小生、南極が大好きである。タイトルに「南極」が付いた映画は必ずチェック、アニメ『宇宙よりも遠い場所』に、ノンフィクションなら『不肖・宮嶋南極観測隊ニ同行ス』、漫画なら『ふじと南極のなかまたち』……。あと「悪魔のおにぎり」を考案した第57次南極地域観測隊の調理隊員・渡貫淳子氏の講演会にも行ったことがある(楽しかった!)。もちろんペンギンも好きだ。ペンギン好きの聖地「長崎ペンギン水族館」には残念ながら行ったことがないけれど、埼玉県こども動物自然公園のフンボルトペンギンは、よく見に行った。広大な敷地のいっちゃん奥に「ペンギンヒルズ」という生息地を再現した施設があり(そこまで歩くのが大変)、すぐ目の前を「よう来たな」って感じでペンギンがウロウロしている。
世界には1億羽以上のペンギンがいるが、そのうち70%近くが亜南極圏以南で生活している。しかし、種類に注目すると18種いるペンギンのうち南極でしか繁殖しないものはエンペラーペンギンとアデリーペンギンの2種だけ。
北極のシロクマに対して、南極のペンギンというイメージがあるけど、ペンギンはニュージーランドや南米、南アフリカなど南半球の広い範囲に生息している。埼玉県こども動物自然公園のフンボルトペンギンも、チリやペルーの温帯に生息する種だ。氷点下60度の極寒のなか、3ヵ月絶食して足の上の卵を温めるエンペラーペンギンと違って、フンボルトペンギンは緑の丘に横穴を掘って子育てをする。「ペンギンヒルズ」の巣穴(巣箱)を辛抱強く見ていると、ごくたまに赤ちゃんを見ることができ、とても得した気分になれる……と、そんな“知ったかぶりの私”を、“ペンギンについて話し始めたら長いヤツ”に変えてしまう罪深い本が、この『ペンギンの世界』だ。
本書は、知らなかったペンギンの生態を事細かに教えてくれるのだが、なかでもびっくりする事実を5つ紹介しよう。
第5位「ペンギン、人生の60%以上を海上で暮らしている」
もし、死に直面したペンギンの脳裏に自分の生涯が走馬灯のようによみがえるとすれば、その60%以上が海上でのくらしだろう。中には陸上での生活時間が20%そこそこだというものもいる。ペンギンは「海の鳥」なのだ。
「海の鳥」というか、ほとんど魚だよね。どおりで奴らは、ちょっと生臭い匂いがすると思ったのだ。
第4位「エンペラーペンギン、腹が減ると寝てなんとかする」
エンペラーたちは代謝率をもっと落とすため、絶食期間中は睡眠のパターンも変化させているようだ。つまり、ふつう24時間のうち57%の時間を睡眠にあてていた個体は、18日間絶食すると睡眠時間の割合を70%に増やした。
メス親がお腹を満たして返ってくるまで、子育てのためにオス親が絶食することで知られるエンペラーペンギンだが(映画『皇帝ペンギン』の泣かせるシーン)、お前たち、寝てたんかい! まるで仕送りを待つ貧乏学生みたいだ……。
第3位「ペンギン、めちゃくちゃ魚を食う」
野生のペンギンが1年間に消費する甲殻類・魚類・イカなどの総量は2000万トンを超える。
人類の年間総漁獲量が約9800万トン(1996年)、日本のそれが596万トンだと考えると、その量は半端じゃない。どおりで奴らは、ちょっと生臭い匂いがすると思ったのだ。(2回目)。
ちなみに著者曰く「ペンギンのヒナはまさに全身これ胃袋といってもいい」そうである。
第2位「ペンギン、めっちゃ深く潜る」
ペンギンの最深潜水記録としては、バーバラ・ヴィーニケが1997年に論文発表した564メートルだとされている。
ペンギンが「いっちょ限界に挑戦しますか!」と言って記録したものではないので、もしかするともっとすごいかもしれない(たぶん、すごい)。
第1位「古代のペンギン、めっちゃデカい」
恐竜が闊歩していた白亜紀(1億4000万年前)に登場したペンギンは、白亜紀末期(6500万年)の海生爬虫類大量絶滅を期に進化し、様々な環境に適応して種と数を増やしたらしい。そして中新世中期(1500万年前)までに大型化・重量化を加速させた。
最大級の2種はアンスロポロニス・グランディスとパキディプテス・ポンデロススで、前者は体重54キログラム、体長119~134センチメートル、後者は81キログラム、142~162センチメートルだったと推計されている。
ペンギンと人間の関係を歴史的に紐解くと、かなり血なまぐさい。卵を取られ、殺されても、大して抵抗しないペンギンは、16~17世紀にかけての航海者にとって「利用すべき資源」でしかなかったからだ。食料として大量のペンギンと卵が捕獲され、油分の多いペンギン・スキンは燃料に、ペンギンの油は商品化した。その乱獲の様子を描写した一文があるのだが、正直、ペンギン好きには耐えられない。
本当に「人間はクソだな」って思う。
やがて時は過ぎ、極地探検ブームや大衆運動の盛り上がり、帝国主義の台頭など19世紀の社会のうねりの果て、そしてペンギンが人の目に触れるようになると、人々の意識が「利用すべき資源」から「保護の対象」へと変わっていく。
マジで「カワイイは正義だな」って思う。
そして現在、ペンギンは「保護の対象」から、その生態を通して地球温暖化やオゾンホール、海洋生態系の保全などの地球規模の問題を解明する糸口になるのではないかと、重要な研究対象となっている。
「ごめんペンギン。そして、ありがとうペンギン。また会いに行くよペンギン」
そう思わずにはいられない一冊だ。
レビュアー
嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。