中~高校生のための恋愛小説
ただ、そうやって大人同士でモジモジと珍現象(恋)を披露し合うむずがゆいケースはさておき、目の前にいる相手が10代くらいの若い人の場合は、状況が大きく変わってくる。
いい歳した大人が「なんか好きになったんだよね」とサラッと逃げるのは、ずるい気がしてしまう。なぜなら、私が10代なら「その“なんか”をボカさないでくれたらいいのに」と思ってしまうからだ。みんな涼しい顔して雰囲気だけ語っちゃってさ、と。でも大切なことを話すのは、とても難しい。
YA(ヤングアダルト)小説の『見た目で好きになるってダメですか?』は「恋のはじまり」をリアルに描く。もう、なにひとつ、サラッと逃げていない。恋をすることで刺激される悩みや、恋愛そのものへの興味ととまどいを、非常にテンポの良い文章で漏らさず包み込んでいく。
YA小説をはじめとする児童文学は、若い読者の糧となることを誓ったジャンルだと思うが、本作はまさに読む人を大いに楽しませ、その心を明るくさせる、強い意志にあふれている。だから大人の私も夢中で読んだ。
なので、10代のみなさんはもちろん、思春期の子どもと向き合う大人たちにも、私はこの本をおすすめしたい。大切なことを話したいときに、この物語は力をくれるはずだ。
せめて見た目くらいはどうにかしたい
ちなみに作者の神戸遥真先生の人気シリーズ「恋とポテトと夏休み」と本作の世界はつながっているようで、おなじみのEバーガーや「新宿幕張高校」などが登場して楽しい。
主人公の一人、“三條くん”は、同じ高校に通う“更科さん”のことが気になっている。とにかく彼女の「顔」がとんでもなく好みすぎたらしい。三條くんは、そんな自分を自覚しつつも、「人間なんて、誰でも見た目から入るもんじゃん」とも思っている。なぜか。
性格美人、なんて言葉もある。けどそんなの綺麗事だって、おれは身をもって知っている。
一歩街に出れば、様々な広告が人々を誘う。
縮毛矯正。脱毛。二重目蓋。美肌。シミ取り。脂肪吸引。ダイエット……。
あなたも、綺麗になりたくありませんか?
だって見た目って、とっても大事でしょう?
みんながみんな、神宮寺みたいに平然といられるわけじゃない。自信なんてこれっぽっちもなくて、だからせめて見た目くらいはどうにかしたい。
その点でいうと、こんな描写が私はとても好きだった。繊細でモダンだと思う。
遊びに誘うなら、最初はメッセージじゃなくて口頭がいいと思った。
そっちの方が勇気が要るのは、もちろんわかってる。でも、もしメッセージで誘って撃沈した場合、それが履歴に残る方が耐えられない。
さて、見た目重視の三條くんは、少しずつ更科さんと仲良くなっていくが、やがて彼女の意外な一面を知り、その価値観ごと揺さぶられることになる。見た目に人一倍悩んできた彼なりの、精一杯の言葉にウルッとくるお話だった。
もっとちゃんと他人のこと知った方がいいよ
県内のトップ公立に通う“真野くん”の恋も、とてもリアルで苦いものだった。真野くんは、予備校のみんなが日常のささいな話でキャッキャ盛り上がっていても「くだらない……」と思っているが、それでいてグループチャットを既読スルーするほどの意思もないタイプの子だ。
そんな彼が気になっているのは、同じ高校の“椿さん”。彼女の「瞳」が気になるのだという。鉱石のようなグレーグリーンの美しい瞳。
恋はすばらしい。なんでもかんでも「くだらない……」と思っていたあの真野くんが、椿さんが好きだというアニメを見たりするのだから。世界が広がる!
で、椿さんは真野くんに旅行のお土産をくれたり、写真部に所属する真野くんの写真に興味をもってくれたり、その美しい瞳の理由だって教えてくれて、なんだかいい感じ。ところが、彼は大きなミスをしてしまう。
「だって椿さん、ぼくのこと好きだよね?」
ガタンッ、と大きな音がした。
椿さんが、体を後ろに引くように立ち上がり、椅子が倒れたのだ。
「え、なんで? 好き?」
「秘密を教えてくれたし」
「秘密? え? 秘密って何?」
「個人情報……お母さんがフィンランド人だって」
「えぇ?」
椿さんは引きつったように笑った。笑って、そして。
バンッと机を叩いた。
「そんなの、仲いい友だちは知ってるけど?」
こんなふうに声を荒らげられるとは、これっぽっちも予想してなくて、ひゅっと息を呑む。
『見た目で好きになるってダメですか?』の主人公たちは、それぞれ自分なりの方法で恋をしていく。その恋は彼らを傷つけ、同じくらい幸福にもする。そんな大切な恋の核心については、実はグループチャットでは触れられない。「彼女と喧嘩して激へこみ中」くらいのサラッとした会話しか流れない。つまり、自分が何に泣き、何に恍惚としたかなんて、やっぱり人にはそうやすやすと言えないのだ。
でも、メッセージのそこここから、それぞれの心の揺れがほんの少しだけ匂い立つ。そしてその言葉は誰かの胸を静かに揺らし、次の新しい物語にも影響を与えていく。つまり予備校でのつながりは表層をなぞるだけの付き合いではなく、彼ら彼女らの「もうひとつの居場所」として機能しているようにも見える。そのあたりもとてもリアルで巧みな恋愛小説だと思う。








