「ファンの復習ノート」かつ「初心者への招待状」
本書の素晴らしさは、“45周年記念誌”というだけでなく、「野望」というタイトルが示すとおり、未来への創作意欲に満ちた現在進行形の記録であることだ。
記憶と演者の言葉が重なる至福
特に新感線は役者がつらければつらいほど面白いんですよ。
『髑髏城の七人』Season鳥(17)で、阿部(サダヲ)が本気でハンマー振り回すんですよ、俺の心臓めがけて。怖いすわ。阿部、手ぇ抜かないから。
パンフレットでも読めない「すべらない話」が聞けるのは「総動員数60万人! 出演者38人に聞いたステアラの記憶」だ。
客席が360度回転するIHIステージアラウンドでの体験は、通常の劇場では味わえない感動がある。ここで観た「髑髏城の七人」シリーズや「メタルマクベス」の記憶が、演者たちの証言と重なり合う瞬間は至福の時間だった。滑らかに回転する客席が叶えるスムーズな場面転換、至近距離の殺陣、何より演者たちの熱量が直接肌に伝わってくる特別な空間の魔法を、本書は言葉と写真で追体験させてくれる。
涙が出るほど感激したのが『修羅天魔〜髑髏城の七人』Season極の大詰め、極楽太夫の走馬灯シーンの舞台裏が公開されていることだ。観た人全員がきっと忘れられないであろう、あの特別なシーンに感じていた「不思議」のわけをいま知ることができる喜びと、「もうステアラはないんだ……」という感傷にしばし浸った。
あのときの天海祐希の美しさは本当に神々しく、そこにないはずの花が背後に咲いた——と感じた夜を思い出す。「ゲキ×シネ」で同じ場面を観たとき、その花びらの気配をさらにくっきりと感じた。「ゲキ×シネ」ならではのカメラワークが、舞台では捉えきれない表情の機微や演技の細部を鮮やかに映し出すのだ。
そんな「ゲキ×シネ」だからこそのベストシーンも、本書には掲載されている。
「目が足りない」をカバーする「ゲキシネ」の魅力
初めての1本には、「狐晴明九尾狩」(きつねせいめいきゅうびがり)をお勧めしたい。ステアラのようにスムーズな場面転換はできないはずなのにシーンの切り替えが実に自然で映画のよう。そしてラストのワンカットが舞台では観られない、なんとも言えない素晴らしさなのだ。
本書は単なる長寿劇団ではなく、常に新しい挑戦を続けてきた劇団☆新感線の「野望」の軌跡。
長年のファンにとっては懐かしい記憶を呼び覚ます宝物に、初心者にとっては新感線の世界観を視覚的に体感できる入口になるだろう。
本を閉じたら、今度はあなたの足で劇場へ——まずは映画館で観られる「ゲキ×シネ」に足を運んでみてほしい。「野望」が生み出す奇跡の世界があなたを待っている。







