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2026.04.30

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なぜぼくは存在するのか? 世代を超えて読み継がれる、自分で哲学をするための入門書

本書では大きく二つの問いが扱われている。それは、「なぜぼくは存在するのか」「なぜ悪いことをしてはいけないのか」だ。素朴にも思えるこれらの問いとタイトルの印象から、「読みやすそう」と本書を手に取った方には、いくつもの新鮮な驚きが待っているかもしれない。
この本は〈子ども〉のための哲学入門書である。〈子ども〉といっても、実際の年齢が子どもである必要はない。まあ、さしあたって、子どもの心をもった、という程度の意味に理解してもらえばいい。
この本のもう一つの特徴は、自分で哲学をするための入門書だ、という点にある。野球の入門書だって、将棋の入門書だって、プロ野球やプロ将棋の鑑賞の仕方ではなくて、自分で野球や将棋をするための入門書だ。哲学だってそうだ、というのがぼくの考えである。
そう、入門書ではあるが、著者が想定する読者は「子どもの心をもった」人だ。著者は、問いを始める前の段で、「ぼくはこの本を、できれば中学生にも読んでもらえるようなものにしたいと思っている」とつづっている。実際、難しい漢字は極力省かれ、やわらかい語り口が全体を貫く。だが内容はかなり硬派で、いわゆる「哲学書」──たとえば特定の人物が書いたものや、その思想を紹介したものとは、だいぶ趣が異なっている。
ほんとうのことを言ってしまえば、他人の哲学なんて、たいていの場合、つまらないのがあたりまえなのだ。おもしろいと思うひとは、有名な哲学者の中に、たまたま自分によく似たひとがいただけのことだ、と思った方がいい。いずれにしても、他人の哲学を研究し理解することは、哲学をするのとはぜんぜんちがう種類の仕事である。
では、本書における「哲学」とは何を指すのか。
哲学というものは、最初の第一歩から、つまり哲学なんてぜんぜん知らないうちから、何のお手本もなしに、自分ひとりではじめるのでなければ、けっしてはじめることができないものなのだ。つまり、哲学の勉強をしてしまったら、もうおそいのだ。勉強は哲学の大敵である。
(中略)ぼくが読者の方々に伝授したいやりかたは、とてもかんたんなものだ。大人になる前に抱(いだ)き、大人になるにつれて忘れてしまいがちな疑問の数々を、つまり子どものときに抱く素朴な疑問の数々を、自分自身がほんとうに納得がいくまで、けっして手放さないこと、これだけである。
こうして著者は、子ども時代に抱いた疑問や哲学的な問題についてどのように思考してきたのか、その過程を語り始める。

著者は哲学・倫理学の専門家として、信州大学や千葉大学、日本大学で教鞭を執るかたわら、多数の著書を世に送り出してきた。本書の原本も、30年前の出版以来、ロングセラーとして多くの読者に読み継がれている。今回の刊行では、タイトルに「完成版」とある通り、30年前に刊行された原本に修正と加筆を施し、さらに「現在の観点から訂正すべきいくつかの点について」と題する「完成版補論」も収録された。

著者が新たな形で送り出した本書は、自らのうちに湧き出る「どうして」「なぜ」に、世間が用意した言葉やルールでかき消すことなく向き合い続ける人たちに寄り添う本だ。日々という現実を生きる中で、心の内に問いを抱き続けることは、時に面倒で厄介でまどろっこしい。それでも、もしあなたが疑問を持つことをやめられない<子ども>であるなら、それを止める必要はないと、著者は本書を通してエールを送っている。

正直に言えば、すべてを一読で理解するのは難しいかもしれない。それでも、原本を読んだ時よりもはるかに、今回の読書では自分の中にある〈子ども〉の問いを抱きしめることができた。今はまだらな私の読書も哲学も、これから読み直すたび、少しずつ完成版に近づくことを願いたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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