本書では、第1部と第2部、第3部の第3章(地方財政)と第5部(財政再建アラカルト)を河村が、第3部の1~2章(社会保障・年金)、第4部(税制)を藤井が担当しました。
もう一人の著者である藤井氏は、参議院事務局へ入局後、国会審議を支える国会職員として36年間在籍した。その内の28年間は、政府が提出する予算の審議のための調査や分析などの業務に従事し、参議院予算委員会調査室長も担ったそうだ。現在は白鴎大学法学部にて教授を務めている。
そんな二人による本書には、現状への危機感と未来への願いが込められている。まずは本邦の財政再建について、私たち国民の間になぜ危機意識が共有されていないのか、二つの理由が挙げられていく。1点目は我が国に「客観的かつ中立的な前提に基づく経済・財政の見通しが存在しない」こと。そして2点目は、財政収支の改善策だけでなく、現行の税制や歳出の制度、負担と給付の関係の公平性について、政府から国民に向けた情報が十分にいきわたっておらず、主権者たる私たちもよくわからないまま今に至っている、という点だ。それらを踏まえた上で河村氏は、本書の目的をこう語る。
他の主要国で行われているような、客観的、中立的な前提に基づいて試算したとき、我が国の財政運営はこの先、このままではどういう事態に見舞われることになるのか。そうした事態を何とかして回避するためには、どの程度の財政再建、財政収支赤字の改善が必要になるのか。そのためには、主要な歳出の各分野において、また税制の面でどのような改革の選択肢があるのか。こうした点をぜひ、読者のみなさまがたにご覧いただきたいと考えました。
第2部のシミュレーションからは、我が国全体として今後、改善しなければならない財政収支の幅は30兆円規模に及ぶことになります。いきなりこの規模の歳出削減を行う、あるいは歳入の増加を図ることは困難ですが、財政が危機的な状況にあることを考えれば時間的な余裕はあまりありません。
しかし、目を背けても現実は変わらない。第5部に掲載された「歳入」と「歳出」別の「財政再建アラカルト」リストは著者お手製で、全体を見通すのに適している。特に、リストの右端に記された「負担増(受益減)となるのは誰か」「カットした場合の影響」を眺めるだけでも、私たちの取るべき道が見えてくるかもしれない。
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みんながいい思いだけを続けられるといううまい話はありません。その裏には必ず相応の負担を伴うものです。「受益」と「負担」はコインの裏と表です。