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2026.08.21

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兵士はなぜ敵に突撃していくのか──。戦争を成り立たせる人間の心理とメカニズム

81回目の、戦後の夏を迎えた。過去に思いを馳せるとともに、頭をよぎるのは現在の世界情勢だ。各地で戦争が続く中、この国が今でも「戦後」と呼べる時間の中にあるのは、稀有なことに違いない。この時を続けるために、私たちにできることは一体なんだろうか。
本書は Alain:Mars ou la guerre jugée『マルスあるいは裁かれた戦争』(一九三六年)の抄訳である。原著には、第一次大戦後間もなく発表された、序文および九十三章からなる一九二一年版と、第二次大戦の足音の高まりを聞きながら、二一年版に新たに二十章を追加して出版された、一九三六年版がある。
著者のアランは哲学者で、哲学教師として働くかたわら、プロポ(哲学断章)と呼ばれる文章をつづった。本書は、彼の名を世に知らしめた『幸福論』と同じプロポの形式で、テーマごとに数ページの短い文章が続いていく。

訳者である白井成雄氏によれば、本書は1936年版の「全百十三章から五十一章を採用」したものだ。章を選ぶ際には、「第一次大戦当時の時事的予備知識が余りなくても素直に読める章、戦争に走る人間の心理・情念が直接の主題になっている章をなるべく取り上げた」という。本書の原本は1986年に小沢書店より刊行された。今回の文庫化を機に、白井氏の遺した赤字をもとに、一部訳文は改められている。

また白井氏は訳者あとがきで、本書について、こう触れている。
一読されれば解るごとく、本書は第一次大戦に参戦したアランが、自分の体験を基にして一市民の立場から記した反戦論である。当時の彼の体験の内には、核兵器の存在はもちろんのこと、前線・銃後の区別なく市民・婦女子すべてを捲きこんだ第二次大戦も存在していなかった。それゆえ、彼の言葉の端々にはやや時代のずれを感じさせる点もなくはない。しかし軍事技術が如何に変遷を遂げようと、自らの手に武器を取り、あるいは他人の手に武器を取らせて相争う人間の心理、生理、その身体構造には、歴史を超えて変らない面が大きい。
「歴史を超えて変らない」部分は、目次からも伝わってくる。「愛国心」「人間の尊厳」「教養」「法と力」「否と言うこと」──人が社会を形成し、生きていく上では、いずれも欠かすことのできないテーマであり、現代を生きる私たちにも答えが求められる問いといえる。

中でも強く惹かれたのが、「主権者」の章だった。
政治は群衆の迷蒙でしかなく、個人は奴隷にすぎないのか。そうでないとすれば、世論の形成にあたって、個人が自分一人で、自分の力量で判断を下すべき瞬間があるはずだ。それも、皆と同じ考えしかもてない狂信家連の方法に依ってではなく、孤独と自由を意志的に守る人間の存在を前提とする、あの真に科学的な方法に依ってである。要するに、世論が戦争を可とするか否かを知る前に、自分が戦争を可とするか否かを知らねばならない。その際、私自身の思想と感情以外に、私を左右する人為的事象は存在しない。私は主権者なのだ。私が将来について何を予想するかではなく、何を望むかが問題なのだ。純粋に倫理的な問題なのである。これを避けて通ることはできない。
「私は主権者なのだ」の一言に、ハッとさせられた。他の誰でもない。自分自身が何を望み、何を選ぶのか。今日、ニュースやSNSでは、さまざまな意見が飛び交っている。その基となる情報の正しさを見極めることも難しい。それでも、私が私であるよりほかはない。だからこそ、自らに問い続ける必要がある。

そしてアランは「判断」の章で、次のように言葉を重ねている。
現実ではなく、理想が問題となる時は、このように振舞わねばならない。精神的譲歩は一歩たりともせず、固く戦争を否定せよ。戦前も、戦中も、戦後もそうすべきだ。なぜなら、人々の賛同こそ戦争に生命を与えるものであることを、君は良く承知しているではないか。何よりもまず戦争に養分を与えないことだ。
私たちそれぞれの意思と望みが、良くも悪くも力となりうる。そのことを今一度心に留めて、アランの言葉とともに、これからの世界を形作る一人として、何ができるのかを考え続けたい。

裁かれた戦争

著 : アラン
訳 : 白井 成雄
解説 : 田中 祐理子

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レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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