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2026.06.17

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iPS細胞、世界初の実用化へ! 医療革命を起こすであろう再生医療と創薬の未来

熱量や感情が込められたiPS細胞解説本

iPS細胞。その名前はよく目にしますし、山中伸弥博士がiPS細胞によってノーベル賞を受賞したということや、移植医療において役立つらしい、ということは私も知っているつもりですが、逆に言えばその程度の知識しかありませんでした。

そんな私のぼんやりした理解度を、輪郭も鮮やかに上書きしてくれたのが、本書です。京都大学と講談社ブルーバックスがコラボした「京大×ブルーバックス」シリーズとして刊行された本書は、元・京都大学医学研究科客員教授・東京科学大学教授の高山和雄が、iPS細胞誕生の歴史からiPS細胞を利用した最新の再生医療研究までを細かく、そしてわかりやすく解説しています。

2026年3月、iPS細胞を用いた世界初の再生医療2製品が厚生労働省により製造販売承認されました。いよいよ実際の医療現場で使用される見通しがたち、俄然注目度が高まっているiPS細胞。本書は、その知識を得るための絶好のツールと言えます。

iPS細胞誕生秘話

iPS細胞とは、簡単に言うと、皮膚などから採取した細胞に特定の遺伝子を入れて、様々な体の組織へと変化できる、受精卵に近い細胞のこと。このiPS細胞を作り出すまでには、多くの研究の積み重ねがありました。

有名なクローン羊のドリーも、iPS細胞へと繋がる歴史の一部。1996年、羊の体の細胞から核を取り出して受精卵に移植し、新たな命を誕生させたのが、ドリーです。しかしクローンの成功率は1~2%とかなり低い。そこで科学者たちが考えたのが「クローン動物になりそうな、発生が順調に進んでいる胚=受精卵が少し成長した段階のもの」を見分けて選び、その細胞を長く育てられないかという工夫でした。

これをきっかけに生まれたのが、ES細胞(イーエスさいぼう)とntES細胞(エヌティーイーエスさいぼう)です。
ES細胞:本来は受精卵から作られる、どんな細胞にもなれる特別な細胞のこと
ntES細胞:「核移植」で作られた「ES細胞」のようなもの
ES細胞は、受精卵が少し成長した「胚盤胞(はいばんほう)」から作られており、これを活用することでクローンの成功率が上がり、研究が進みました。しかし懸念点もあり、そのひとつが「受精卵を使うこと」。命の始まりといえる受精卵の使用には倫理的な問題がありました。そして開発されたのがntES細胞。この細胞により、受精卵ではなく未受精卵でのクローン誕生が実現します。ただ、未受精卵とはいえ、やはり倫理的な問題は払拭できず。また、ntES細胞を使ってのクローン研究は、成功率がそこまで高くありませんでした。倫理や効率の問題をクリアして細胞を作り出す――この困難な課題に挑戦したのが、山中博士です。

iPS細胞、その秘密はがん遺伝子にあり!?

iPS細胞を作る際に使われるのは、私たちの身近にある体の細胞です。そこで重要なのが、DNA、すなわち細胞にある設計図。このDNAの中でもタンパク質を作ることができる部分を「遺伝子」と呼ぶのですが、山中博士は、この遺伝子の中からiPS細胞に関わる4つの特別な遺伝子を見つけ出しました。

・Oct3/4(オクトスリーフォー)
・Sox2(ソックスツー)
・Klf4(ケーエルエフフォー)
・c‐Myc(シーミック)

これらを「山中4因子」と呼ぶのですが、この遺伝子は「どんな細胞になるか」という細胞の未来を決める司令塔の役割を果たしており、この4因子を普通の細胞に入れると、すでに役割が決まっていた細胞が受精卵に近い初期の状態へと戻り、iPS細胞になるのです。山中博士は、この4因子の発見によってノーベル賞を受賞することになります。
4因子の中で個人的に特に気になったのが、c‐Myc。なんとこれ、がん遺伝子。つまりがんを引き起こす原因となる遺伝子なのです。人類最大の敵のひとつともいえるがんの遺伝子が、iPS細胞の開発に寄与していたとは。ではなぜ山中博士は、iPS細胞の研究にわざわざがん遺伝子を取り入れたのでしょうか。その理由は、増殖力にありました。
がんのように細胞が増え続ける力を持つ遺伝子をうまく利用すれば、細胞を初期の状態に戻す力を強められるのではないかと考えたのです。
ちなみに著者は、山中博士ががん遺伝子に注目した理由として、先行して研究されていたES細胞が「テラトーマ」と呼ばれるがんを作る能力を持っていたからだと述べています。

最新の再生医療に迫る!

では、iPS細胞が医療においてどう役立つのか。本書では主に加齢黄斑変性や網膜色素変性症(視力が徐々に低下していく病気)、パーキンソン病(脳の神経細胞が減少して、体の動きが悪くなる病気)の治療において研究が進んでいると記しています。

加齢黄斑変性では、物を見るために大切な網膜の中で、光を感じる「視細胞」を支えている網膜色素上皮細胞の働きが弱くなってしまい、視力が低下します。そこでiPS細胞の出番。先述の通り、iPS細胞は「様々な体の組織へと変化できる、受精卵に近い細胞」です。2014年9月に世界で初めて、高橋政代(高ははしごだかが正式表記)博士がiPS細胞から網膜色素上皮細胞を作り、患者への移植に成功します。

これまでもES細胞から細胞を作って移植する治療例はありますが、ES細胞は他人の受精卵を使用するため、免疫拒絶の問題を抱えていました。しかしヒトiPS細胞であれば、患者自身の皮膚などから採取した細胞を使うため、このリスクを軽減することができるのです。高橋博士の手術については、2025年12月の発表で、移植から10年経過しても異常は認められていないことが報告されています。

iPS細胞の歴史や作製方法、育て方、そして移植医療や薬作りなど過去から現在、そして未来について掘り下げて解説している本書。研究に従事し、成果を残していた数々の研究者たちへのリスペクトを惜しまず、彼らが積み上げてきたものを土台に今のiPS細胞の研究があることを、熱と感情を帯びた文章で綴っているのがとても印象的でした。

iPS細胞や医療の現在地ついての解像度が上がるだけでなく、世界中の専門家たちが挑んできたこれまでの研究の歴史を知ることで、iPS細胞への関心がグッと高まる一冊です。
イラスト:大久保ナオ登

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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