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2026.08.31

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うつ病や認知症の予防・治療法から、心のはたらき、AIを使った技術まで。「脳」の最新研究!

読み終わると、「集中講義」を受け終えたような心地がした。編者の日本神経科学学会は、日本の脳・神経科学研究者の多くが集う、神経科学に関する代表的な学術団体だ。1974年に「日本神経科学協会」として創設され、1991年に現在の名称となった。毎年、神経科学研究の成果を発表する大会を開催しているが、本書は、その大会内で行われるイベントをもとにしている。
本学会では、2015年から「脳科学の達人」という市民公開講座を開催しています(巻末付録参照)。毎年、日本神経科学大会の最終日に、神経科学の第一線で活躍する新進気鋭の科学者が登壇し、自身の研究分野の背景から最新成果、そして未来への展望までを、一般の方にもわかりやすく語ります。講座は公開後にアーカイブ化され、YouTube(youtube.com/@日本神経科学大会 以下略)を通じてだれでも視聴できるようになっています。専門家向けの学術大会から、市民へ向けて研究の熱気を直接届ける場。それが「脳科学の達人」です。
こうして10周年を迎えた「脳科学の達人」の熱気は、4部構成で全10章からなる本書にも、しっかりと収められている。各章を担う科学者は、「脳科学の達人」として、限られたページ数の中で、それぞれの研究とその成果、そして未来への展望をわかりやすく展開する。

章の冒頭には、研究者のユーモラスなイラストが添えられていて、いずれもつい微笑んでしまう可愛らしさ! おかげで肩の力も抜け、次の章へたどりつく楽しみもできた。内容を補足する図版も豊富にあり、そのつど読者の理解を助けてくれる。
中でも興味深かったのは、第9章の「脳から心を読む──ブレイン・デコーディング」(神谷之康 京都大学教授)だ。それは脳の活動を「心的内容を表現するコード(暗号)」としてとらえ、「fMRI(機能的磁気共鳴画像法)」を用いて、脳内の血流の変化からその活動を測定し、心の動きを解読(デコード)する手法だという。「そんなことができるの!?」と思ったが、この方法が開発されたのは2005年、すでに20年以上前のことだが、今では世界中で活用されているそうだ。
ブレイン・デコーディング技術の応用例としては、ほかにも「BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)」が考えられます。BMIとは、脳の活動を読み取って、機械などを脳で直接操作する技術のことです。BMIを使えば、事故や病気などで体の一部が動かなくなった人が、脳で直接コンピューターや義肢などを操作することができます。
フィクションで描かれてきた世界が、いつの間にか具現化されていたことに驚いてしまう。未来は空想の中に終わるものではなく、地道な研究の積み重ねの先にあるものだと実感した。

では、そうした研究を支えているものは何なのだろう。それは冒頭のあいさつの言葉(林(高木)朗子 理研CBSチームディレクター)に見て取れた。
本書を通して感じていただきたいのは、完成された知識の一覧ではありません。むしろ、科学がまさに進んでいる現場の熱気です。わからないことがあるからこそ、研究は始まります。予想と違う結果が出るからこそ、次の問いが生まれます。神経科学の歴史は、仮説を立て、実験し、ときに間違い、また考え直すことの連続です。科学的に考えるとは、すぐに答えを決めつけることではありません。不確かさを引き受けながら、少しずつ確かなものへ近づいていく態度のことです。
「わからない」という状態は、私たちの不安を呼び起こす。つい疑心暗鬼になり、わかりやすい結果や言葉に惹かれることもあるだろう。それでも、「科学的に考え」続けた先人たちが得てきた果実は、私たちの生活をよりよいものへと変えてきた。妄信するのではなく、未知の世界に目を凝らしながら、恐れずに前へ進んでいく──その誠実な姿勢に胸を打たれた。

進路について考えている高校生はもちろん、脳科学の現在に興味がある方にもうってつけの本書。私たちの健康や生活にも深く関わる脳科学の今と未来を、存分に知ってほしい。
イラスト:芦野公平
イラスト:芦野公平

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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