その女性が実は息子の彼女であり、教師である自分の教え子の姉であり、かつて自分が命を救った少女の12年後の姿であることを知ったら……。
こんなん現実にあったら、正直、まぁまぁのホラーだよなぁ……。
主人公の大井手亮平(42)は、かつては熱血教師だったが、今では働き方改革の時代に合わせて「それなりに仕事をこなす」サラリーマン教師。
家庭では息子の家庭教師と不倫する妻・未可子に冷たくあしらわれ、さらにかつては自分に尊敬のまなざしを向けていたひとり息子・理人(一流大学への合格を決めたばかり)にも「Fラン大学出身で仕事への情熱も失った父親」として、陰で見下されている。
それでも父子家庭で育った亮平は「息子には母親が必要だ」と考え、さらには息子への愛も強く残っているため、すべてを把握しながら笑顔を作り、現状を受け入れている。
そんな亮平も、気のおけない友人としこたま飲んだ後、偶然目にした赤ん坊連れの家族の仲睦まじい様子を見て思う。
いいな俺も あんな風に
無条件に愛されたい
朝起きると、お礼の置き手紙を残して彼女の姿は消えていた。
その日の体験を「信じられないくらいにいい思い出」として心にしまいつつ、どこか日々に活力を取り戻していた亮平。
しかしある日、仕事から帰宅すると、玄関に見慣れない女性モノの靴が並んでいることに気づく。息子から「彼女だ」と紹介されたその女性は、その「いい思い出」だったはずの女子大生・東藤衣央奈だった。
動揺する亮平を、個室でこっそり抱きしめながら衣央奈は言う。
今度また 2人で会ってくれませんか?
私 お父さんのこと 好きなんです
しかも彼女が12年前、夏祭りの事故で亮平に命を救われた少女であることも発覚する。
出会いは偶然ではなかった。衣央奈の想いは、そのころから熟成された「一途な(ある種、狂気的な)愛」だったのだ。
息子への愛が強く残る父親としての思いと、自身を見下してくる息子や妻を見返したいという鬱屈した感情。亮平はそのジレンマに苦しみつつ、無邪気かつ情熱的に迫ってくる衣央奈に振り回され、もはや抜け出す術のない沼の中へと、自ら足を踏み入れていく。
史上初の“一途なフタマタ”の行く末や如何に!?
今回も「息子の彼女」というストレートなタイトルで、「無条件の愛」に飢えた中年男性と、彼に一般的には理解しがたい狂気的な愛をぶつける女子大生、彼女に振り回される周囲の人々を、まるで近くで見て来たかのような臨場感で見事に描いている。
作中の、数々のH&修羅場的なシチュエーションも、背徳感満載である。
まずは偶然を装って出会い「処女だからSEXの練習をさせてほしい」からスタート。
続いて「紹介された息子の彼女に、自宅の個室で迫られる」。
さらには「彼女が実は教え子の保護者(姉)で、教室で迫られてディープキス」。
ついには「息子のベッドの下に隠れて、息子と彼女の初Hの振動を体で感じる」。
極めつきは「その直後、自分の部屋で(息子への嫉妬を自覚しながら)彼女を抱く」。
これだけ並べてみると、自らも意識していなかったさまざまな性癖に気づかされてしまう読者も多いことだろう。
さらに家族への愛と、優秀で若いイケメンである息子への抑えきれない嫉妬心との狭間で「このコが一番好きなのは俺で、息子と付き合っているのは俺に会うためなのでは」と考えてしまう亮平に対して、衣央奈が放った言葉がまた衝撃だった。
私は貴方の遺伝子ごと 彼を好きなんです。
大井手亮平のカケラ あますところなく全部!
と、同時に「かなりヤベエとは思っていたけど、想像以上に超絶ヤベエじゃん、この子……」という思いが沸々(ふつふつ)と湧いてくる。
正直、この子の世界には「自分」しかいないんじゃないか。
亮平を「遺伝子レベルで」全肯定している割には、自身の「好きだ」という気持ちと比べたら、亮平が置かれている社会的な立場や守るべき人間関係、それらとの葛藤に苦しむ亮平の思いなどに(表面上は理解しているように見えても)本質的な意味で思い至ることはない。
どころか、行為の最中などに「明らかに息子に対して嫉妬している亮平」「息子に勝ったような気分になり、どこか嬉しそうな亮平」を見て、快感を覚えている。
亮平も彼女に幾度となく迫られながら、そのたびに拒絶してみせたり、SNSをブロックしたりして、何度も沼から抜け出そうと試みる。しかし、自らに「無条件の愛」を向けてくれるただ一人の相手を完全に拒絶することなど、できるはずもない。
衣央奈の強烈な愛の言葉が、乾いた土に水が染み込むがごとく、愛に飢えた亮平の心に沁み込んでいったであろうことは、想像に難くない。正直「こういう女性に捕まったら身の破滅だなコレ」という恐怖を感じつつも、亮平の気持ちも痛いほど、よくわかる。
次巻予告を見てみると、衣央奈に抗いがたく溺れていく亮平が描かれる一方で、今度は妻の不倫相手である高杉(息子・理人の家庭教師)までが絡んでくるようだ。
主人公・大井手の名前は、実父を殺害し、知らずに実母と結婚して「エディプス・コンプレックス」の語源となったギリシャ神話の悲劇の主人公「オイディプス王」から。衣央奈の名前は王の妻でオイディプスの母でもある「イオカステ」から取られているという。
もうなんか、本気で「昼ドラも真っ青」どころか、実は浮気や嫉妬、近親相姦から凄惨な復讐までが日常茶飯事である「神話の世界」顔負けのドロドロ展開過ぎて……。
「こういう女に騙されないためのワクチンだな、これは」と自分に言い訳をしながら、次巻を楽しみに待つことにしようと思う。








