声優・津久井教生、ALSで声を失っても伝えたいこと
本書は、そんな津久井さんが自身の身体の異変からALSと診断され、様々な介護を受けるなかで得た経験や知識をもとに、ALSとはどんな病気なのか、被介護者としての心構えや必要な準備、そしてその生活について赤裸々に綴ったエッセイであり、ALSという病気を優しく、そして明るく伝えてくれるALS体験記でもあります。
ALSとは、体を動かす筋肉を支配する神経が壊れていく、進行性の難病です。意識や五感などはありつつ、全身の筋肉が徐々に痩せて動かなくなります。そして進行すると歩行、会話、食事、呼吸が困難になり、3年~5年で寝たきり、そして死に至ると言われています。原因は解明されておらず、根本的な治療法も研究中の段階。TVドラマ『僕のいた時間』や漫画『宇宙兄弟』などでも取り上げられ、かつてに比べれば認知されているものの、本書内で津久井さんも言及していますが、まだまだ知られていない病気です。
平坦な道で転んだ……怪しい兆候、そしてALS診断へと至る克明な記録
ちなみに本書は全部で五章構成なのですが、各章にて「Writing by hands」「Writing by mouth」「Writing by eyes」という記載が。キーボードで手入力できていた章、手が動かせなくなって視線入力へと移行した章など、執筆手段を記すことで、ALSが進行性の病気であることを表現。第1章がby hands、第2章がby eyes、第3章以降がby mouthとなっており、自身の声優生活について書かれた第2章が本書刊行にあたって加筆されたパートであることもわかるのです。
治療法がないALSでも前向きに! 工夫によって日々の課題を解決
身体を動かすことが困難になり、自力では寝返りも打てなくなった津久井さん。しばらくは家族を起こして寝返りをお願いしていましたが、相手への負担も考え、なんとかこの問題をクリアするべく工夫を凝らします。それが「疑似寝返り」。電動介護ベッドの角度調節機能を駆使して「頭」「足」「高さ」といった各種ボタンを操作し、あたかも寝返りを打っているように脳に思い込ませる手法を思いつくのです。
また、ALS診断と並行して、腫瘍の摘出手術をしたときのこと。津久井さんは、術後すぐのリハビリ開始を勧める“ドSの看護師さん”に対して、傷口の心配をします。これに看護師さんは、点滴の麻酔がなくなれば痛いと思います、と回答。「痛いだけなのですね」「そうです、痛いだけです」というやり取りを経て、いざリハビリが始まる際には――
「さあ頑張りましょう、痛いだけですから」
「そうですよね! 痛いだけですものね!」
「合言葉は『痛いだけ!』」
本当に頑張りました。「ドM」で良かった(笑)。
亡くした家族とのエピソードや声優論……津久井さんの人生が詰まった一冊
長年にわたり、その声を使って様々な物事を表現し、伝えてきた津久井さんが、声を失ってなお、私たちに伝えようとしてくれていること。病気、家族、仕事、人生……全力で綴られた、大切なそれらすべてを余すところなく受け取って、自分自身の力へと変えることができる。本書には、そんなパワーが溢れているのです。








