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2016.03.05

特集

なぜ英語は挫折するのか? 発音、語彙、2つの心得

みなさんの中で、英語を勉強しようと思って始めたのはいいけれども、途中で挫折してしまった、という経験をお持ちの方はとても多いのではないでしょうか。挫折した理由はなんでしょうか。どうして続かなかったのか、自分で把握できていますか?
実は日本人の英語が上達しない理由には、その環境やモチベーションにあるのです。今回は講談社現代新書『本物の英語力』から、著者の鳥飼玖美子さんに英語上達への最初の2ステップについて解説してもらいましょう。

今日の講師:鳥飼玖美子(とりかいくみこ)

東京都に生まれる。上智大学外国語学部卒業。コロンビア大学大学院修士課程修了。サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。NHK「ニュースで英会話」監修およびテレビ/ラジオ講師。著書に、『歴史をかえた誤訳』(新潮文庫)、『戦後史の中の英語と私』『通訳者と戦後日米外交』『英語教育論争から考える』(以上、みすず書房)、『危うし! 小学校英語』(文春新書)、『国際共通語としての英語』(講談社現代新書)などがある。

「なんで英語やるの?」日本人が英語を苦手な理由

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講演で出かけた中学校では「なんで英語の勉強すんの?」「どうして英語を習わなければいけないんですか?」「英語って、何のためにやるんですか?」という質問が多く、1年生から2年、3年と学年があがるにつれて、疑問が増えていくのに驚きました。

考えてみれば、それはやむをえないかもしれません。いくら「英語は不可欠だ!」と言われても、日本社会で、英語は日常的にそれほど必要ではありません。買い物も旅行も遊びも日本語で十分です。テレビの海外映画やドラマは日本語に吹き替えられ、海外のニュースも日本語の字幕があり、インターネットには日本語での情報が溢れていますし、たまに英語の情報が必要になったとしても無料の自動翻訳サービスがあります。英語ができないから暮らしていけないという光景は見られません。

つまり日本に暮らしていて英語を学ぶことは、「外国語」として英語を学ぶわけで、英語が主要言語である社会で日常的に使わざるを得ない「第二言語」として英語を学ぶわけではないので、必要度は低く、接触する機会もきわめて少ないのです。ふだん使わないのですから、上達しないのは当たり前です。

そのような中、目的意識を持つことはなかなか難しいでしょうが、あえて、自分なりの「目的」「目標」を設定することを勧めたいと思います。何でも構いません。ハリウッド映画を日本語の字幕なしで楽しみたい、世界の情報を英語でインターネット検索したい、東京オリンピックでボランティアをしたい等々。

中学生に「英語は嫌いです」と言われたことがあります。そうなの、と答えてから、「好きなことは何?」と聞いてみたら、返ってきたのは「野球です」。そこで、野球はアメリカが本場だけれど、日本の野球はアメリカの野球と微妙に違うところがあるようだ、野球の実況中継も日本とアメリカでは語り口などがだいぶ違う、という話をして、「英語が分かるようになると、日米野球の違いが分かって面白いと思う」と付け加えたところ、驚いた顔になり、「へー、そうなんですか。ちょっと英語やってみようかな」と言ってくれました。

関心のあることがとっかかりになって、知りたいという目的が生まれると、好きなことに引きずられて、いつの間にか英語はあなたの日常に入りこんでくるはずです。

無意識に「英語的発音」を嫌っていませんか?

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英語らしく発音しようとせず、日本語的な発音に固執する生徒や学生がいます。わざとのように、日本語風に英語を話すのです。例えば、thinkの[th]を無視して、「シンク」と発音する。thatをあえて「ザット」と発音する。

「[r]を英語的に発音する日本人がいると、いかにもキザで不快です」と告白する人がいます。これは、無意識のうちに日本語を話す日本人の自分を保とうと、英語的な発音を拒否しているのではないか、という気がします。

ある中学の研究授業を見学に行ったところ、“fish”の[i]や[sh]をきちんと発音していた男子生徒がいたのですが、仲間に「おめえ、どうしたんだよ、キザな発音して」とからかわれ、すぐに「フィッシュ」と完璧な日本語発音に切り替えていました。これも「日本人中学生」というアイデンティティから成る仲間意識を優先させたといえないでしょうか。

異質なものに接すると、自己アイデンティティが脅かされたような気持ちになり、自分でも気づかないまま、異質性を排除しようとしたり回避したりします。

特に自ら口を動かさなければならない「発音」になると、避けたり拒否してしまうことがあり得るでしょう。まして英語の音声は、日本人として何となく恥ずかしいくらいに、口を大きく開けたり、舌を動かしたり突き出したり、呼吸法さえ違ったりと、身体動作に大きな変革を迫るのですから、身体が受けつけない、という状態になり、結果として英語とは聞こえない日本人英語になるのではないでしょうか。

[STEP1]「発音」の基本をおさえて英語に聞こえるように発声しよう

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自分が話す英語を相手に分かってもらうために必要なことはいくつかありますが、まず大切なのは、英語の音の出し方の基本を知ることです。きれいな発音でなくても構いませんし、ネイティブのような英語でなくても良いのですが、英語の音の基本を守らないと通じません。「英語の音の基本」とは、具体的には、母音と子音、そして強弱のリズムです。

第一に母音です。日本語は「あいうえお」の5音素なのに、英語は20音素もあります。そのうえ、英語と日本語では口の動かし方からしてまったく違います。母音をおろそかにせず、日本語では大げさに聞こえるくらいに発音しないと、「骨」(bone)が「生まれる」(born)に聞こえてしまいます。「鳥」はbirdですが、これを「バード」と日本語的に発音すると、badに聞こえてしまいます。[ir]は、「アー」とは違う、日本語にはない音なのです。

次に子音です。日本語では16音素なのに、英語は24音素があり、摩擦音(/f/ /v/)が多くあります。それに加え、英語の子音は日本語と違って独立独歩です。日本語では子音の後に原則として母音がつきますが、英語では母音などを後につけず子音だけでバシッと終わります。

例えば、英語のcatを日本語的に「キャット」と発音すると[kæto]と余計な母音[o]が入ってしまい、リズムが崩れて英語とは聞こえなくなります。

また、英語には子音がいくつもくっついてつながる「子音連結」という性質があり、これが日本人だけでなく多くの非母語話者を苦しめます。

たとえば“simple”というシンプルな単語でも、[m] [p] [l]という3つの子音がつながっていて、最初に出てくる[s]を、[sh]に聞こえないように発音した後に、母音を入れないで3つの子音を発音するのは、それほどシンプルな話ではありません。日本語の「シンプル」は英語話者には[shin-pu-ru]のように聞こえてしまうので、英語のsimpleだと聞き取ってもらうには、意識して英語らしい音を出す必要があります。

[STEP2] なにはなくとも語彙! 仕事に使う英語は8000語必要

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英語を使えるようになるには、度胸も必要ですが、もっと必要なのは「ボキャブラリー」(vocabulary)つまり語彙です。

ちょっと海外旅行に行くから、というのなら中学レベルの語彙で何とか間に合うでしょう。けれど、仕事で英語を使おうという場合は、8000語は必要です。何かの問題について議論するとなれば、1万語は欲しいところです。北米の大学や大学院に留学して本格的に学ぶとなれば、やはり同程度の語彙力は必要で、アメリカの一流大学が入学の条件としているTOEFLスコアを見ると、およそ8000から1万語レベルであるのが分かります。ちなみに英語母語話者の語彙サイズは2万語くらいと言われています。

これは日本人にとってなかなかの関門です。現行の学習指導要領で定められている中高の6年間で学ぶ語彙数は、およそ3000語。たった3000語なのです。大学に入ってから、この3000語にどう上積みするかですが、残念なことに日本の大学生の英語力は、受験の頃が最も高く、入学後の半年で語彙は4分の1近くが失われるとされます。

大学4年間で増える語彙は個人によって相当なばらつきが出てくるので、平均値は増えたとしても1000から2000、つまり大学卒業時で4000~5000語くらいでしょうか。仕事で使う英語となれば8000から1万語が必要だというのに、これでは太刀打ちできるわけがありません。

文法訳読ばかりやって会話をやらないから仕事に使えないのではなく、そもそもボキャブラリーがまるで足りないのです。まずは、その厳しい現実を認識することから始めなければなりません。

「英語の壁」を乗り越えるために

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今回は英語に苦手意識を持つ人や、英語を勉強してはいてもなかなか上達しない、いわゆる「英語の壁」にぶち当たった人のために、最初に認識しておくべき2つのステップをご紹介しました。

講談社現代新書『本物の英語力』では、今日ご紹介した発音や語彙のほか、英語学習に必要なさまざまな要素について解説しています。挫折した人、必要があってどうしても覚えなければならない人、もっと上達したい人にとって、とても有益な学習方法のヒントとなることでしょう。

『本物の英語力』に書かれているポリシーは以下のふたつです。

  1. ネイティブ・スピーカーを目指すのではなく、自分が主体的に使える英語──「私の英語」を目指す。
  2. 英語を覚えようとするのではなく、知りたい内容、興味のある内容を英語で学ぶ。

たったこれだけですが、なんとなくがんばれそうな気がしてきませんか? ぜひこの本に書いてある英語学習の新常識を参考に、楽しく英語を学んでください。

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