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2026.05.16

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あなたは私の犬──猛犬ヤンキーと清純メガネ少女の、歪で一途な恋『歪みの虜』

黒いタイツにご用心

危険なもの。それは黒いタイツを着用した女性だ。そういう女性を見ると「怖い」「近寄ってはならない」と、私の大脳辺縁系が司令を出す。なぜなら、無条件で抗えないから。自分にとって「そこをずっと避けてきたからこそ、今の平安がある」くらいには重要なことで、これからもそういう女性には近づかない。そこに自分が普段隠している性的嗜好や、マッチョイズム、ミソジニーが関係していることも認識している(ついでに冒頭から、かなり気色悪い話をしていることも)。その反動として、黒いタイツが似合いそうな女性が登場する漫画や映画、小説を好む。本作『歪みの虜』に登場する鈴木不優子は、そのド真ん中に位置する。はやい話、好きだ! めちゃくちゃ好きだ!
デコルテ! やべぇ、デコルテ! 美しすぎる鎖骨。
ついでにメガネ! メタルフレーム! 細いやつ!
漫画やアニメで、瞳を描くのに邪魔になるため、フレームの上部がないメガネをかけている設定をよく見かけるが、あれは興ざめ。鈴木不優子は100点満点。本作の作者おーにじょうろく氏、すげぇ!

本作の主人公は、売られた喧嘩は全て買う、その上負けなし、筋金入りのヤンキーで「猛犬」と呼ばれる田中正見。彼は同級生の鈴木不優子に目をつけられる。親しい男友だち以外、全員にマウントをとらないと気がすまない田中は、神出鬼没の不優子に翻弄され続ける。田中が剛腕キックボクサーなら、不優子は柔術使い。深く相手の胸元に飛び込み、首元をキュッと締め上げる。
はい、ギブアップ。TKOの鐘がなる!
猛犬だろうと、なんだろうと、犬は犬である。一匹狼にはなれない犬である。縦並びの序列社会で生きるしかない犬は、猛犬だろうと上位の存在には逆らえない。

そんな不優子様が、田中のピアスに興味を持つ。「病院で開けたの?」と聞かれて、「自分で開けんだよ」「安全ピンでもできる(やったことねーけど)」と強がると、「私も開けてみたい」と不優子。「やれるモンならやってみろよ」と田中が言うと……。
私が開けたいのは
あなたの耳
ピアスの位置は、開けるのが難しくて痛い「トラガス」! しかし、田中の引きつる表情に満足しながら、迷いなくトラガスに安全ピンを突き刺す不優子!
つ……
は…………
い゛っっっていうわけねーだろ
「田中くん、それは間違っている。正しくは“ワン”だよ」と教えてあげたい。

Noパンツ Yes SM

もうとっくにご理解いただいていると思うけれど、これはSM関係にある高校生カップルの物語だ。喜国雅彦の『月光の囁き』や、押見修造の『惡の華』など、サド的嗜好の女性とマゾ的嗜好の男性を描いた作品は多数ある。そして、ふと気づいたのだが……、多分にセクシャルなテーマを扱いながら、本作ではただの一度も「パンツ」が出てこない。これは驚くべきことだ。こういうテーマの作品では、パンツや衣服など女性が身につけたものをフェティッシュな欲望の象徴として描くことが多いが、本作は違う。行為自体を欲望の対象としているのだ。ピアスの穴を開けるのもそうだが、こんなシーンもある。
これは不優子が田中に目薬をさすシーン。『鬼滅の刃』に「生殺与奪の権を他人に握らせるな」という有名な台詞があるが、SMは「生殺与奪の権を伏して差し出し、その関係を確かめ合う行為」である。
「安全ピンが耳の穴に突き立てられるかもしれないが、私はそれも含めて受け入れます」
「目薬を開いた目に突き刺されるかもしれないが、私はその瞬間を見たいのです」
その精神性の前において、パンツなど実に矮小な存在でしかないことを、作者はご存知である! 変態め!

その一方で、本作は「女王様と、彼女に振り回されるヤンキーのラブコメ」でもある。そのラブコメ部分については、(明るくないので感触の話でしかないのだが)少女漫画やBL作品に近い感じがする。たとえばこんなシーン。
まだなんとか不優子の上位に立ちたいと、あきらめの悪い田中は彼女の後を尾行する(ストーカー行為ともいう)。すると、不良が“猛犬”と呼ばれる田中を知らないかと、不優子さんに絡むのだが……。
なに? この「スカッとする話」展開。
この、ご主人様と犬の歪んだ関係が、このあともラブコメ路線で突き進むのか? いや、もっと深い世界に突入していくのか? それが気になるアナタは、すでに“虜”になっている。 

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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