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2026.10.15

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総理大臣の買春疑惑、芸能人の薬物汚染……容赦ない権力批判を貫いた『噂の真相』25年の軌跡

1979年に創刊し、2004年に惜しまれつつ休刊となった雑誌『噂の眞相』。政界や大企業から、芸能界や黒社会まであらゆるものを標的とし、歯に衣着せぬ言動で各業界から恐れられた伝説のスキャンダル雑誌である。本書はその創刊時からの執筆陣のひとり、佐高信が「内側から」編集部の真実に迫った一冊である。

主にフィーチャーされるのは、『噂の眞相』発起人にして名物編集長だった岡留安則。常にサングラスをかけ、謎めいた人物と評されることもあったが、実は飄々とした好人物で、よき上司でもあったという。しかも、女性にモテた。本書に収録された常連ライター・中森明夫と著者の対談から引用しよう。
中森 在りし日の岡留安則さんを知る人は、口を揃えて「岡留イズム」と言います。岡留さんという人は、編集者として極めて傑出していました。いつも真っ黒いサングラスをかけていて素顔が見えないし、「左翼活動家出身で怖い人だ」というイメージをもっている人が多い。ところが実際会ってみると、岡留さんはものすごく優しいし紳士的なんです。これは佐高さんにも共通する点だけど、実は癒し系なんですよ。偉ぶらない。自慢話をしない。若い連中を前にマウントを取らない。セクハラをしない。女性にお酌なんて絶対させない。
そんな編集長の人柄と、どこにでも斬り込んでいく雑誌としての攻撃性は、水と油のようで実は一本筋が通っていたこともわかる。筋金入りの反骨精神と、恐れ知らずの豪快さ、そして他者への優しさ、仕事仲間との信頼関係は、決して矛盾しない。『噂の眞相』編集スタッフをつとめた神林広恵のエピソードからも、岡留の魅力的な人間性が伝わってくる。
神林が初めて自分が書いた記事で訴えられた時も岡留は〈編集者は訴えられて一人前〉と言っていた。岡留が神林と共に東京地検特捜部に起訴された時も〈公訴記念で飲みに行くか〉と社員を引き連れて朝まで宴会。確かにこういう神経でなければ『噂の眞相』は続けられなかっただろう。
どっしり構えてくれる上司ほど、頼りがいのあるものはない。さらに、その編集姿勢には独自の審美眼があった。
スタッフは、いま注目されている人物を取り上げて叩こうとしたが、岡留はその人間が権力側なのかどうかにこだわった。〈大衆の共感が得られない〉とか、〈斬ってるほうが陰惨に見えるような斬り方はしたくない〉と、よく言っていた。神林広恵が語る。
〈岡留さんって実はすごくピュアなんだよ。本気で反権力をやろうとしていた人だった〉
それでも、下世話なゴシップ雑誌というパブリックイメージは根強く、そのイメージに拍車をかけたのが風俗雑誌のような誌面広告だった。が、実はそれもまた雑誌自体の中立性を保ち、企業の横やりを避けるための方策だった。広告なしでは成立しない(時には編集方針まで広告主に左右される)雑誌運営にかかわったことのある人間なら、思わず唸ってしまうところだろう。
その後、売れ行きが伸びるにつれてリクルートや武富士から「広告を出したい」と申し入れがあったが、雑誌のイメージと違うからと断った。ただし、風俗系の広告は基本的にOKして載せていたら、連載執筆者の斎藤美奈子に休刊号で批判された。岡留はこう言い訳している。
〈まぁ確かに品は落ちますけど、
(略)言論の自由を守るという意味では非常に助かった。でも、読者だという地方の教師あたりから、「荒木(経惟)さんの連載と扉イラスト、それから風俗系の広告。この3つをやめてくれれば、生徒にも勧められるのに」と言われ続けました〉
同じ雑誌編集長としての横顔を持ちながら、主力ライターとして活躍した著者は、岡留に対して深い共感と共闘意識を持っていたメンバーのひとりである。作家、のち政界デビューも果たした田中康夫との対談でも、『噂眞(うわしん)』仲間としての信念と矜持がほの見える。
〈書きたいことが書けなくなったら物書きやめるのは当たり前の話。それが多くのマスコミ人たちはそういう構えで書いていない〉と私が言ったのに、田中が〈一般論として俺たちの配慮とは違うね、弱者に対して。俺たちの方が本当に神経使ってるよね。書いちゃいけない人のことや、文章の表現を〉と補足したので、私は〈何を書いているかより、何を書いていないかを見るとよく分かる人もいる〉と指摘し、田中も〈なるほど〉と頷いた。
あとがきで、著者は「岡留への感謝と葬送の手向け」として本書を捧げている。2004年の休刊時には、著者をはじめ馴染みのある多くの書き手が参加し、その終了を惜しんだ。
辺見庸は『噂の眞相』の2004年4月号で永江朗に80分間のインタビュー中、「残念」という言葉を7回使ったという。
〈残念だね。残念の一言ですよ〉
この号をもって『噂眞』が休刊するのを残念だと言い〈ある種の悲しささえ感じるよね〉とつけ加えた。〈侵略の暴力も抵抗の暴力も一緒くたにしてしまう隠微なメディアのファシズム〉の中での『噂眞』の休刊は〈敵前逃亡みたいなことじゃないか〉と辺見は〈口調は冗談めかして、しかし目は真剣に〉言ったらしい。
その雑誌の存在は、いわば日本社会全体に上下の境なく監視の目が行き届いていることを示すかのような、下品ぶってワルぶった顔をした「暗闇の騎士(ダークナイト)」のような存在だった。それがいまや存在しないことに、危機感と寂しさを痛感させられる。

終盤、本書は『噂の眞相』表4(裏表紙)に14年間も広告を出し続けた、株式会社ビレッジセンター元代表取締役社長・中村満と著者の対談を掲載する。この「内幕劇」がすこぶる面白い。中村氏が初めて『噂の眞相』編集部に岡留編集長を訪ねた時の思い出話では、予想外の名前が飛び出す。
中村 (前略)ふと下を見ると、乱雑にお中元が積まれていました。一番上の荷の熨斗を見ると、送り主は野村秋介、品物は「味噌」でした。思わず背筋が伸びました。野村秋介さんからお中元が届く――。こんなことは、普通の会社ではまず考えられません。
「野村秋介 右翼 大物」で検索すれば、ネット上でもさまざまな逸話に出会えるはずだ。岡留安則という人の幅広い人脈と、フットワークの軽さ、揺るぎない反骨精神に、いまこそ憧れる若者も出てくるのではないだろうか。

レビュアー

岡本敦史

ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。

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