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2025.02.21

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世界最悪の借金大国、日本に迫る危機。現役世代へのツケ回しはもう限界!

「あの頃はよかった」と、今の暮らしを思い出す時代がやってくるのだろうか。本書は日本の財政運営の現状と今後について、数々のデータを基に警鐘を鳴らす二人の著者により執筆された。本書の「まえがき」には、以下のように担当区分が説明されている。
本書では、第1部と第2部、第3部の第3章(地方財政)と第5部(財政再建アラカルト)を河村が、第3部の1~2章(社会保障・年金)、第4部(税制)を藤井が担当しました。
著者の一人である河村氏は日本銀行を経て、民間のシンクタンク・株式会社日本総合研究所へ入社した。現在は同社調査部にて主席研究員を務めるかたわら、財務省財政制度等審議会財政制度分科会委員を兼務している。過去には国税庁や厚生労働省において、国税や社会保障について議論する審議会委員も歴任した。

もう一人の著者である藤井氏は、参議院事務局へ入局後、国会審議を支える国会職員として36年間在籍した。その内の28年間は、政府が提出する予算の審議のための調査や分析などの業務に従事し、参議院予算委員会調査室長も担ったそうだ。現在は白鴎大学法学部にて教授を務めている。

そんな二人による本書には、現状への危機感と未来への願いが込められている。まずは本邦の財政再建について、私たち国民の間になぜ危機意識が共有されていないのか、二つの理由が挙げられていく。1点目は我が国に「客観的かつ中立的な前提に基づく経済・財政の見通しが存在しない」こと。そして2点目は、財政収支の改善策だけでなく、現行の税制や歳出の制度、負担と給付の関係の公平性について、政府から国民に向けた情報が十分にいきわたっておらず、主権者たる私たちもよくわからないまま今に至っている、という点だ。それらを踏まえた上で河村氏は、本書の目的をこう語る。
他の主要国で行われているような、客観的、中立的な前提に基づいて試算したとき、我が国の財政運営はこの先、このままではどういう事態に見舞われることになるのか。そうした事態を何とかして回避するためには、どの程度の財政再建、財政収支赤字の改善が必要になるのか。そのためには、主要な歳出の各分野において、また税制の面でどのような改革の選択肢があるのか。こうした点をぜひ、読者のみなさまがたにご覧いただきたいと考えました。
そうした狙いのもとに未来の可能性を検討していく本書の内容は、どのテーマであってもずしりと重い。過去と現状を分析し未来を予測する第1部につづき、第2部では金利の推移予想や新規国債の発行パターン、インフレの予想にも触れた上で、かつて財政破綻に見舞われた他国がどのような対策を講じて危機を脱してきたのかを、日本の現状と比較しながら提示する。そうして第3部の冒頭では、「我が国の財政運営はすでに事実上、持続不可能な状態に陥って」いると指摘した上で、改善点を模索する。
第2部のシミュレーションからは、我が国全体として今後、改善しなければならない財政収支の幅は30兆円規模に及ぶことになります。いきなりこの規模の歳出削減を行う、あるいは歳入の増加を図ることは困難ですが、財政が危機的な状況にあることを考えれば時間的な余裕はあまりありません。
特に第3部以降の歳出削減の詳細については、医療保険や介護保険などの制度の見通しから年金と税収の関係に至るまで、明るい展開が見当たらない。昨今、上がり続ける物価を前に、ため息どころか悲鳴を上げている方も多くいらっしゃるだろう。そんな状況下では頷きがたい提案も多くあり、思わず本を閉じてしまいたくなったのも正直なところだ。

しかし、目を背けても現実は変わらない。第5部に掲載された「歳入」と「歳出」別の「財政再建アラカルト」リストは著者お手製で、全体を見通すのに適している。特に、リストの右端に記された「負担増(受益減)となるのは誰か」「カットした場合の影響」を眺めるだけでも、私たちの取るべき道が見えてくるかもしれない。
みんながいい思いだけを続けられるといううまい話はありません。その裏には必ず相応の負担を伴うものです。「受益」と「負担」はコインの裏と表です。
この国でこれからも安心した生活を送るために、何を選び、どのような政策を支持していくのか。今一度考えてみたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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