娘よりも息子を大切にするという事実」が見られます。これは母親にとって息子は〝ライバル〟にはなりえないということから生じてきます。娘に、自己愛マザーの影響がより強く出るのは娘が自分にとって〝ライバル〟であると見なしているからです。ところが息子が結婚すると状況は一変します。ライバルが出現してきます。「義理の娘は自己愛的母の嫉妬の的」とみなされることになるのです。
この本の後半では著者自らの体験を含めて、多くの面接を通してこの子どもたちがどのように〝自己を回復〟していったのか丁寧に論じています。「どう見えるかではなく、どう感じるか」から始めて、「母親の周りをまわる軌道から自由になって」いく、それは「母親を喜ばせることを終わらせ、ほんとうの自分を発見する」までにいたる多くの実例、経験が紹介されています。
母と娘の関係を中心に綴られたこの本ですが、娘だけにかかわらず母子関係がはらむ家族間の心理問題を追求したものとして読み応えがあります。〝自己愛〟について、家族関係の問題について、心理療法士である著者の誠実な取り組みがいたるところに感じられるものです。
まず巻頭に収められた簡単な33の「自己愛マザーチェックリスト」から始めてください。そして、この本を読む進めるうちに自分自身にも〝自己愛〟傾向を感じられたかたは、巻末の「自己愛傾向をさぐるリスト」10ヵ条をチェックしてみてください。〝自己愛〟はしばしば連鎖することがあるからです。この連鎖を断ち切り、「人を愛する能力」と「共感を示せる能力」という「健全な自己」と自分自身の人生をつかむためにもぜひ手にしてほしい1冊です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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