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2025.08.20

レビュー

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デモ、ストライキ…社会運動はどのようにして起きるのか。激動の時代を生きるための技術

冒頭から胸を打たれた。日本で暮らしながら、社会の一員として「自分には何ができるだろう?」と自問しているすべての人に読んでほしい。本書は「気づかぬうちに、あなたも変化に関わっている」可能性を伝えた上で、ではなぜそれに気がつくことができないのかを、こう指摘する。
それは私たちが「社会を変える」ということをよく知らない、きちんと見ていないからです。

この本は「社会を変えよう」と呼びかけるものでも、「社会の変え方」を伝えるものでもありません。日本社会に生きる私たちは、そもそもそれ以前の問題として「社会を変える」ということをよく知らないのです。だからこそ、私たちの社会は確かに変わっていること、また社会を変えた主体として私たちのような市井の人々がいることにも気づかないのです。だからこそ、私たちがやるべきことは、まず「社会を変える」とは何なのかを、過去の研究や事例に照らして明らかにすることです。
著者は社会運動論の専門家で、現在は立命館大学産業社会学部の准教授を務めている。研究を続けるうちに、いつしか社会運動の成果や背景を見抜き、分析することができるようになったという。そうして得た自身の「力」は、社会運動をしている人はもちろん、社会運動をしていない人にも役立つことがあると考え、本書の執筆に至ったそうだ。

さて、あらためて「社会運動」とは何か。本書では「私たち一人ひとりが社会を変える活動」と位置付ける一方で、「社会運動は法や制度で定義が定められている活動ではない」とも語る。全十章のうち第一章では、「社会運動」の定義の広さと揺れを提示し、社会運動論を学ぶ意義と必要性に触れる。第二章以降では、社会運動論が一つの学問分野として扱われるようになってからの約40年の歴史と、多様な理論を紹介しつつ、具体的なできごとを取り上げることで読者の理解を深めていく。

たとえば第六章では「フレーム分析」に基づく「フレーミング(Framing)」という概念が紹介される。具体例として取り上げられるのは「カスタマー・ハラスメント」、通称「カスハラ」だ。最近ではスーパーなどの店頭でポスター掲示を通じて警鐘を鳴らされるその問題が、どういった経緯で明らかになり、名付けられ制度化されたのかを追っている。
日本のような社会で長年生活していると、自分の抱える困りごとを社会や政治のせいにすること、社会や政治に対して憤りや不満を抱くことは困難な場合も多いでしょう。ですが社会運動が上手にフレームを構築することによって、人々は社会や政治に怒りを抱くことができ、自己責任から解放されることも可能になるかもしれません。
思わず深く頷(うなず)いた。「カスハラ」は、ある日突然、言語化され制度化されたように感じていた。だが実際はそうではなかった。本書を通じ、その背後にあった状況や関係者の声を知ることにより、「フレーミング」の力を実感するのと同時に、接客業で働いていた当時の、行き場のなかったやるせない気持ちが報われた気がした。

冒頭には、「あなたの社会運動チャート」と題する表も掲載されており、どこから読めばいいか迷った時の助けになる。また各章の註や巻末では、多くの参考文献が紹介されている。入門書としてはもちろん、各理論のおさらいがしたい方にとっても有益に違いない。著者の「力」のおすそわけに与り、社会を見る新たな目を手に入れ、自分に何ができているのかを知っていきたい。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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