「解ける人」はどう考えているのか?
数学・数学教育を専門とする著者の芳沢光雄氏は、生徒たちが「暗記中心の学習スタイル」に陥っていると感じたという。
考える楽しさを味わう例題を通じ、単なる「やり方」の暗記ではない「発見的解法」を身につけることを本書は目標としている。
この方針を支える、数学における「発見的問題解決法」には以下の13種類がある。

家でパーティを開くため、お母さんは小学生の兄と妹に5000円を渡し、270円のお弁当7個に加え、60円のお団子と90円の草餅を適当に混ぜて買ってくるように依頼した。指定の買い物を済ませた子どもたちは、おつりを使って100円のアイスキャンデーをそれぞれ買って食べてしまった。
帰宅後、お母さんにおつりとして210円を渡すと、お母さんは買い物の内訳を確認することもなく、「おつりが210円は変よ」と子どもたちを叱った……。
なぜお母さんは買ったものを見てもいないのに、子どもたちがおつりをごまかしていることを一瞬で見破れたのか?
この答えから、まさに冒頭で挙げた「頭の中、どうなってるの?」の一例を知ることができる。
解法や定理を覚えることも大切だが、解法の暗記だけでは数学の学習はいずれ行き詰まり、つまらない作業になっていく。逆に、問題への取り組み方さえ閃(ひらめ)けば、難しく見えた問題がスルッと解けてしまうことが数学にはある。
この本は、論理はもちろん、直感も総動員して試行錯誤する楽しさを教えてくれる。
「思いつくための数学力」を鍛える1冊だ。
考える力を磨く
たとえば、数学の基本とも言える「数と式」についてのまとめと解法は第1章で解説されており、
整数は物理量を扱う連続する実数とは異なり,ものの個数を数える離散数学,デジタル社会に必須の符号理論や暗号理論などの基礎となる。整数の議論には「割り切れるか否か」ということが本質にあり,演習を通して学ぶ。
ここでひとつの例題を見てみよう。

そこで、有理数の和と積が整数であるという制約があるので「aとbを既約分数で表し、積と和の式を立て、整数であるための条件を考える」という方針を立ててみたが、少し手数が多い気がする。この本ではどのようなアプローチで解くのだろう?
背理法で証明することを考える。
この場合は,2つの有理数a,bの和と積が整数で,aとbの少なくとも1つが整数でない場合を仮定して矛盾を導こう。
数学・算数ほど「心が大事」
一歩一歩理解を積み上げ、わからなくなったところには説明を積み上げる……。そんな「心」が大切なのだ、と。
その「積み上げ」を支えるのは、「わかる!」「できた!」という心の高揚ではないだろうか。この本は、「あ、解ける!」という確信が雷のように頭の中を駆けていく、その瞬間の高揚を何度も味わわせてくれる。