著者は執筆の目的を「これから迎えることになる人口減少時代において、日本経済の構造がどのように変化していくかを予想すること」にあるとし、その軸足についてこう語る。
本書の特徴として、労働市場を起点に経済全体の構造を捉えているということがあげられる。これは労働市場の分析が私の専門であるからという点が大きいが、これまでの日本経済の状況を理解するうえで、労働市場を起点として考える方法が結果として、最もあてはまりが良かったと感じるからでもある。
本書は3部構成となっている。第1部では統計データの分析を基に、近年の人口減少が日本経済にどんな構造変化をもたらしたのかを、10の項目に分けて挙げていく。たとえば変化5の「賃金は上がり始めている」や変化8の「膨張する医療・介護産業」については、ニュースで見聞きしている方も多いだろうし、わが身で実感している方もいるだろう。一方で意外だったのは、変化4の「正規化が進む若年労働市場」だ。
非正規雇用者は過去からずっと右肩上がりで増加してきたが、近年ではやや減少傾向に転じている。非正規雇用者数は2019年に2173万人で過去最高を記録、その後2023年には2112万人と若干減っている。結果として、非正規雇用者比率は2019年の38.2%から2023年には36.9%に低下している。
労働市場の環境変化に応じて、企業側も行動を変え始めている。人手不足がさらに深刻化する将来に向けて、長期的な就労を見込める若い人たちを中心にフルタイムで働く意思のある人は正規雇用で優先的に確保してしまおうと企業側も戦略を変えているのである。こうした労働市場の構造変化は、非正規雇用比率の平均値だけをみていては見誤る。高齢労働者などが増える中で全体としては短い時間で働く人が増加しやすい環境にあるなかで、丁寧にみていけば非正規雇用のあり方は大きく変わってきていることがわかる。
続く第2部では「機械化と自動化」と題し、AIやIoT、ロボットなどに代表されるデジタル技術の活用と、それによる業務効率化や生産性の向上の実例が紹介されている。具体的には、建築や運輸、販売関連などの身近なサービス関連の職種のほか、ホテルや医療、介護の現場における事例が紹介されていた。たとえばある特別養護老人ホームでは、業務の15%を占める見守りと巡回業務を、こんな形で改善している。
「フロース東糀谷(ひがしこうじや)」では、膀胱(ぼうこう)の尿量などから排尿のタイミングを予測して通知するデバイス「DFree Professional」(DFree)、マットレスの下に敷いて眠りの深さ・ベッドでの状態・バイタルを計測するシート「眠りSCAN」(パラマウントベッド)を利用している。こうしたセンシング技術により、利用者の排尿のタイミングや眠りの深さなどを施設の管理室などから把握できるようになり、適切なタイミングでトイレに誘導できることが増えたという。
最後となる第3部では、日本経済の先行きに関する8つの変化が予想されている。私たちがこれから迎えるであろう未来を、少しでも早く知るために。図表やグラフ、写真も多く収録され読み応えたっぷりの本書を、ぜひ手に取ってほしい。