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2026.09.30

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アベノマスク予算1000億円、ガソリン補助金……税金はどこへ行くのか?

ここでは良心に抗うことなく仕事ができます

「血税」って言葉があるじゃないですか。税金は、国を、世の中を回していくための血液みたいなものですから、言いえて妙なんですが、ちょっと生々しいっていうか、税金チュウチュウ吸われているイメージ? チュウチュウならまだいいんですけど、最近、ゴクゴクじゃね? なんて感じませんか。私は感じています。きっついよねー、税金。

そういう私たちの税金、ひいては日本の財政。そういうものはムダなく、キレイに、そして節約して使ってほしいもの。そんな税金の使い方、日本の財政に目を光らせているお役所があるんです。それが会計検査院。知っていましたか? 私、まったく知りませんでした。
会計検査院は、国費が投じられているものはすべて例外なく検査を行い、問題が見つかれば、それを担う省庁や自治体に対して正すように指摘をする国の財政監督機関である。
設立されたのは内閣や国会よりも前のことで、前身となった組織は、大隈重信によって明治2年に作られたという歴史を持っています。組織運営や検査内容への外部からの干渉や介入を防ぐための独立性。そして検査に必要な情報提供を求める権利や、相手はそれに応じなければならない義務などの検査権限。これがしっかり法律で定められた組織で、いわば「国の財布を見張る無敵の経理部」です。

本書の著者は、この会計検査院の検査官として、また院長として計5年半務めた田中弥生氏。天皇陛下からお言葉をいただいて、会計検査院の検査官となったのは59歳のこと。日本光学工業(現・ニコン)に総合職として入社し、結婚を機に退社。主婦業を経て財団、政府系金融機関、大学、独立行政法人、個人事業主などを経ての8つ目の職場が、会計検査院だというのですが、一発ツッコませてください。
「なんて経歴だっ!」
もし、この著者が自伝を書かれたら、またレビューを書きたいです。

なかでも主婦業をしていたときに、義父が経営する鰻店を手伝った話が面白いんですよ。あまりの不器用さに、店頭での仕事がまったくできないし、経理のスキルもない。そこで与えられた仕事は、スーパーで売られている真空パックのうなぎが、いつ腐敗するか観察すること。賞味期限が切れても腐敗しないことを義父に報告したら「メーカーに電話して尋ねなさい」と言われ、そこで賞味期限表示がどういう基準で設定されるかを知ったそうです。
義父が無言で教えてくれたのは「物事は自分の目で確かめ、疑問があったら直接確認してみること」の大事さだった。
それは書類のチェックにとどまらず、検査対象となる職員への面接や、事業の現場、工事現場にまで出向く会計検査院の仕事の根本と同じ。人生の経験に、不要なものはないって本当ですよ。
そんな著者の経歴のほか、会計検査院の歴史や役割、実際にどんなことをしているのかについて、第2章まで書かれているのですが、これがもうめちゃくちゃ面白いし、興味深い。日本の省庁から地方自治体、警察、税務署まで「お役所なんて、どうせ、しがらみで雁字搦めなんでしょ」みたいに思っていましたが、
会計検査報告について、少なくとも私が在籍中に、外部から“横槍”が入り、修正を求められることは一度もなかった。その意味で良心に抗って仕事をしていると思ったことはなかった。
そう言い切れる組織が、国の中枢に存在していることに「スゲー!」と感心しかなかったです。

“溶け込む”補正予算って、ヤバくないですか?

会計検査の目的は大きく二つある。
一つは、財政運営の監督を行い、改善を促すこと。もう一つは、決算の確認であり、数字が正確かつ会計経理の内容が妥当であることを確認する。
「そうやって税金の無駄遣いを監視してくれているのね」と、思うかもしれないが少しニュアンスが違う。
会計検査結果について、メディアがたびたび“税金の無駄遣い”と表現することがある。だが、会計検査院は“無駄遣い”という表現はしない。無駄遣いかどうかは個々人の考えや主観によるものと考えるからだ。
会計検査院の職員は、正義感や社会的問題意識を持っていても、「問題の所在を示す情報や分析結果」と「それが不適切であるという法や規則」の二つが揃ってはじめて指摘の根拠とする。そこは決して曲げない。そんな「愚直」な姿勢で切り込んでいくのは、何百億円、何千億円、何兆円という数字が飛び交う国家予算。本書では、その例の一つとして令和2年の布製マスク配布事業、いわゆるアベノマスクに投入されたお金の行方を“丸裸”にしている。

この事業の予算は1044億円。会計検査院が弾き出した製造、運搬・配布にかかったマスク1枚のお値段、約179円也。なんだか、怒るほど高くもないけど、ありがたくもない。そもそもあのマスク、小さかったよね(どうも製造会社に渡されたサンプルが、学校給食用だったらしい)。また、会計検査院の検査により、マスク製造のための「仕様書」が存在しなかったことが分かっている。ちゃんと検品もしていなかったので不良品が出てきて、あわてて検品を始めるのだけど「仕様書がないから、どうしようもない」というシャレにもならない事態に……。そうしたドタバタのすべてに億単位のお金が注ぎ込まれている。過去に例のない大規模調達とスピードが求められたのだから、しょうがないっちゃあ、しょうがないけど……、でも1044億円だよ。

新型コロナ感染症対策にかけられた3年間の国費は、国の1年分の予算(約100兆円)に匹敵する。そこで検査された事業は以下のとおり。
実は「新型コロナウィルス感染症対策」として行われた給付金・補助金・交付金は、その後「物価高騰対策」の名前を加えて引き継がれている。日本の政治家なのか、省庁か官僚か知らないけれど「一回予算を獲得したら、手ばなさない」という習性があるようです。

さらに本書では、さらにガソリン補助金や電気・ガス補助金、賃上げ税制・教育訓練費上乗せ制度について、「どれくらいの金額」が「どう流れているか」を明らかにする。そこから見えてくるのは、(悪意を持って見ると、すべてが怪しく見えるくらいに)複雑なシステムと、厄介な仕事を押し付けられて疲弊する地方自治体の現場。消費税減税とか、中低所得者向け給付金とか、今、議論されていることと、この本に書かれていることを突き合わせると、「スピード感をもって……」などと簡単に言う政治家にイラッとすること間違いなし。
なかでも「これは大丈夫なのか?」と思ったのが、補正予算について。ニュースなどでよく耳にする「補正予算」だけど、簡単に説明すると、予算作成後に生じたことで、特に緊急に必要となった経費のための追加予算のこと。
補正予算の特徴として挙げたいのが、決算書上で補正予算が“溶け込む”という点である。他の予算項目に補正予算が含まれてしまう(溶け込む)ので、補正予算だけを取り出して、いくら使ったのかを見ることは、この国の決算制度上できない。
会計検査院が、戦後からずっと手出しできなかった部分、それが補正予算だった。しかし令和5年度に、補正予算(この年の補正予算は13兆1992億円)の執行状況を明らかにすることに成功。その手法が、職員が各府省の会計担当を1件ずつ回って尋ねるという超泥臭い手法。職員たちの「でもやるんだよ!」というスピリッツに泣けてくる。そこで組まれた補正予算はどうなっていたのか? 詳しくは本書を読んでほしいのですが、かなりの額が繰り越されていた(使われなかった)のだ。「ちょっと待てよ!」って話ですよ。補正予算の財源の多くは赤字国債で、将来世代への負担の先送り。きちんと予算を使い、なんらかの効果を得たのならまだしも、使えなかった予算が国債の利子を生んでいる構造は「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉー」じゃないでしょうか?

「上手にお金を使う」のは、大変に難しい。家計レベルでも思い悩むのに、それが国レベルになればもっと難しいでしょう。それは分かる。ムダ金も生まれるだろうし、失敗もするでしょう。でも大切なのは振り返り、評価を受け止め、改善すること。そのために、子どもなら「おこづかい帳」、一家なら「家計簿」をつける。そして国は「会計検査院の検査報告書」をもとに改善する。その一連の流れを、メディアと国民で監視すること。とても大事なことなのに、会計検査院の仕事はあまりに知られなさすぎ(ようやく会計検査院もそれを認識して、意識を改めている途中のようだ)。これ本当に、本当に大切なことだから、まず手始めにこの本を読んでください。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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