このシーンまではマニアックな野球ネタの連発にクスクス笑っていたが、ここであまりのバカバカしさ(褒め言葉)に、腹を抱えて笑ってしまった。
『落合博満のオレ流転生』のタイトルからわかるとおり、主人公はもちろん落合博満。
御年70歳。プロ野球選手として、そして指導者やフロントとして「オレ流」を貫き、日本プロ野球界に数々の伝説を残した超レジェンドだ。
ドラゴンズのファン感謝デーに顔を出した落合が、なぜか象の着ぐるみを被った姿で魔物と神獣、剣と魔法が跳梁跋扈する異世界に飛ばされるところから、物語はスタートする。
……ここまで書いていて、すでに自分でもワケが分からない。
異世界で全盛期に近い姿に若返っていた落合は記憶を失っており、行き倒れかけたところを現地の村人たちに助けられる。そこから「オレ流」で現地の言葉を学んで、コミュニケーションを取れるように。さらにその村と王国との諍いごとに巻き込まれるが、そのとき、落合の体が覚えていた「謎のスキル」が発動して……。
作品内でもひとつひとつ解説があるが、ある程度以上、古参のプロ野球ファン、特に中日ドラゴンズのファンならば「あぁ、落合のあのときのエピソードを元にしているんだな」と、すぐにピンとくることだろう。ここに、そのうちのいくつかを羅列してみる。
●必ず「頭にボールが来る」という「目付け」を行ったうえで打席に入っていたので、歴代三冠王の中でも死球が少なかった
●現役時代にホームベース上に立ち、正面からくる速球を打ち返す練習をしていた
●ややオープンスタンスで前方にバットを倒す構えの「神主打法」の使い手
●テレビカメラをケージから出して撮影していたカメラマンを狙って打球を飛ばし、1球でカメラのレンズに直撃させる
●圧倒的な握力と練習量で、握った手がバットから離れなくなる
これらのエピソードが、バカバカしくも見事に「異世界転生モノ」の中で生かされている。おそらくこの先は、中日監督時代やGM時代の濃厚なエピソードも登場してくるだろう。プロ野球ファンならニヤニヤしながら楽しめるはずだ。逆に「中日にもプロ野球にも興味がない人」はいさぎよく振り落とし、全力で突っ走っている作品に思える。
第1巻のラストでは、落合を襲いに村に現れた「虎の神獣」と、守りに来た「竜の神獣」が激突(阪神vs.中日!?)。勝利した竜の神獣が、ホームベース状のウロコを落合の下に残して去っていく。
ここまで“おバカ方面”に振り切った作品だけに、単純な「野球伝道物語」にはならないだろうが、プロ野球ファンの私を次はどんな手でクスっと笑わせてくれるのか、楽しみな作品になっている。