本書は講談社の編集次長であり、『現代ビジネス』のコラムや多数の著書でも知られる中国通の著者が、過去から現在までの中国をよりよく理解できるよう世に送り出した1冊だ。
中国人とは、「中国大陸に踏み立つ人」のことである。
このことが、中国人の「骨格」をなしている。14億1000万中国人の「基本的人格」を形成するのに、大きく作用している。「大陸」という要素を抜きに、中国人を語ることはできない。中国の地政学を論じることもできない。
それは、日本人とは「日本という列島に踏み立つ人」であり、周囲を海に囲まれた小さな島国に住んでいるということが、日本人の「骨格」をなしているのと同様だ。
そのため昨今、台頭し始めたような「排外主義」の文脈で中国及び中国人を捉えることは、日本の国益にならないし、日本人の幸福にも結びつかない。(中略)
思うに、中国及び中国大陸の民との葛藤の多くは、相互の理解不足から起こっている。そこでまずは、「ほんとうの中国」を知ることから始めよう──そんな主旨で、中国のあらましを平易に綴ったのが本書である。
中でも興味を惹かれたのは、「中国人はひとつではない」と題された第六章だ。たとえば、私たちも日常的に口にする中華料理が地方によって豊かな個性を持っていることに、異論を挟む人はいないだろう。そして日本と同じく、中国各地にもそれぞれ特色がある。
私は北京駐在員時代、約3000人の中国人と名刺交換したが、そのたびに心がけていたことがあった。初対面の時に、必ず出身地を訊ねるのである。
もし相手が「江蘇省」と答えたら、「江蘇省のどちらですか?」とさらに聞く。中国では初対面の人に出身地を聞くことは、けっして失礼ではなく、むしろ多くの人が喜々として、故郷の自慢話などをしてくれた。なぜ出身地を訊ねるのかと言えば、出身地によって性格、好み、考え方などが大きく異なるからだ。
ちなみに第四章では「孔子の教え」や「老師の至言」も紹介されている。歴史から地理、哲学、経済、政治に至るまで、今の中国をひと通り見渡したい方は、本書を通じて「中国ウォッチャー」たる著者の目を借りてみてはいかがだろうか。