それは私たちが「社会を変える」ということをよく知らない、きちんと見ていないからです。
この本は「社会を変えよう」と呼びかけるものでも、「社会の変え方」を伝えるものでもありません。日本社会に生きる私たちは、そもそもそれ以前の問題として「社会を変える」ということをよく知らないのです。だからこそ、私たちの社会は確かに変わっていること、また社会を変えた主体として私たちのような市井の人々がいることにも気づかないのです。だからこそ、私たちがやるべきことは、まず「社会を変える」とは何なのかを、過去の研究や事例に照らして明らかにすることです。
さて、あらためて「社会運動」とは何か。本書では「私たち一人ひとりが社会を変える活動」と位置付ける一方で、「社会運動は法や制度で定義が定められている活動ではない」とも語る。全十章のうち第一章では、「社会運動」の定義の広さと揺れを提示し、社会運動論を学ぶ意義と必要性に触れる。第二章以降では、社会運動論が一つの学問分野として扱われるようになってからの約40年の歴史と、多様な理論を紹介しつつ、具体的なできごとを取り上げることで読者の理解を深めていく。
たとえば第六章では「フレーム分析」に基づく「フレーミング(Framing)」という概念が紹介される。具体例として取り上げられるのは「カスタマー・ハラスメント」、通称「カスハラ」だ。最近ではスーパーなどの店頭でポスター掲示を通じて警鐘を鳴らされるその問題が、どういった経緯で明らかになり、名付けられ制度化されたのかを追っている。
日本のような社会で長年生活していると、自分の抱える困りごとを社会や政治のせいにすること、社会や政治に対して憤りや不満を抱くことは困難な場合も多いでしょう。ですが社会運動が上手にフレームを構築することによって、人々は社会や政治に怒りを抱くことができ、自己責任から解放されることも可能になるかもしれません。
冒頭には、「あなたの社会運動チャート」と題する表も掲載されており、どこから読めばいいか迷った時の助けになる。また各章の註や巻末では、多くの参考文献が紹介されている。入門書としてはもちろん、各理論のおさらいがしたい方にとっても有益に違いない。著者の「力」のおすそわけに与り、社会を見る新たな目を手に入れ、自分に何ができているのかを知っていきたい。
