気になる相手と少しずつ仲良くなって、思い切って告白して、晴れてお付き合いすることになって……みたいな恋だけが「ピュアな恋愛」ではないことを、『不純すら純情』は教えてくれます。すごかった!
高校2年生の“仁子(にこ)”は、優しくて陽キャな“湊(みなと)くん”からの「命令」を待っています。優しくて陽キャで、いつも友だちに囲まれて笑っている湊くんなのに、仁子と二人きりのときは別人のよう。
湊くんに「お手」と言われたら仁子ひざまずいて手を差し出してしまうし、そんな自分が信じられず、「変だ」と思っているのに、彼からの命令が待ち遠しくてしょうがない。しかも二人はまだ付き合っていません! でも、こう見えて、じつに少女マンガらしいピュアな関係なんです。
仁子は友だちができない女の子でした。仲良くなりたいのに、どうすればいいのかわからなくて、新学期が始まって1カ月たった今も「ぼっち」。たぶん、ブンブン回転する長縄跳びに飛びこめなくてジリジリ焦る感覚が毎日続いているような状態だと思います。
勇気を出してクラスの女の子たちに声をかけてみるけれど……?
「私も一緒に遊びに行きたい!」とは言えなくて、つい「私が代わりにあなたの雑用をやりますよ、だから遊びに行ってきたらどうですか?」とごまかしてしまうタイプ。仲良くなりたい優しい気持ちはあるのにね、むずかしい。
雑用が得意なわけでも好きなわけでもないのに、何かと引き受けてばかりの仁子は、クラスの男子から「ドMなんじゃね?」なんて言われてしまったり。彼らは聞こえないくらいの小声で言ったつもりなのかもしれませんが、しっかり耳に入っちゃうんですよ。悲しい!
ある日の放課後も委員会の仕事を引き受けて図書室で仕分けの仕事をしていました。そこに現れたのは湊くん。
仁子は、自分とは正反対のキラキラ&友だちいっぱいの湊くんが苦手。湊くんから話しかけられても、気まずくて苦しいんです。こんなに苦しいなら1人で作業した方がマシ!と思った仁子は「キツいのウェルカムなので大丈夫」「これは強がりとかではなく、ドMなんで」と心にもないことをバンバン言って湊くんを遠ざけようとします。でも彼にその言い訳は通用しませんでした。
湊くんは仁子に「命令」して、一緒に図書委員の仕事を続けることに。いいやつだなあ……。そして仁子もさっきまでの気まずさがすっかり消えて、なんだか和やかに過ごせてしまいます。苦し紛れで思わず「ドMなんで」と言ってしまったけれど、意外とこの関係は居心地がいいようです。この日をきっかけに、仁子は湊くんからの命令を待ちわびるように。
そして、命令されてうれしい自分に気づいて戸惑う仁子と同じくらい、湊くんも「新しい自分」に戸惑います。つい仁子に命令してしまうんです。ヘルシーな命令も、ちょっとドキッとするような命令もスラスラ出てくる!
湊くんの予感は見事的中して、このあと変な扉がどんどん開いていきます。
個人的にとてもグッときたのはこちら。
湊くんの腕をとっさにつかんだ仁子のことは、きっと湊くんの友だちには見えていません。日の当たる部分から見える「陽キャで優しい湊くん」と、仁子の側にいる「そうではない別の湊くん」を感じさせてゾクゾクします。
『不純すら純情』は、少女マンガらしい景色や感情に、SMをうまく重ねていきます。ふたりきりの図書室、体育館でボールが顔面にぶつかって保健室へ一緒に移動、放課後のファストフード店でのおしゃべり……ピュアな世界を保ちつつ、仁子の命令されたい気持ちと、優しいはずの湊くんのS気が楽しめるんです。とてもいい。
二人きりの保健室で「不純な気持ち」を大告白! 確かにこれは純情ですね。
優しい湊くんに「いじわる」なんて言うのは、たぶん仁子だけ。ところで、最初にお伝えしたとおり二人はまだ付き合っていません。毎話「エッ、付き合ってないの!?」って声が出そうになります。SM関係は着々と進んでいるのに! でも、SM以外の気持ちを双方が感じ始めているような気配もします。まずは、1巻でジリジリした関係を楽しみましょう。とてもいいので!
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori