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2026.01.12

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人生を変えたのはバーガーショップでのアルバイト!『恋とポテトと夏休み』

生まれて初めてのアルバイト

魔法が使えるようになるとか、夢がかなうのと同じくらい、いや、もしかしたらそういうことよりもうんと強く、心に栄養を与える方法は「自分はちゃんと生きていける」と手応えを感じることだと思います。

人気青春小説『恋とポテトと夏休み』シリーズのコミカライズ版である本作(なのでこのマンガの題名も『恋とポテトと夏休み』です)の魅力も、まさに「自分はちゃんと生きていける」と主人公が少しずつ実感していくステップにあります。しみじみいいんですよ。めちゃくちゃ応援したくなる。

舞台は千葉県にあるハンバーガーチェーン店・“Eバーガー”の京成千葉中央駅前店。Eバーガーは物語の中の存在ですが、実際の千葉中央駅を地図で調べると、駅の近くにたくさんファストフード店が並んでいます。本作はお店の雰囲気や店舗でのオペレーションのリアルさも楽しいです。

主人公はEバーガーで人生初のアルバイトを始めた高校1年生の“守崎優芽”。
ハキハキと接客をしているけれど最初は?
いろいろ大変そう!

このバイト向いてないんじゃね?

高校1年の夏、優芽には何の予定もありませんでした。門限は夜7時まででカラオケもゲーセンも家庭内ルールで禁止。そして学校の友達とパッと遊びに行くような性格でもなく、そもそも友達がほとんどいません。

何より、優芽にとって今通っている高校は「自分が行きたかった高校」ではないことも彼女の毎日をさえないものにしている理由でした。
本当は“新宿幕張高校”と、その高校の演劇部や先輩に憧れていたけれど、受験に失敗。今通っている高校には演劇部もないしで優芽のテンションはだだ下がり。「私の人生こんなはずじゃなかった」と思う毎日。

そんな優芽の目の前に、あの日の新宿幕張高校の演劇で見た先輩が現れます。京成千葉中央駅にいたんです。まっすぐ家に帰るだけの優芽は、思わず彼の後を付けて、Eバーガーの店舗裏口にたどり着きます。そして例の先輩はEバーガーのユニフォーム姿で、優芽を「バイトの面接に来た人」と勘違いして「さあどうぞ中に入って」と案内しちゃう! この場面がすごくいいんです。ワクワクする。
日本のどこにでもありそうな景色なのに、フライドポテトの匂いも、表口と雰囲気が違う扉も、別世界への入り口に思えます。

で、そのままなし崩し的に始まった面接で優芽は即採用され、Eバーガーでアルバイトを始めることに。

アルバイト初日、優芽と同じ高校に通う“源拓真”がEバーガーでの仕事のトレーニングを担当することになりますが……?
とにかく源は塩対応。しかもなんかちょっと厳しい! こんな人がいるお店なんて怖いんじゃないの?と思いきや!
お客さんの前では別人。でも優芽にはやっぱり厳しくて「このバイト向いてないんじゃね?」なんて言われる始末。ギャップありすぎ! 働いた経験のある人なら、この源の豹変っぷりにピンとくるものはあるかもしれませんが、高校1年の優芽には初めて目にするタイプのふるまいです。

ちなみにEバーガーの従業員マニュアルを見ると、なんとなく源の姿勢の本質がわかるはずです。
お店はオーケストラで、従業員はプレイヤー。お客さんはオーケストラの演奏を楽しむ聴衆でしょうか。Eバーガーのマニュアルは「仕事なんだからちゃんとしましょう」なんて指示よりも胸になじむ説明です。

そうはいっても内気な自分に接客業なんて無理だよ、源も怖いし……と落ち込む優芽に、先輩はとてもいいヒントをくれます。
Eバーガーのカウンターに立っているのは、教室でうつむく優芽ではなく、オーケストラの一員のプレイヤー。優芽はかつて演劇に心を動かされて「私も変わりたい」と思った自分を、Eバーガーの仕事でもう一度見つけます。

世界が広がる

高校と家の往復だけだった優芽の毎日は、Eバーガーでの仕事で少しずつ変わっていきます。お店には世代も価値観もやりたいことも違う人たちがたくさん集まるからです。思いもしないことが見えてきます。

例えば、同僚の “萌夏さん”との休憩中のおしゃべりで浮かび上がるのは「お母さん」のこと。優芽の母親は、厳格で、菜食主義で、ハンバーガーなんてもってのほか!みたいな調子。だから優芽はアルバイトのことを正直に話せていません。

母に嘘をついてしまう娘の息苦しさも、その娘が内緒のバイト先での休憩中に広げるお弁当も、どちらも私の胸をキュッとしめつけます。でも?
優芽の母親は萌夏さんの目には「あなたを大事にしているね」と映ります。そう、お母さんが優芽に持たせてくれるのは、野菜たっぷりの美しいお弁当なんです。

優芽の心の動きに、源や萌夏さんの物語が重なると、優芽や読者である私の世界が少し広がります。あけすけに言葉することなく、感情の小さな揺れを感じさせるマンガです。

もちろん、従業員だけじゃなくお客さんにもいろんな人がいて、胸があたたかくなる瞬間も、カスハラだろ~と腹が立つようなことも、等しくEバーガーには起こるわけです。その全部が優芽の「変わりたい」につながっていきます。
仕事をすると、たいていの人はキャパシティの少し外側を求められます。自分で選んだ場所で、自分には無理だよと思っていたことがやがてできるようになるのは、一生モノの経験なんですよね。優芽も、優芽の毎日も、どんどん変わっていくんだろうなあ。楽しみです。

恋とポテトと夏休み(1)

著 : 甲斐 冬雪
原作 : 神戸 遥真
その他 : おとない ちあき

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レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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