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2025.08.14

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【清野とおる×壇蜜】日本中を震撼させたカップルの真実を「本人」が描く!

壇蜜。数々の雑誌でグラビアを飾り、タレントや女優、さらには文筆業でも活躍。その美貌と妖艶な佇まい、そして知的な一面も垣間見せながら、一時代を築いたミステリアスな芸能人。

清野とおる。愛すべきクセの強い住人たちが多数登場する、東京都北区赤羽を舞台にしたエッセイ漫画で知られる、本人もクセ強な漫画家。

2019年、このふたりの結婚報道が駆け巡り、世の中的には「壇蜜がついに結婚!」、一部漫画好き界隈では「清野とおるが壇蜜と!? どういうこと!?」と大騒ぎになりました。

本作は、そんな壇蜜と清野とおるのラブラブな新婚生活をつまびらかに描くほっこりエッセイ漫画……ではありません。これは、謎に満ちた生態が少しずつ明らかになる奇人・壇蜜と、この不思議な存在と波長を合わせ、阿吽の呼吸で奇妙な出来事の数々を受け入れていく清野とおるによる、奇想天外な日々を綴った衝撃的な実録エッセイなのです。

はじまりは「わたしと結婚しましょうよ」

まずはふたりがどういう経緯で結婚に至ったのかが気になりますが、本作ではそのきっかけともいえる出会いの瞬間を克明に記録しています。テレビ界を席巻した芸能人とサブカル系漫画家。その接点は、とあるバラエティ番組のロケ。壇蜜の赤羽ロケに、(赤羽専門家ともいえる)清野とおるが同行するという企画でした。
テレビ局特有のざっくりした打ち合わせ(+地元赤羽ネタを交えた)描写にクスっとさせられるあたり、早くも清野作品の面白さがにじみ出ているシーンですが、肝心なのは、この日がふたりにとって初対面である、ということ。

この出会いをきっかけにふたりは接点をもち、少しずつ距離を縮め、やがて交際へと発展、愛を育む中でいよいよ結婚へ……という流れかと思いきや。
ロケの休憩時間に、唐突過ぎるプロポーズ。しかも壇蜜からという驚天動地なシチュエーション。
清野とおるの、このリアクションも、なんだかわかる気がします。多少なりとも関係性を築いた後ならともかく、初対面のロケ当日に売れっ子芸能人から告げられる「結婚しましょうよ」には、警戒心しか生まれません。しかしロケ終わりに、壇蜜はしっかりと連絡先を清野とおるに渡して去っていきます。これは……本気なのか!?

それから数日後。ロケの衝撃も落ち着いて、ふとテレビやラジオ、雑誌を見ればやたらと壇蜜が目に入る。そして手元には連絡先が書かれた紙――。壇蜜が気になって仕方がない清野とおるは、「ロケのお礼」を建前に、ついに壇蜜へメール送信。これは、男として自然な流れでしょう。壇蜜の引力に抗うなど、無駄な対抗。こうして1日1回、内容的には無難なやり取りを続けることになります。

地元・板橋に壇蜜降臨! 清野とおる、パニック

ロケから2ヵ月後のある日、突然壇蜜から「今、浮間公園にいます。よければ清野さんもいらっしゃいませんか?」というメールが届きます。緊張と期待のなかで、北区と板橋区の境に位置するというこの公園で壇蜜と落ち合った清野とおる。しかし、普段来ることのない場所で壇蜜と相対することになった彼は、自分を優位な立場に置くべく、浮間の隣にある、自身が生まれ育った地元・板橋の志村坂上へと壇蜜を誘います。
白ブリーフおじさんのエピソードと削れた塀が、さすが清野とおる作品というインパクトを生みつつ、自ら誘い込んでおいて、壇蜜とのふれあいのなかで戸惑いと混乱で慌てふためく清野とおるという構図がなんとも可笑しい。わかる人にはわかる、わからない人には1mmもピンとこない、「小茂根」というローカルな地名の登場も、ザ・清野とおる劇場という趣が感じられます。
こうして1日1往復のメールや、1~2ヵ月に一度の逢瀬を重ねながら、気づけばふたりはいつの間にかこんな関係性になっていたのでした。

壇蜜劇場開幕! 奇人・壇蜜の魅力を堪能せよ

実はテレビなどでも、捉えどころのないキャラクターがチラリと垣間見えていた壇蜜。本作では、パートナーである清野とおるならではの距離感や視点で、彼女の奇人っぷりを描写しています。先述したとおり、初対面で「結婚しましょうよ」と告げる時点で理解しがたい部分はあるのですが、人は「なんだこれ?」と理解できないものに興味が湧いてしまうもの。冒頭の十数ページで早くも壇蜜の虜になってしまうのです。

そんな彼女(と清野とおる)の暮らしのなかで起こる様々な怪奇現象、あるいは彼女自身の摩訶不思議な生態などを観察し、愛でるような感覚を味わえるのが本作の醍醐味。
謎の心霊現象(?)も、怖いとも、気味悪いとも思わずに日常として受け入れる壇蜜。そしてそんな彼女と過ごしているからか(あるいは赤羽で育まれた経験がそうさせるのか)、清野とおるも同様に受け入れるどころか、「生活の大切な一部」になってしまう。おそるべき順応力。

さらには、いったいこれは何の会話!?という稀有なやり取りも。
本作を読んでいると、この奇妙な会話も微笑ましく感じてしまうくらい、壇蜜、そして清野とおるがどんどん好きになってしまうのです。

確かに奇人ではありながら、その奇妙な部分がピュアでチャーミングに見えてくる壇蜜と、さすがは赤羽実録エッセイ漫画をヒットさせただけのことはある、その細かいツッコミや独特の切り口が素晴らしい清野とおる。

ふたりだけの不思議な世界を覗き見させてもらう楽しさを噛みしめながら、どうか末永く幸せになってほしいと願わずにはいられない作品です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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