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2026.07.03

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給料は上がらずモノだけ高い日本。その意外な真犯人とは!?

「令和の米騒動」の記憶も新しいが、食費の高騰が止まらない。物価の優等生と言われた卵は1パック300円。果物はもはや贅沢品。もやしや豆腐さえ値上げが続いている。
家賃も確実に上がり、住宅価格の高騰には驚かされるばかりだ。
一方、職場では人手不足が常態化し、それをAIなどによる効率化で補うというが、現実には、旧態依然のままということも多い。しかも、人が減った分の給料が上がるわけではないのだ。
本書では、この「日本経済最大のナゾ」=なぜ賃金は上がらないのか、という疑問に真正面から挑む。
欧米など諸外国でも物価が上がり、インフレが起きていると報じられているが、その分給料も上がっている。韓国の給料もいつのまにか日本と変わらない水準になっているようだ。
なぜ日本だけが「置き去り」なのか。

著者の首藤若菜教授は雇用、労働問題をテーマとする研究者で、とくに流通・物流の現場に実際に何度も足を運んで取材し、話を聞く丁寧なフィールドワークで知られている。ミクロの視点でマクロ経済を見ることができる稀有な研究者と言っていいだろう。
一般的な経済学では、人手不足が起き、ものの値段が上がれば、賃金もそれにつれて自然に上がるとされてきた。ところがどうやら、日本ではそのような現象が起きていないようなのだ。つまり日本では、一般的な経済学の理論があてはまらない。
首藤教授はその理由を、「現場からの視点」によって解き明かしていく。
日本人特有の働き方が、「人手不足→賃金上昇→物価上昇」という正の循環を阻んでいる。現場では何が起きているのか。
公的な機関の出している信頼性の高いデータを綿密に分析し、そこにこれまで積み重ねてきた聞き取り調査の結果を重ねて、立体的に日本の職場の現状を解き明かしていく。
「ナゾ」を解くカギは、「価格の硬直性」にあった。
日本企業では、「価格を上げない」ことがもっとも重要な目標とされ、そのためにすべてが決められていく。
そこで犠牲になったのが、「賃金」だったのだ――。

メカニズムを解き明かす手際はまるで推理小説のようで、ナゾのベールが一枚一枚めくれていくさまは実にスリリングだ。
たとえば、海外からのインバウンド旅行客から絶賛されている宿泊、飲食などの日本のサービス業は、評価の高さに比べて賃金の安さが繰り返し指摘されている。日本食は世界の憧れの的だし、日本のホテルの清潔さ、快適さは世界随一なのに、なぜそこで働く人の賃金は上がらないのか。
サービス業の低生産性の問題も、価格に反映されない価値が現場で吸収されるという点で共通している。(中略)きめ細やかなサービスや丁寧なおもてなしを非合理と断じることはできない。(中略)
日本の強みとされてきた顧客の要望に応えるきめ細やかなサービスは、その価値が価格に反映されない。
どんな突発事態にも即応できる現場の対応力や、きめ細やかなサービス、おもてなしという「価値」は価格に反映されず、現場で吸収されてしまっている。
価格を上げないこと自体が価値であるという構造は、日本経済のあちこちに埋め込まれている。
その一番の調整弁とされているのが、「賃金」だったのだ。
価格が上がらない限り、構造を見直すインセンティブは働きにくい。つまり、「安さ」そのものが、構造の見直しを遅らせ、結果としてコスト構造の歪みを温存させるという逆転が生じたと考えられる。
読者の皆さんも、心当たりがある人が多いはずだ。
市場環境が厳しく、自社の製品の値段は上げられない。もし上げたら、すぐにライバル企業の製品に競り負けて売り上げが落ちてしまう。
人手不足で、新たな戦力も入ってこない。いままで5人でこなしていた仕事を4人、3人でやるしかない。その分残業し、いなくなった人の分まで頑張って働く――。
自分もそういう経験がある、という人は、ぜひ本書を手にとってほしい。
働いても働いてもなぜ賃金が上がらないのか、その答えが実に明快に示されている。
著者の首藤教授は、テレビ出演も多く、穏やかな笑顔と冷静な語り口が印象に残る研究者だが、本書の結論は実にシャープで、畳みかけるような迫力がある。
理論に頼らず、労働現場の仔細な観察を積み重ねてきた著者による、見事な達成と言うほかない。

──ノンフィクション出版部 T.A.

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