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2026.06.11

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ドラゴン、悪魔、死神……モンスターが描かれた絵で西洋絵画がよくわかる!『かいぶつ美術館』

子どもとおとなのための西洋絵画入門

美術館は世界中にある。大抵の場合、お金を少し払えば「どうぞお好きに見ていってくださいね」といった感じで、ゆるっと迎え入れてくれる(無料のことだってある)。そこに収められた作品を「私のもの」にするのは簡単で、ただ好きになって、その印象を心に残しておけばいい。そうすれば「私の絵」になる。ポストカードや映像で見かけるたび「おっ」と胸が踊る。旅行先の美術館で好きになった作品と日本で再会できると、本当に幸せな気持ちになる。

『かいぶつ美術館 イラストとマンガでわかる西洋絵画入門』は、子どものための西洋美術入門書だ。西洋絵画を好きになる仕掛けがたくさん盛り込まれている。著者は作家でイラストレーターの杉全美帆子さん。美術がより楽しくなるような知識を、マンガやイラストで楽しく解説してくれる。美術愛がいっぱいの本で、おとなにもおすすめしたい。

本書の主役は「かいぶつ」。私たちがゲームやマンガやファンタジー作品で遭遇する「ドラゴン」「悪魔(サタン)」「メデューサ」「セイレーン」といったキャラクターは、西洋絵画でも描かれてきた。
これら「かいぶつの絵(名画!)」の見どころや、作品に描かれた物語、そしてどんな画家が描いたのかがモンスターごとに整理され、私たちを待ち構えている。お気に入りのモンスターから挑むもよし、知っている画家や時代や神様の名前を索引で見つけて読むもよし。
見出しからすでに楽しい本だ。

ドラゴンといえば勇者、勇者といえばバトル

本書はかいぶつごとに章立てされている。第1章は竜(ドラゴン)。ゲームでもマンガでも、だいたいのドラゴンは勇者と戦っているが、西洋絵画でも同じ。たとえばこちら
「覚悟!!」「なにくそ!」の書き込みがユルくてかわいい。本当に言ってそう。このくらいラフな気持ちで名画と向き合っていいんだね!と気がラクになる。

各作品の隣ページに続く解説で、その絵がどんな作品であるかを学べる。
ヘラクレスとヒュドラのキャラクター紹介と、画家のアントニオ・デル・ポッライウォーロの紹介。本書は、画家の似顔絵が全部いい。個人的に特に好きだったのはカラヴァッジョ。ソックリ!

本書は、名画の美術的な見どころや、聖書や神話の物語をやさしい言葉とイラストで解説する。これが私にはとてもありがたかった。というのも、西洋絵画を見ると「なんか、いろいろやってるな……」とアヤフヤな感想になりがちなのだ。数年前にバチカンでミケランジェロの『最後の審判』を見たときも「すっごい大勢で、いろいろやってるな……」とアヤフヤなまま圧倒された。本書は、その「いろいろやってる」の「いろいろ」を楽しく教えてくれた。
私の印象以上に「いろいろやってる」絵だった。またバチカンにおさらいしに行きたい。

先ほど紹介した『ヘラクレスとヒュドラ』なら、ヘラクレスのかぶり物が個人的に気になる。ちょっとムササビっぽいがライオンのようだし、そもそもヘラクレスはナゼこれをチョイスしたのかな……と。

そんな私のアヤフヤな感想に寄り添うようなマンガも本作には収められている。『ヘラクレスとヒュドラ』は、ギリシャ神話の物語だ。
そうか、自分で退治したライオンだったのね! そりゃかぶっちゃうかもね、似合ってるよ。マンガのおかげで絵画の世界を飛び越えてヒュドラ戦の前後のストーリーも知りたくなる。

かいぶつがよく描かれる西洋美術、あまり描かれない西洋美術

名画に登場するモンスターたちを堪能できる本書は、美術入門書としても楽しい。

たとえば西洋美術や西洋史でよく耳にする「ルネサンス」は、世界史をひもときつつ、代表作と杉全さんのイラストとともに、どういう運動であったかが解説される。
今の日本でいうなら「平安時代のカルチャーを取り戻そうぜ!」ということか。平成レトロどころの話ではない。そう考えると、かなりパンチの強い運動だ。

そしてルネサンスから先の19〜20世紀の西洋絵画史も楽しく学べる。本書は、よく西洋美術の展覧会で耳にする「なんとか主義」を、じつに本書らしい視点で整理する。
右上の「かいぶつ」マークにご注目。本書は、かいぶつがよく描かれている「主義」がわかるのだ。「かいぶつがよく登場するか、あまり登場しないか」は、時代で区切られているわけではないようで、19世紀でも20世紀でもかいぶつ名画は存在する。

ちょっと堅苦しく思われがちな西洋絵画だが、本書でそのルーツをたどると、豊かでやわらかな魅力がいっぱいだとわかる。神話や聖書、歴史の知識とともに、美術館へといざなってくれる愉快な本だ。きっと「私の好きな絵」も見つかるはずだ。
イラスト/杉全美帆子

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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