先に書いておくと『お前の表情を確かめたい』は逃げも隠れもしないドエロ作品であり、セックス描写もゴリッゴリで、湿度と勢いがものすごい。粘膜の色が想像できるくらい、べちょべちょのドロドロだ。息継ぎのタイミングがわからなくなる。さすがヤンマガ。
ただ、私たちは爆発しそうなおっぱいが汗だくで揺れる絵を大量に見たからといって息継ぎまで忘れることはないはずで、じゃあなんでそんな切羽詰まった気分になるのかといえば、2人の興奮が手に取るようにわかるからだ。やっぱりヤンマガ!
サークルクラッシャーの “美澄円香(みすみまどか)”が新たなセフレに選んだのは透明人間の“尾根透(おねとおる)”。「(サークルの男全員と関係を持ってサークルがクラッシュしたから)誰もいなくなっちゃったし、20歳記念でお酒も初めて飲んだし、まあ、コイツでいいか」くらいの軽いノリで誘ったのだが……、
そう、透明人間だから表情が見えない。しかも透は今までの男たちのようにホイホイ押し倒してもこない。だから円香は温度や匂いや気配から透が今どんな気分なのかを探ろうとして、全身が敏感になる。淫靡(いんび)だ。
淫靡だがコンタクトスポーツっぽさもある。で、実は透もバキバキに興奮していることがわかり、いざドロドロが始まるのだが……?
表情もカラダも見えない透とのセックスは、円香史上、最っ高に楽しいらしい。というのも、今までの男たちとのそれとは大きくちがうから。
権力があるわけでもおカネがあるわけでもない、自分を特別扱いすらしてくれない透がシンプルに興奮している。そのことだけは鼻や耳や口で確かめられる。快楽と好奇心だけの、見返りのない行為に没頭するのは楽しいだろう。
そんな腰も人生観もグラグラするような体験だったハズなのだが、翌朝はこんな感じ。
打算と欲深さは何も変わってない! このカラッとした感じがかわいい。
円香と透のセフレ関係は大学卒業後も続き、2人は一緒に暮らしている。都心のロフト付きのキラキラ物件で、1人では払えない家賃だが2人ならいける、というわけだ。透はSEになって在宅ワーク中心で、円香は「コンテンツ産業に食い込みたい」「チョロい」という理由で大手出版社に就職。夢は名物編集長!
打算キャラは変わらずで、人事の偉い人とのコミュニケーションもばっちり……のハズが、彼女の希望とは裏腹に児童図書部門に配属される。ファッション誌でバリバリ働くつもりが、小学生に大人気の児童誌「コミックベンベン」の編集者となる。
円香は、自分のカラダを武器に男を利用しまくるキャラクターを自認しているものの、実は大して思い通りになっていないところがおもしろい。大学では「ターミネーター円香」なんて呼ばれて嫌われてしまっていたし。円香本人としては、嫌われるつもりなんてなかったのに。
野望がかなわぬまま円香のサラリーマン人生は続く。そんな行き場のない気持ちは透とのセックスで解消するのが一番。透明人間の良さが毎回発揮される。
こんなに文学的に味わっているのに、2人はあくまで同居人であり、恋人ではない。表面上は、「手っ取り早くセックスできてコスパがいいから」「家賃も折半できて便利だから」2人は一緒にいる。でも、見えていない部分で、実はとてもいい関係なのだ。
円香は「(出版社の就職)チョロい」なんて言っていたが、本当はとても大変だったし、彼女は努力している。そして、報われないときに傷ついた顔を絶対に見せず、「どうせ私はおっぱいだけの人間。主役になんてなれない」と逆噴射のような強がりを言うことも、透は知っている。彼はどんな顔をして円香のことを見ているのだろう。
そして円香も、透の言葉は賢者タイムの薄っぺらなお説教じゃないことを、ちゃんとわかっているのだ。見えていないのに彼女は透のことをよくわかっている。
見えていないから知りたい、見えていないけれどわかる、じれったいギリギリのラインを際どく攻めるマンガだ。べちょべちょにエロいのに読後の爽やかさも素晴らしい。透明人間だから透は「透明」に描かれるのに、だんだん私もその姿を感じ始めて、円香と透をとても好きになる。ものすごくいい試合だったな~!みたいな充足感を味わえるはずだ。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori