NHKスペシャル取材班による特集番組「シリーズ老人漂流社会」の4回目となる放送「親子共倒れを防げ」の、待望の書籍化である。
書名にもなっている「老後破産」というキーワードは、関連した書籍の出版が相次いでいることなどからもわかるように、人口に膾炙しつつあると言ってよい。本書では、老後破産からさらに進んで、親子共倒れという現実を紹介している。では、親子共倒れなどという不条理はいかにして生まれるのか。
本書によれば「中高年の世代が親を支えなければならないがゆえに非正規雇用の仕事にしか就くことができず、正社員に比べると収入が安定しないという雇用問題が背景にある。収入が不安定な子どもが、年金で暮らす親と同居した場合、親の介護や医療が必要になったり、子どもの病気などがあったりすると、一気に生活が立ちゆかなくなる」としている。
こうした世帯では、健康状態が悪くとも病院に行かない、行けないケースが多く見られる。また、本来は生活保護の受給対象となるべき世帯もあるが、行政側に届け出をしない、できない実態もある。そして、生活保護の受給のためには「世帯分離」、つまり、年金暮らしの親と勤労している現役世帯が別々に暮らす必要があるのが現実だ。では、なぜ、世帯分離をしないといけないのか。親子で同居しながら、生活保護を受給することは許されないのか。
生活保護は、世帯ベースでの所得を基準に受給判断をするため、収入が一時期でも一定額に達している場合、生活保護の受給要件に該当しない。本書の中にも出てくるある家族のケースを紹介したい。一家が生活保護の申請に訪れた際は、非正規で働く子供に一定の収入があったために申請を受理されなかったのが、その後仕事を打ち切りにされてしまい、無給になってしまった。しかし、非正規で働く子供は、月曜日から土曜日まで働きづめ、親は脳梗塞の後遺症で一人では外出できない状態にあり、再度、役所に相談に行くことができない状態だった。こういったケースで生活保護を受けるには、世帯収入を分けるため、親と子が別々に暮らす、世帯分離が必要となる。
このように、生活保護の受給申請に限らず、行政は基本的に住民側からの申請を待つのが基本姿勢だ。だが、本書を読むとよくわかるのだが、本当に追い込まれた人は自らSOSを発信できないケースが多い。従って、誰かが訪問してそうした世帯の近況をこまめに確認する必要がある。
こうした不条理な状態が明らかになったのは、長期間にわたる多様な関係者への丁寧な取材によってである。行政側、当事者側(親子で同居している住民)、当事者の雇用主、ケースワーカーなどの支援者側など、多様な関係者のそれぞれの立場を追うことで初めて問題の全容がつかめてくるのだ。
筆者は、正直、ここまでの深刻な問題があるとは想像していなかった。優れた調査報道の持つ力だろう。本書は、こうした隠れた真実を明らかにすることに成功しているのに加えて、調査報道のプロセスを丹念に追体験できる点において価値が高い。
本書の特徴は、何といっても現代日本の抱える深刻な現実を真正面から捉えたことだろう。さらに、調査報道の模範ともいえる検証内容となっている点で類書と一線を画している。
レビュアー
30代。某インターネット企業に勤務。年間、
特に、歴史、経済、哲学、宗教、