講談社+α新書『本物の算数力の育て方 子どもが熱中する「りんご塾」の教育法』の著者、田邉亨氏は滋賀県彦根市にある算数専門塾「りんご塾」の代表だ。そしてその「りんご塾」では、算数オリンピックで10年連続メダリストを輩出しているというではないか。
金メダルだけでなく、もちろん銀メダル、銅メダルも多数だという。
どうやらこの塾の教育法には、子どもが自ら考え、熱中する仕組みがあるようだ。
競争しない塾の秘密
多くの進学塾では、それぞれの学年ごとのテストの成績順で席が決まり、クラスが分けられている。成績が下がれば下のクラスに落ちる。そうした環境で子どもたちは同学年のライバルたちと競争を強いられるわけだが、りんご塾は違うようだ。学年も進度もバラバラの子どもたちが同じ教室で学ぶ。ここでは隣の席の子はライバルではないらしい。
そんなりんご塾の授業は一コマ80分間で、3つのパートに分かれているそう。
1つ目はパズル「天才テキスト」。りんご塾オリジナルの論理的思考力を養うパズルに20分間取り組む。2つ目は「算数テキスト」。いわゆるドリルで、算数オリンピックの対策や総合的な算数力を伸ばす内容に40分間取り組むそう。そして最後3つ目は「積み木」。
本書で田邉氏が繰り返し強調しているのは「教えないこと」だ。
この一コマの授業の中で子どもがつまずいても、すぐに答えを教えるのではなく、ヒントを出すにとどめ、自分で考える時間を与えて見守るという。なるほど、この見守る姿勢が子どもの思考力を育てる土台になっているのだろう。
また本書では「小3までに算数力を育てる」ことの重要性も語られている。
小学校低学年のうちに、数の感覚や図形の感覚を身につけておくと、その後の学習がスムーズになるという。逆に、この時期に算数への苦手意識を持ってしまうと、後から挽回するのが難しくなるとのこと。確かに私も社会に出てから算数の挽回を必死に強いられているし、その実感があるからこそ親心として子供に算数をやらせたくなる気持ちはわかる。
田邉氏は、算数オリンピックで金メダルを取る子どもたちの共通点として「幼少期に遊びを通じて数や図形に親しんでいたこと」を挙げている。特別な早期教育ではなく、日常の中で算数に触れる機会を増やすことが大切なのだろう。だから答えを教えずに、見守ることが重要である、と。
親ができること
褒め方や、環境づくり、お膳立てなど、参考になる部分は枚挙にいとまがない。ここら辺の考え方やメソッドは、算数に限らず教育についての大切な考え方や取り組み方がさまざまな角度から語られている。この考え方は会社の新人教育にも通じる部分があるので目からウロコが落ちる思いだった。
また、つまずいたときに親がすべきことは「教えること」ではなく「一緒に考えること」だともいう。答えを教えるのではなく、ヒントを出しながら子ども自身が解決できるように導く。この姿勢が、子どもの自信と思考力を育てるのだろう。
きっとこの本を読んだ親御さんは、自分の子どもとの接し方を見直すきっかけになることだろう。
算数が苦手な大人にこそ
「算数が苦手」という意識を持ったまま大人になった人は少なくない。私もそのうちの一人であるが、学生時代に公式を丸暗記させられ、テストで点数を取ることだけに追われた結果、算数や数学を「つまらないもの」と感じてしまった人も多いだろう。
本書で紹介されている「教えないこと」「考える時間を与えること」「パズル的に楽しむこと」という姿勢は、実は大人が算数を学び直すときにも有効なのかもしれない。
例えば、りんご塾のパズルプリントのような問題集は、大人向けにも多数出版されている。数独やナンプレのように、遊び感覚で論理的思考を鍛えることができる。もっと言えばりんご塾 田邉代表のドリルも大人が取り組んだっていいはずだ。
それこそ本書の5章では、りんご塾謹製の珠玉のパズルが15個も掲載されている。可愛い見た目に反してかなり歯応えがあり、子どもたちはこんな難しい問題を解いているの……?と感動してしまった。
つまり、大切なのは、答えをすぐに求めないことみたいだ。試行錯誤しながら、自分で考えて答えにたどり着く。その過程そのものが、算数の面白さを再発見するきっかけになるのではないだろうか。
本書の教育法は、子どもだけでなく、かつて算数でつまずいた大人にとっても、学び直しのヒントを与えてくれるだろう。
誰に読んでほしいか
特に、子どもが算数に苦手意識を持っている家庭や、これから算数教育をどう進めるか悩んでいる家庭にとって、具体的なヒントが詰まっている。また、教育関係者にとっても、子どもの思考力を育てる方法を学べる一冊だろう。
そして、算数が苦手なまま大人になってしまった人にとっても、学び直しの入口になるかもしれない。
講談社+α新書『本物の算数力の育て方 子どもが熱中する「りんご塾」の教育法』。算数教育の新しい視点を得られる、そんな一冊だ。








