私たちの身のまわりには、実にたくさんの家電製品が存在します。誰でもすぐに使えるのが家電製品のよさですが、その当たり前の使いやすさをさらに極めたり、機能を向上させるためにさまざまな技術が使われ、日々改良のための研究がなされています。
今回は、電子レンジ、炊飯器、エアコンなど代表的な5つの家電から、ためになるトリビアを5つご紹介しましょう。
電子レンジのマイクロ波は超高出力! 封じ込めの超技術とは?
電子レンジは、航空機の接近を捉えるレーダー技術の開発過程で、強力な電波を発振する機器の実験中に偶然誕生しました。電子レンジの中核となる「マグネトロン」です。マグネトロンは、加熱によって発生する電子を磁石の力で方向を変え、さらに空洞内で共振させることでより強い「マイクロ波」を作り出します。
電子レンジでは、2.45GHz帯の電波をきわめて高い出力で発振します。日本の家庭用では500W程度、コンビニなどの業務用では1500~3000Wという出力になります。家庭用の無線LANで最大10mW(家庭用電子レンジの5万分の1)、携帯電話で最大200mW(同じく2500分の1)、その基地局ですら最大で30W(同じく17分の1)ですから、いかに巨大な値かがわかります。これをマグネトロンから放出し、電子レンジ内で反射して内部の食品に当てるのです。
これほど強力な電波を使用していますので、電子レンジの内部はしっかりと金属のシールドで覆われており、食品を入れるドア部分も、ガラスの内側に金属のメッシュを入れることで、外に漏れ出る電波が少なくなるようにしています。「封じ込め」を施すことで、高出力の電波を使っても問題が生じないようにしているわけです。きちんとドアが閉じている状態であれば、動作中の電子レンジの前にいても、人間にはまったく影響がありません。
“板”状のものではなく、「網」のように穴があいているものでも電波が遮蔽できる理由は、電子レンジが発する2.45GHzの電波の波長が約12cmであり、これより小さな穴からはほとんど出ていかないという特質によります。小さな穴で構成された「網(メッシュ)」ならば、電子レンジからの電波の遮蔽という役割においては、金属板と同じような効果を期待できるわけです。
その上で各メーカーは、ドア部での電波の封じ込めと安全対策に力を入れています。ドアの密着度いかんで漏れ出る電波の量は変わりますし、そもそも、ドアが開いた状態では電子レンジが動作しないよう安全機構が組み込まれています。万が一ドアのスイッチが壊れて、ドアが開いたまま動いてしまうような状況になった場合には、レンジ内部のヒューズが飛び、危険な状態で加熱することがないよう配慮されています。
壊れていないのに炊飯器を買い換える理由とは?
誘導加熱で内釜が直接発熱し、米と水を温める
国内では現在、年間約600万台の炊飯器が出荷されていますが、このうち「故障」を理由とする買い換えは、約27%しか存在しないのです(パナソニック調べ)。実に4台に3台は、製品寿命がくる前に新商品へと買い換えられているのです。
炊飯器は、構造的には比較的シンプルな家電であり、故障の比率がかなり低く、製品寿命の長い製品です。ほとんどの家電、特に“白物家電”は故障するまで買い換えないケースが多いのですが、炊飯器だけがなぜ、「まだ使えるのに買い換える」人が多くいるのでしょうか?
調査によれば、その理由は「おいしいご飯が食べたいから」。特に近年は、6万円を超えるような超高級炊飯器の売り上げが伸びており、対照的に1万円以下の低価格製品の売れ行きは鈍っています。少々高価であっても、毎日食べるご飯だけに、しっかり満足したいという消費者の「こだわり」が反映された結果です。
それでは、炊飯器を手がけるメーカーはどんなご飯を「おいしいご飯」と定義しているのでしょうか? 実は、各メーカーの言葉はほぼ共通しており、「腕のよい料理人がつきっきりになって、土鍋で炊いたご飯」が理想とされます。
エアコンのドライと冷房、省エネはどっち?
みなさんは、「部屋を涼しくしたい」ときに、エアコンのどの機能を使っているでしょうか? 一般的な製品には、3つの使い方があります。「冷房」と「ドライ」、そして「送風」です。送風機能は、扇風機と同様、単に空気を送り出すだけです。最近のエアコンでは、モードとしてはあえて用意していない製品も出てきています。
気になるのが「冷房」と「ドライ」の違いです。日本の夏は高温多湿ですから、湿度を下げることで、気温は少々高めでも快適に過ごせるようになります。「冷房だと電気代がもったいないし、冷えすぎるのもつらいのでドライに」と考える人も多いようです。
エアコンで「室温を下げる」場合には、「熱交換」のしくみが使われます。この際、空気の温度が下がると、空気中にあった水分は気体のままではいられなくなり、液化して水になります。その水は、ホースを伝って室外に排出されるしくみです。逆にいえば、エアコンで気温を下げると、「自動的に湿度は下がってしまう」のです。
それでは、「ドライ」とはいったいどういう機能なのでしょうか? 私たちがドライ機能に求めるのは、「温度を下げすぎずに湿度だけを下げる」ことです。しかし、梅雨時のように特に湿度が高い環境では、湿度を十分に下げようとすると、どうしても同時に室温も下がりすぎてしまいます。
実は、暖房機能を使って冷えた空気を温め直すことで、気温の調節を行うのです。これを「再熱除湿」とよびます。一方で、ごく弱く「冷房」をかけることで除湿を行う場合もあります。再熱除湿では、湿度を下げるための「冷房」と、室温を上げるための「暖房」を同時に行う瞬間があるため、冷房運転よりも電力消費が上がってしまうことがあるのです。「ドライなら電気を食わない」は必ずしも正しくないので注意しましょう。
LEDは純粋な白い光を作ることができない!?
正孔を多く含む半導体(p型とよぶ)と、電子を多く含む半導体(n型とよぶ)が接合した場所で正孔と電子が結合すると、発光する
現在の照明に使われているのは、俗に「白色LED」とよばれるものです。といっても、純粋に白い光を出すLEDは存在せず、光の色の組み合わせで白く見せています。
一般的には、青色LEDを黄色い蛍光体で覆い、青い光が黄色い蛍光体を光らせる際の色が白に近くなる現象を利用して、「白色」を表現しています。「補色」とよばれるしくみです。青と黄色の組み合わせの他に、青+赤・緑の蛍光体で白を作る場合もあります。この場合は、完全な白ではなく、いくぶん青白い光になるのが難点です。
赤・緑・青の3色のLEDを組み合わせて作ることで、より自然な白を表現できますが、どうしても高価になるため、一般的な照明には不向きです。最近は、この3色ではなく、青と黄色の2色のLEDを組み合わせて、補色のしくみで白を作る照明用LEDも増えています。
電動シェーバーの「~枚刃」の数にはどんな意味があるの?
シェーバーは、内刃と外刃の組み合わせでヒゲを剃ります。ヒゲが外刃の「穴」に入り、それが内刃で切られるしくみなので、大前提として「外刃にヒゲが入る」必要があります。単純に2種類の刃を組み合わせただけの構造では、外刃に十分な量のヒゲが入らず、剃り残しが多くなるのです。
確実にヒゲを剃るには、外刃がいかにうまくヒゲを起こし、内刃へ導くかが重要です。そのため外刃には、「ヒゲを持ち上げる機能」と、「ヒゲを立ったまま内刃に当てる機能」の両方が求められます。2つの機能の両立を図るために、外刃を1種類だけ使うのではなく、「複数の構造のものを組み合わせて使う」手段がとられています。
シェーバーの性能表示には、「3枚刃」「5枚刃」といった表現が用いられます。これは、「違う役割をもつ外刃を何枚組み合わせた製品であるか」を示すものです。基本的には、刃の枚数が多いほど皮膚にあたる刃の面積が広くなり、皮膚に対する圧力が分散します。その結果、剃り味がやさしくなり、剃り終わりまでの時間も短くなる傾向にあります。刃の枚数が多いほど高級機種である、ととらえていいでしょう。
家電製品のトリビアいかがでしたか? 実はまだまだ家電製品にはたくさんのヒミツがあります。どれも最新の技術を活用し、使い勝手や置き場所に工夫と知恵を絞り、省エネなどさまざまな課題にチャレンジしたものです。私たちがふだんなにげなく使っている家電は、各メーカーの技術の結晶なのです。
『すごい家電 いちばん身近な最先端技術』には、身近な家電の仕組みやメーカーならではの工夫が満載。パナソニック株式会社の協力のもと、すべての製品の開発担当者に取材をした結果を反映し、家電のトレンドを探ります。家電の成り立ちや日本と欧米での家電文化の違いなど、ためになる雑学ばかりです。家電って本当にスゴイ!
ミニチュア製作・撮影:水島ひね
写真提供:パナソニック株式会社
『すごい家電』カバーに使われているかわいらしい家電ミニチュア。こちらを製作・撮影してくださったアーティストの水島ひねさんが、その制作過程をWeb上で公開されています。