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2026.03.04

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巨人のエースを改めてめざす! 戸郷翔征投手が挫折を経て巻き返しを誓う『覚悟』

野球ファンはもちろん、野球にそれなりの関心がある方ならば、本書の著者をご存じだろう。戸郷翔征(とごうしょうせい)──読売ジャイアンツを代表する投手の一人だ。入団2年目に開幕ローテーション入りを果たして以来、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)への選出やノーヒットノーランの達成といった偉業を次々と成し遂げてきた。

そんな戸郷投手にとって、本書は初の著書となる。ペーパーレス化が進む時代に、あえて紙の本を出すことを選んだ理由は、次の言葉に込められていた。
僕は新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット記事のインタビューをこれまでたくさん受けてきました。しかし、書籍は初めてです。
書籍を出版しようと思った一番の理由は、僕が過去25年間生きてきて、いえ25年間しか生きていませんが、経験したことをファンの皆様に知っていただけたらと思ったのです。そして、新たなことに「挑戦」してみようと考えました。

(中略)
プロ野球でも、対戦バッターの動画やデータが、試合後すぐにタブレットに送られてくる時代です。
それだけに手間をかけた自分史を紙媒体として残せることは、逆に価値があるのではないかと考えたわけです。
こうした思いから生まれた本書は、プロになる前の時間を「INNING 0」、それ以降を9つの節目(INNING)ごとに分けてつづっている。野球の試合と同じ構成が心憎い。また各INNINGの最初のページには、戸郷投手の投球フォームの写真が掲載されている。そのページだけを拾い読むようにめくっていくと、戸郷投手が振りかぶってから投げ終わるまでが堪能できる。ちょっとした遊び心が楽しい。

だが、本書の魅力はそれだけではない。たとえばプロ2年目を振り返ったINNING 2では、試合後の姿勢から、その強さの本質が見えてくる。
僕は勝っても負けても、帰宅したら必ず試合の映像を2~3度見返して「振り返り」をします。その日に投げた球数が100球だったら100球全部を見返すのです。なるべく早い時間に振り返りたいタイプです。
「この場面での球種やコースは、これでよかったな。いや、ああしたほうがよかったのかな」
でも僕は、落ち込んだりするのは「その日の夜12時まで」と決めています。
「悩むことは必要」だと思います。しかし、どこかで早めに切り替えないと前進はありません。
自分の仕事を詳細に振り返ることには、喜びだけでなく、苦痛が伴う場合もある。特に失敗した時には、逃げ出したくなることもあるだろう。それでも、何が悪かったのか、何を直せば次につながるのかを考えなければ、新たな道は見つからない。「反省」という名の努力を積み重ね、時間が来れば気持ちを切り替える強さも併せ持つ──この時、戸郷投手は弱冠二十歳。年齢以上の思慮深さに驚かされた。

そんなふうにどのINNINGでも、戸郷投手の思いは率直かつ謙虚な言葉で記されている。くわえて、他の選手との交流も見逃せない。たとえば同じチームの大エースだった菅野智之投手とのやり取りや、山本由伸投手との意外な関係、そして桑田真澄二軍監督(当時)から受け取った貴重な言葉も収められていた。戸郷投手もまた、誰かの言葉や気持ちに支えられ、成長してきたことが伝わってくる。

最終章となるINNING 9では、苦しかった25年のシーズンについても語られている。順風満帆とは言えなかった一年を、どう受け止めたのか。不調の原因を丁寧に分析しながら、苦しさの中から湧き出した野球への愛情は、こんな言葉に結実していた。
それにしても、「野球は難しいな」と改めて思いました。でも、だから面白いのでしょうね。そして「僕は、野球を愛しているんだなぁ」と思いました。愛していなけりゃ、こんなに苦しみませんよ。
「巨人のエースを改めてめざすという『覚悟』」を抱く戸郷投手の2026年。その一球一球を、楽しみに待ちたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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