PICK UP

2025.07.16

レビュー

New

「書ける自分」になる! 書けなさから脱出するための大事な思考法

本書はウェブマガジン「現代ビジネス」にて、約10ヵ月にわたり発表された連載をまとめたものである。書籍化に伴い、連載時のタイトル「ことばの再履修」は副題となり、タイトルは現在の形へと改められた。とはいえこの副題は、本書に深く関わっている。

1988年にライターとしてデビューした著者は、文学や映画、音楽、演劇といった多岐にわたる分野で、レビューやコラム、インタビューなどの執筆活動を行ってきた。批評家、評論家としてもその名を知られ、多くの著書を出版している。早稲田大学や立教大学で教鞭を執るかたわら、2021年からは、特定非営利活動法人「映画美学校」の「言語表現コース」、通称「ことばの学校」で主任講師も務めている。

著者によれば、「『ことばの学校』は映画と直接関係はなく、日本語による『言語表現』全般を学ぶコース」だそうで、著者の発案から学校側との協議を経て生まれたカリキュラムだという。そして本書の副題「ことばの再履修」は、2022年にこのコースのことを書いたエッセイの題名だった。著者はそのエッセイを引用した上で、こう述べている。
本書は「ことばの学校」と密接な関係を持っています。講義の内容そのままというわけではありませんが、同校の受講生以外の方にも、私が「ことばの学校」という試みでやりたいと思っていること、その根幹となる「ことば」の使用と表現にかんする幾つかの考え方をお伝えしたいというのが、これから始まる「ことばの再履修」の動機のひとつです。
こうした著者の思いが形となった本書は、理論編と実践編の2部で構成されている。その内容を「章」ではなく「講」として立てている点に、本書の出自とこだわりを感じた。全16回の講義と2回の補講を通し、自らの「ことば」のありようと向き合いながら、「書くこと」を捉え直すための方法が提案されていく。

さて本書では、例としてさまざまな作品が引用されている。小説はもとよりエッセイ、哲学、評論、戯曲と、そのジャンルは幅広い。本好きな方であれば、過去に読んだことがあってもなくても、興味を惹(ひ)かれるタイトルばかりだろう。しかし、それだけ多くの作品を取り上げながらも、著者は具体的に「何を」書くかについては言明していない。その選択はあくまで読者に委ねられており、「『何か』を書きたい」と思っている人が「書くこと」にたどりつけるにはどう考えればよいかという道筋が、驚くほど丁寧に説明されていく。

ほかにも意外な点がある。たとえば技術論の書であれば、「書き方」を指南したり、決まった「型」を教えたりするものもある。しかし本書において著者が突きつけるのは、その逆だ。
書くこと、読むこと、話すこと、語ること、綴ること、述べること。文章には、技術という要素もありますが、それだけではありません。「上手い文章」や「良い文章」がひと通りしかなかったら、世の中の文章はぜんぶ同じになってしまいます。
ことばの使い方を学ぶこと、書くことを学ぶこと、言語表現を学ぶことの目的は、究極的には自分が自分だからこそ書けることば、ある意味では自分にしか書けない文章を書けるようになることだと思います。
本書をもとに考えることで立ち現れるのは、過去に読んだものから選んだ言葉によってできあがった自分自身だ。それは、自分が自分にはめてきたある種の「枷(かせ)」を意識する行為であり、自らの「型」をより知ることでもある。そうして、他人とは違う自分を意識して初めて、あなたにしか書けないあなたの言葉が生まれ始める。

現代に生きる限り、ことばからは逃れられない。書くことも読むことも考えることも、人生に欠かせない手段であり続ける。そうである以上、心のままに書きたいことを書けるようになるためには──本書が示す思考法に、触れてみては。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

おすすめの記事

2025.05.28

レビュー

あなたの文章は分かりにくい!? 読み手を説得する18のテクニック【超実践的文章術】

  • 仕事
  • ビジネス
  • 田中香織

2025.03.10

レビュー

「誤解を招いたとしたら申し訳ない」……それ、謝罪になってませんよ。言語哲学者が明かす言葉のリアル

  • 哲学・思想
  • 社会・政治
  • 奥津圭介

2023.05.17

レビュー

わかって書いたら全然違う! SNSにも役立つ、ひと味違う文章を書くための究極マニュアル

  • コラム
  • ほしのん

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET