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2026.06.09

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なぜ京大から、天才と「おもろい研究」が生まれ続けるのか?

本書は「京大×ブルーバックス」シリーズの第一弾である。「自由な学問研究と学生の自主性を重んじる」気風を掲げる京都大学と、創刊から64年目を迎えた老舗の科学新書レーベルがタッグを組むことで、「最先端の研究を楽しく、分かりやすく」伝えることを目指すという。

そんな新たな試みの舞台は、今から130年ほど前に誕生した。
京都大学は一八九七(明治三〇)年、日本で二番目の帝国大学として創設された。先行する東京帝国大学(のちの東京大学)が官僚養成を主な目的としていたのに対し、京都帝国大学は研究を重んじる「研究者養成」の特色を、最初から強く打ち出していた。
まず設置されたのは、土木工学科・機械工学科・数学科・物理学科・純正化学科・電気工学科・採鉱冶金学科・製造化学科からなる「理工科大学」である。現在の理学部と工学部の前身だ。

(中略)つまり、京大は「理系」から始まっている。京大理系は、京都大学のアイデンティティと言っても過言ではないのである。
そうして築かれてきた理系の組織は、現在、「6の学部と11の大学院、10の附置研究所と3の全国共同利用施設」などを要する巨大な体制となっている。本書ではこのうち一六の部局を取り上げ、それぞれの研究と、そこで活躍する人々に焦点を当てていく。
著者はフリーランスの編集者で、芸術書や人文書を手がけるひとり出版社を経営しながら、ライターや翻訳者としても活躍している。文中では自らを「数学がめっぽう苦手なド文系」と称し、取材に際しては緊張を吐露する場面も多い。だが、そこはやはりプロ。研究者たちの来歴や研究への熱意を、インタビュー形式でわかりやすくかみ砕き、最新の研究成果とあわせて描き出している。

たとえば第3章に登場する薬学研究科の土居雅夫教授は、人間の持つ生体リズムに着目した「時間創薬」研究の第一人者だ。土居教授の研究成果の一つは「ドライアイ」の治療薬に関するもので、私たちの生活の質の改善に直結する内容でもあった。
「体内時計の仕組みが解明された今、身体がどのリズムにあるときにどの酵素が活性化するかもわかっています。その事実を活用して、加齢とともに失われるリズム自体を正常に戻して時間秩序を取り戻し、酵素活性を促そうというのです。時間を巻き戻すのではなく、もう一度時間をかけて、薬によって振幅のある周期性を復活させるということです」
(中略)人間の目からは脂が出て表面が乾かないように保っている。土居教授は、その脂を作る酵素が体内時計の働きによって制御されていることを発見し、酵素の活性リズムを目薬によって正常に戻せば、ドライアイが改善することを実験的に証明したのである。
この目薬は、現在臨床試験中だという。実用化まではまだ時間がかかる見込みだが、もし使えるようになれば、これは世界初の「時間創薬」となるそうだ。実際にドライアイを発症している身としては、この成果が実際の治療へ結びつくことを切に願うばかりだ。

他にも、著者は教授陣だけでなく、研究所に属する大学院生たちの声にも耳を傾けることで、研究の面白さや奥深さも伝えてくれる。これから京都大学を目指す高校生のみならず、そもそも何を学べばいいのか、これから自分はどうしたいのかと悩んでいる学生にも、響く言葉が多かった。そうした空気は、第2章に登場する生態学研究センターで、群衆生態学を専門とする佐藤拓哉教授の発言にも表れている。
「これをやりたい! というのって、半分思い込みですよね。やってみてうまくいくこともあれば、まったくうまくいかなかったり、よその人がやっていることがよく見えたりもする。隣の人の研究の話を聞いたりして、若いうちに色々と考えられるのは良いことです。最近は速やかにレールに乗っておかなければと焦る人が多いようですが、一度レールに乗ってしまうと考える暇もなく進んでいってしまいます。このセンターでは、ちょっと横を見れば近しいレールを走っている人がいる。新たな視点や手法を取り入れやすいし、寄り道は長い目で見ると役に立ちます」
まるで「人生」について語っているようにも聞こえた。このセンターでは、すべての分野の大学院生が同じ部屋で日々研究に取り組んでいるという。一人では探しにくい道も、他者や仲間がいれば、見えてくることもあるだろう。一発で答えが出るわけでもなく、最短距離が正しいとも限らない。ミスも失敗も織り込みながら、より良い道を探り続ける。そう考えると、社会人として生きる私にも沁みるものがあった。

最先端科学の現場を身近に感じられる本書は、「理系」に苦手意識を持つ方にもおすすめできる一冊。身構える必要はない。何かを面白がり、探求する人びとの姿は、きっとあなたの好奇心を刺激するだろう。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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