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2025.06.02

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なぜあの人は数学が解けるのか? 13の考え方で“思いつくセンス”を育てる数学読本

「解ける人」はどう考えているのか?

難しいことや、発想力豊かな人のスゴ技を見たとき「頭の中はどうなってるの?」と驚くことがある。数学における「解ける人の考え方」を覗(のぞ)き見ることができるのが『いかにして解法を思いつくのか「高校数学」(上・下)』」だ。

数学・数学教育を専門とする著者の芳沢光雄氏は、生徒たちが「暗記中心の学習スタイル」に陥っていると感じたという。
考える楽しさを味わう例題を通じ、単なる「やり方」の暗記ではない「発見的解法」を身につけることを本書は目標としている。
この方針を支える、数学における「発見的問題解決法」には以下の13種類がある。
この中の(3)「背理法」とは「結論を否定して推論を積み重ね、矛盾を導いて結論の成立を証明する」方法だ。この例として、面白い小話が掲載されている。
家でパーティを開くため、お母さんは小学生の兄と妹に5000円を渡し、270円のお弁当7個に加え、60円のお団子と90円の草餅を適当に混ぜて買ってくるように依頼した。指定の買い物を済ませた子どもたちは、おつりを使って100円のアイスキャンデーをそれぞれ買って食べてしまった。
帰宅後、お母さんにおつりとして210円を渡すと、お母さんは買い物の内訳を確認することもなく、「おつりが210円は変よ」と子どもたちを叱った……。
なぜお母さんは買ったものを見てもいないのに、子どもたちがおつりをごまかしていることを一瞬で見破れたのか?

この答えから、まさに冒頭で挙げた「頭の中、どうなってるの?」の一例を知ることができる。

解法や定理を覚えることも大切だが、解法の暗記だけでは数学の学習はいずれ行き詰まり、つまらない作業になっていく。逆に、問題への取り組み方さえ閃(ひらめ)けば、難しく見えた問題がスルッと解けてしまうことが数学にはある。

この本は、論理はもちろん、直感も総動員して試行錯誤する楽しさを教えてくれる。
「思いつくための数学力」を鍛える1冊だ。

考える力を磨く

本書は芳沢氏の著書のひとつである検定外高校数学教科書『新体系・高校数学の教科書』(ブルーバックス)を基礎とした演習書でもある。『新体系・高校数学の教科書』は数学1、2、3、A、B、Cをつながりをもった1本の大きな体系として捉え直しており、本書の章立てもそれに沿って構成されている。

たとえば、数学の基本とも言える「数と式」についてのまとめと解法は第1章で解説されており、
整数は物理量を扱う連続する実数とは異なり,ものの個数を数える離散数学,デジタル社会に必須の符号理論や暗号理論などの基礎となる。整数の議論には「割り切れるか否か」ということが本質にあり,演習を通して学ぶ。
といった、学習における着目点も述べられている。

ここでひとつの例題を見てみよう。
本書では問題文に続いて解説が書かれているが、芳沢氏は「自信があれば一度自分で解いてみて、そうでない人も少し考えてみてから解説を読む」ことを勧めている。そうすることで、より解説が頭に残りやすくなる。

そこで、有理数の和と積が整数であるという制約があるので「aとbを既約分数で表し、積と和の式を立て、整数であるための条件を考える」という方針を立ててみたが、少し手数が多い気がする。この本ではどのようなアプローチで解くのだろう?
背理法で証明することを考える。
この場合は,2つの有理数a,bの和と積が整数で,aとbの少なくとも1つが整数でない場合を仮定して矛盾を導こう。
詳細な解法は引用を控えるが、初めに思いついた解法よりずっとシンプルに求める答えを得ることができた。どの方法でも最終的には解けるが、この本には「問題に対する方針の立て方」を試行錯誤する楽しさがある。先に引用した13の「発見的問題解決法」をもとに(よりスマートな)解きかたを探るのはゲームのような楽しさがあり、思考することの面白さを実感できた。

数学・算数ほど「心が大事」

機械的に解くもの、解けるものと思われがちな数学だが、芳沢氏は「算数・数学ほど心が大事」だという。
一歩一歩理解を積み上げ、わからなくなったところには説明を積み上げる……。そんな「心」が大切なのだ、と。
その「積み上げ」を支えるのは、「わかる!」「できた!」という心の高揚ではないだろうか。この本は、「あ、解ける!」という確信が雷のように頭の中を駆けていく、その瞬間の高揚を何度も味わわせてくれる。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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