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2025.09.16

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中国と日本──「常識」がこんなに違う理由とは? 日本人が知らない思考と行動原理

古来より中国は、わが国にとって大きな隣国だ。むろん現在でもその存在は、私たちの暮らしや経済、未来にまでも直結している。しかし、それだけ関係の深い国であっても、「実情はあまり知らない」という方は少なくないだろう。

本書は講談社の編集次長であり、『現代ビジネス』のコラムや多数の著書でも知られる中国通の著者が、過去から現在までの中国をよりよく理解できるよう世に送り出した1冊だ。
中国人とは、「中国大陸に踏み立つ人」のことである。
このことが、中国人の「骨格」をなしている。14億1000万中国人の「基本的人格」を形成するのに、大きく作用している。「大陸」という要素を抜きに、中国人を語ることはできない。中国の地政学を論じることもできない。
それは、日本人とは「日本という列島に踏み立つ人」であり、周囲を海に囲まれた小さな島国に住んでいるということが、日本人の「骨格」をなしているのと同様だ。
このように、著者はまず両国の成り立ちと両国民の違いを定義し、長年にわたる交流を「戦略的互恵関係」と位置づける。その上で、変わりゆく現状に警鐘を鳴らすとともに、本書を執筆した目的についてもこう語る。
そのため昨今、台頭し始めたような「排外主義」の文脈で中国及び中国人を捉えることは、日本の国益にならないし、日本人の幸福にも結びつかない。(中略)
思うに、中国及び中国大陸の民との葛藤の多くは、相互の理解不足から起こっている。そこでまずは、「ほんとうの中国」を知ることから始めよう──そんな主旨で、中国のあらましを平易に綴ったのが本書である。
全六章から成る本書では、30のキーワードに基づき、中国と中国人の思考や行動原理、その変化を分析していく。著者はかつて北京大学へ留学し、駐在員としても北京に長く暮らしたという。各章にはそういった日々のエピソードや当時の見聞が、最新の情報とともにふんだんに盛り込まれており、単なる記述にとどまらず、現地の空気感や人々の温度がそこかしこににじむ。

中でも興味を惹かれたのは、「中国人はひとつではない」と題された第六章だ。たとえば、私たちも日常的に口にする中華料理が地方によって豊かな個性を持っていることに、異論を挟む人はいないだろう。そして日本と同じく、中国各地にもそれぞれ特色がある。
私は北京駐在員時代、約3000人の中国人と名刺交換したが、そのたびに心がけていたことがあった。初対面の時に、必ず出身地を訊ねるのである。
もし相手が「江蘇省」と答えたら、「江蘇省のどちらですか?」とさらに聞く。中国では初対面の人に出身地を聞くことは、けっして失礼ではなく、むしろ多くの人が喜々として、故郷の自慢話などをしてくれた。なぜ出身地を訊ねるのかと言えば、出身地によって性格、好み、考え方などが大きく異なるからだ。
著者は「行政上、22省・4直轄市・5自治区」に分かれている中国全土を、ほぼ踏破しているという。その経験と、多様な人との出会いをふまえた第六章では、各地域の特徴を独自の視点で語りつくしている。いずれもざっくばらんで生活感にあふれた評価であり、随所に著者の意外な体験談が花を添える。行ったことのない街にも、親近感を覚える章だった。

ちなみに第四章では「孔子の教え」や「老師の至言」も紹介されている。歴史から地理、哲学、経済、政治に至るまで、今の中国をひと通り見渡したい方は、本書を通じて「中国ウォッチャー」たる著者の目を借りてみてはいかがだろうか。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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