そんな戸郷投手にとって、本書は初の著書となる。ペーパーレス化が進む時代に、あえて紙の本を出すことを選んだ理由は、次の言葉に込められていた。
僕は新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ネット記事のインタビューをこれまでたくさん受けてきました。しかし、書籍は初めてです。
書籍を出版しようと思った一番の理由は、僕が過去25年間生きてきて、いえ25年間しか生きていませんが、経験したことをファンの皆様に知っていただけたらと思ったのです。そして、新たなことに「挑戦」してみようと考えました。
(中略)
プロ野球でも、対戦バッターの動画やデータが、試合後すぐにタブレットに送られてくる時代です。
それだけに手間をかけた自分史を紙媒体として残せることは、逆に価値があるのではないかと考えたわけです。
だが、本書の魅力はそれだけではない。たとえばプロ2年目を振り返ったINNING 2では、試合後の姿勢から、その強さの本質が見えてくる。
僕は勝っても負けても、帰宅したら必ず試合の映像を2~3度見返して「振り返り」をします。その日に投げた球数が100球だったら100球全部を見返すのです。なるべく早い時間に振り返りたいタイプです。
「この場面での球種やコースは、これでよかったな。いや、ああしたほうがよかったのかな」
でも僕は、落ち込んだりするのは「その日の夜12時まで」と決めています。
「悩むことは必要」だと思います。しかし、どこかで早めに切り替えないと前進はありません。
そんなふうにどのINNINGでも、戸郷投手の思いは率直かつ謙虚な言葉で記されている。くわえて、他の選手との交流も見逃せない。たとえば同じチームの大エースだった菅野智之投手とのやり取りや、山本由伸投手との意外な関係、そして桑田真澄二軍監督(当時)から受け取った貴重な言葉も収められていた。戸郷投手もまた、誰かの言葉や気持ちに支えられ、成長してきたことが伝わってくる。
最終章となるINNING 9では、苦しかった25年のシーズンについても語られている。順風満帆とは言えなかった一年を、どう受け止めたのか。不調の原因を丁寧に分析しながら、苦しさの中から湧き出した野球への愛情は、こんな言葉に結実していた。
それにしても、「野球は難しいな」と改めて思いました。でも、だから面白いのでしょうね。そして「僕は、野球を愛しているんだなぁ」と思いました。愛していなけりゃ、こんなに苦しみませんよ。








