人間は成長する過程でさまざまな経験を積んでいきます。しかし、自分の経験則や思い込みなどから誤った判断を下すことがあります。
ここ数年、ネットなどでも話題となり聞いたことがある人も多いでしょう。「認知バイアス」と呼ばれる思考の偏りです。
『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80』の著者で脳研究者の池谷裕二先生は、この「認知バイアス」を脳が無意識にしてしまう「思考のクセ」としています。「人は自分で思っているほど、自分の思考をコントロールできていない」のだそうです。気づかないうちに考え方のクセが出てしまうのですから、「ココロの盲点」と言えますね。
今回はあなたの「ココロの盲点」を、簡単な例題とともに探っていきましょう。
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求を続ける。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』(ともに講談社ブルーバックス)、『海馬』『脳はこんなに悩ましい』(ともに共著、新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。
どちらが好印象に見える?
イラストを見てください。二人の髪型は右分けと左分けで異なっています。
一般にどちらが好印象をもたれるでしょうか。
- 右分け(イラスト右)のほうが好印象
- 左分け(イラスト左)のほうが好印象
答えは、「右分けのほうが好印象」です。
一般に、右利きの人は、視野の左側を重要視します。右脳のほうが映像処理は得意だからです。
これを「擬似的空間無視(Pseudoneglect)」といいます。
魚料理は頭を左に置いたほうが食欲をそそりますし、本やポスターは左側にイラストを描いたほうが自然に頭に入ります。スーパーの目玉商品は左側の棚に並べたほうが売れます。
この脳のクセは、髪型や身だしなみ、お洒落や化粧にヒントを与えてくれます。他人から見られるときは主に、相手にとっての左視野、つまり自分の「右側」に注意が集まっています。そう、気合の入れ甲斐があるのは右半身なのです。
なかなか直せない思考のクセ「認知バイアス」
認知バイアスとは、思考や判断のクセのことです。このクセは曲者で、しばしば奇妙で、ときに理不尽です。しかし、どんなに非合理的に見えても、たいてい何らかの利点が潜んでいます。
実際のところ、私たちの「勘」は有益です。ほとんどの場面で、反射的に浮かんだ「直感」を信じて問題はありません。ただし、たまたま想定外の条件が揃うと、直感は珍妙な解答を導くことがあります。それが認知バイアスです。つまり、認知バイアスとは、脳が効率よく作動しようと最適化を進めた結果、副次的に生まれるバグなのです。
しかし、直感はいつでも正しいとは限りません。特殊な条件が揃うと、「勘違い」に陥ってしまうこともあります。
ヒトはみな偏屈で自分に都合よく世界を認識します。そうしなければヒトは考えることができないからです。
つまり、「歪める」という偏見フィルターは、私たちにとっての心であり、「考える」というプロセスそのものです。だから、脳に偏見があること自体は罪ではありません。
偏見自体に罪はないとはいえ、その偏見に気づかずに生きているとしたら、もしかしたら罪かもしれません。全員が「自分」を盲信したままコミュニケーションすると、不用意な摩擦が生じかねないからです。
今回は認知バイアスに関わる問題を出題します。あなたの脳がどれだけ勘違いしているか、どんな認知バイアスに陥っているかを見てみましょう。
自分の傘が見当たらない! そのときあなたは……?
突然に雨が降り出しました。
職場の傘立てを見たら、なんと、いつもの私のビニール傘がありません。
このとき、あなたはどう思いますか?
- 誰かが持って行ったかな
- どこかに置き忘れたかな
「能力の低い人ほど自分を過大評価する」らしいけど……?
「能力の低い人ほど自分を過大評価する」という「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれる傾向があります。
いわく、能力の低い人は、能力の低さゆえに自分のレベルを正しく評価できない。同様に、他人の能力も正しく評価できない。その結果、能力の低い人は楽観的に自分を過大評価する、というものです。
この事実を知ったとき、あなたはどう思いますか?
- いるいる、そういう人
- もしかしたら私がそうかも
どちらのロジックが正しい?
下記のふたつの文章のうち、あなたはどちらの推論過程が正しいと思いますか?
- ツバメは昆虫ではない。ツバメは鳥である。したがって鳥は昆虫ではない
- 昆虫は鳥ではない。ツバメは昆虫である。したがってツバメは鳥ではない
認知バイアスの例題、いかがでしたか?
解説を読んで、予想していたよりも自分の考えが偏っているかもしれない、なんて気づいた人も多いのではないでしょうか。
認知バイアスにはまだまだ多くの項目があります。『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80』では、そうした認知バイアスについて古典例から最新例までを慎重に80個選定し、クイズ形式で読み進められるように解説しています。
解説を読むごとに自分の胸に手を当て、自戒したくなるかもしれません。しかし、そうした自分の脳のクセを知れば、いまよりもずっと他人に対して優しくなれますし、きっと人間を好きになれるはずですよ。