そんな新たな試みの舞台は、今から130年ほど前に誕生した。
京都大学は一八九七(明治三〇)年、日本で二番目の帝国大学として創設された。先行する東京帝国大学(のちの東京大学)が官僚養成を主な目的としていたのに対し、京都帝国大学は研究を重んじる「研究者養成」の特色を、最初から強く打ち出していた。
まず設置されたのは、土木工学科・機械工学科・数学科・物理学科・純正化学科・電気工学科・採鉱冶金学科・製造化学科からなる「理工科大学」である。現在の理学部と工学部の前身だ。
(中略)つまり、京大は「理系」から始まっている。京大理系は、京都大学のアイデンティティと言っても過言ではないのである。
たとえば第3章に登場する薬学研究科の土居雅夫教授は、人間の持つ生体リズムに着目した「時間創薬」研究の第一人者だ。土居教授の研究成果の一つは「ドライアイ」の治療薬に関するもので、私たちの生活の質の改善に直結する内容でもあった。
「体内時計の仕組みが解明された今、身体がどのリズムにあるときにどの酵素が活性化するかもわかっています。その事実を活用して、加齢とともに失われるリズム自体を正常に戻して時間秩序を取り戻し、酵素活性を促そうというのです。時間を巻き戻すのではなく、もう一度時間をかけて、薬によって振幅のある周期性を復活させるということです」
(中略)人間の目からは脂が出て表面が乾かないように保っている。土居教授は、その脂を作る酵素が体内時計の働きによって制御されていることを発見し、酵素の活性リズムを目薬によって正常に戻せば、ドライアイが改善することを実験的に証明したのである。
他にも、著者は教授陣だけでなく、研究所に属する大学院生たちの声にも耳を傾けることで、研究の面白さや奥深さも伝えてくれる。これから京都大学を目指す高校生のみならず、そもそも何を学べばいいのか、これから自分はどうしたいのかと悩んでいる学生にも、響く言葉が多かった。そうした空気は、第2章に登場する生態学研究センターで、群衆生態学を専門とする佐藤拓哉教授の発言にも表れている。
「これをやりたい! というのって、半分思い込みですよね。やってみてうまくいくこともあれば、まったくうまくいかなかったり、よその人がやっていることがよく見えたりもする。隣の人の研究の話を聞いたりして、若いうちに色々と考えられるのは良いことです。最近は速やかにレールに乗っておかなければと焦る人が多いようですが、一度レールに乗ってしまうと考える暇もなく進んでいってしまいます。このセンターでは、ちょっと横を見れば近しいレールを走っている人がいる。新たな視点や手法を取り入れやすいし、寄り道は長い目で見ると役に立ちます」
最先端科学の現場を身近に感じられる本書は、「理系」に苦手意識を持つ方にもおすすめできる一冊。身構える必要はない。何かを面白がり、探求する人びとの姿は、きっとあなたの好奇心を刺激するだろう。








