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2026.04.03

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キリスト教の「そこがわからなかった」が腑に落ちる、面白くて癒される知識が満載!

日常の中のキリスト教

十把一絡(じっぱひとから)げに「日本人は……」なんて言うと問題があることは承知で、日本人は無宗教で多神教だ。そもそも「宗教を信じる」ってなんだ? いや「宗教を信仰する」が言葉として正しいのかな? それもよくわからないくらい、ぼんやりしている(少なくとも、私は)。でも神社仏閣を訪れれば手を合わすし、ご飯を食べた後には「ごちそうさま」を言うし、クリスマスは祝うし、イースターの時期のディズニーランドは楽しい。ぼんやりした日本人でも、宗教と日常の繋がりは深く結びついている。

本書は、キリスト教主義の関西学院中学部で聖教科の授業を担当する福島旭先生(通称・ポン先生)の話をもとに、作家でライターの谷口雅美さんが、聖書やキリスト教のことをまとめた一冊だ。あらかじめ言っとくけど「キリスト教についての本」と聞いて、「説教」「布教」「信仰」なんてかたっ苦しい言葉を浮かべる必要はない。キリスト教は世界最大の宗教だし、聖書も世界最大のベストセラー。その基礎的知識を得ることは、そのもとで生まれた思想や哲学、倫理を理解する第一歩。文学や絵画、映画を深く読み解く手助けになる。本書は、その入門編として最適だ。

本書の前半は、私たちのまわりの“なにげなーく”ある日常とキリスト教の結び付き、由来を紹介している。
例えば、なぜ1週間は7日なのか?
神が天地の創造を6日間で終え、7日目に休んだから。
それ正解。これくらいは知っている人も多いだろう。
でも旧約聖書の『創世記』にある記述によると、神が休んだ日は土曜日。そのため旧約聖書を聖典とするユダヤ教では、土曜日が「安息日」と呼ばれている。じゃあ日曜日の位置づけは? イエス・キリストが復活した日が日曜日(安息日の翌日の朝)なのだ。だから、毎週日曜日の朝に教会で礼拝が行われるようになった。
キリスト教徒が「主の日」と呼ぶ日曜日は、仕事や勉強で疲れた心身を休める日ではなく、「週の初めだから、仕事や勉強に備えて心と体に力を満たそう!」と神の前で気持ちを新たにする大切な日なのです。
そのほかにも聖書が由来の有名なことわざや言葉(「レストラン」って言葉もキリストの言葉が由来なのだとか)、「フランダースの犬」から「ターミネーター」、「オーメン」まで、文学や映画とキリスト教との関わりが数多く紹介されている。

「Wonder!」の先に起こること

本書の後半は、さらにグッと深い話になる。「迷える羊のたとえ」や「善いサマリア人のたとえ」といった、“なんとなく聞いたことはあるけど、しっかり理解していない”たとえ話について。さらに、「奇跡って本当に起きるのですか?」「イエスが病を治したというのは本当ですか?」といった“奇跡”について。これらを一足飛びに「信じる/信じない」で判断することが、キリスト教にかかわらず日本人から宗教を遠ざけているように思う。本書を通してポン先生は、もう少し違う捉え方、解釈を提示してくれる。そこで重要になってくるのが、タイトルにもなっている「Wonder!」というキーワードだ。
奇跡は英語で“miracle”と訳され、神によって引き起こされる驚くべき出来事という意味のラテン語“miraculum”から派生したと考えられています。
“miraculum”は“mirari”(驚く、驚嘆する、驚かされる)という意味の言葉から来ています。つまり、奇跡は本書のテーマである「驚き」が語源なのです。
新約聖書では、“miracle”のほかに「不思議な業(wonder)」や「しるし(sign)」も「奇跡」を意味しています(『使徒言行録』2章)。
ミラクル、ワンダー、サイン——日本語としてもよく用いられる言葉に、本来は「驚き」という意味があることはあまり知られていません。

この本では、「Wonder!」はもっと親しみやすく「そうだったのか!」といった意味で使われている。イエスが生きた時代の貧困や差別、病気といった苦しみ(それは今と地続きなのだけど)から、「そうだったのか!」と人を解放することも奇跡なのだ。そうした驚きは、人の考え方や行動を変えてしまう。ポン先生が関心を持っているのは、「驚きという奇跡によって人の生き方がどう変わっていったのか?」ということなのだ。

この本を読んで1999年の映画『マグノリア』を思い出した。それは、ひどい人生を送ってきた人物ばかりが登場する群像劇で、最高のトム・クルーズが見られる作品だ。そのラストでカエルの雨が降る。それは奇跡というより「そんなアホな」というシーンなのだけれど、きっと誰もが「そうであってほしい」と思うはずだ。カエルの雨で登場人物が救われるわけでもないし、過去から解き放たれるわけでもない。でも天から降ってくるカエルを見て、(映画では描かれない)登場人物のその後の人生は、変わらざるを得ないことを予感させる。良くなるのか、悪くなるのか、それはわからない。でも変わる。そこに「Wonder!」があるから。

「Wonder!」は、信じると楽しい。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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