それは「外国人問題」というより「外国人を受け入れる日本側の問題」である。
学生であっても、出身国の政情不安から逃れてきた難民の人々であっても、なるべく平穏無事な生活を異国でも送りたいという思いは変わらないはずだ。そういうメンタリティの人は基本的に子どもには優しいし、個人的にも実際親切にされた経験がある。むしろ、外国人居住者に対して過剰にピリピリした緊張や不安にとりつかれてしまう「日本人の大人」の悪影響のほうが怖い(幸い、自分はそういう大人に出会った覚えがないが、いまはTVのニュースやインターネットでバンバン目に入る)。そこで声高に訴えられる恐怖には、たいがい「実体がない」ことも、本書は教えてくれる。
その手の不安につけこみ、ありもしない虚構を作り上げ、政治利用しようとする勢力もある。わたしたち庶民が本当に恐怖を覚えなければならないのは、そちらのほうなのに。
埼玉県川口市に多く暮らすクルド人をはじめ、命にかかわる問題などで帰国困難な状況にある外国人は数多い。だが、日本の入管庁(出入国在留管理庁)は彼らを容赦なく帰そうとする。日本で生まれ育ち、母国語を知らない子どもたちも含めてだ。
本書でたびたび例示される入管庁職員の態度は、シンプルに言って「無慈悲」。無論、そこには組織としての指針、あるいは大儀が存在するのだろう。唖然とするほど冷淡な職員たちを個人として糾弾してもあまり意味はなく、組織の構造自体の問題を探るべきだとは思う。そんな彼らの言動の数々には、もし自分にも「職務」としてそういう態度が求められたら、そうなるのかもしれない……という他人事ではない恐怖がつきまとう。
それでも、この地で暮らしていかざるを得ない人々がいる。「仮放免」という不自由な状況に置かれた子どもたちをはじめとするさまざまなケースを、本書は丹念かつ地道な取材をもとに映し出していく。その筆致は冷静沈着でありながら「食らいつきの強度」を強く感じさせる。
読みながら胸が痛くなる場面や、感情を揺さぶるドラマティックな瞬間も数多い。いつもどおり引用していたら一冊まるごとコピーすることになりそうなので(引用箇所のページ番号だけメモしながら読んでいたら、とんでもなく膨大なリストになってしまった)、今回ばかりは最小限に抑えよう。
特に印象深かったエピソードのひとつが、18歳の高校生セシリア(アフリカ、ナイジェリア出身)の物語だ。とにかく、くじけない。入管職員になんの事前説明もなく眼前で在留カードにパンチで穴をあけられても、仮放免ゆえにテレビ出演のチャンスを直前で失っても、彼女は未来に向かって突き進む。読者のだれもが彼女のガッツと頑張りに勇気をもらえることだろう。
もうひとつは、「最悪の初デート」を経験しながら同棲生活を送る、クルド人のレナスと日本人のハルカの物語。彼らは、わたしたちが思い描く「苦難や悲劇を乗り越えて生きる理想のカップル像」とは少し異なるかもしれない。だからこそ、現実世界に生きる人間にフィクショナルなドラマ性を求めてしまう我々のあさはかさ、傲慢さについて気づかせるエピソードでもある。もろさと危なっかしさを忍ばせながら歳月を重ねていくラブストーリーの締めくくりに、思わず泣いた。
読者それぞれに、心に響く箇所は異なるだろう。実際に身近な外国人の友達のことを思い出す人もいるかもしれないし、こういう現実があることに衝撃を受ける読者もいるかもしれない。ただ「そうなるべきではない未来」のイメージは、以前よりも明瞭に、ハッキリと得られるのではないだろうか。選挙権を得たばかりの若者にもぜひ手に取ってほしい一冊である。







