本書の旧版は2004年に、『「分かりやすい表現」の技術』『「分かりやすい説明」の技術』に続く、シリーズ3作目として出版された。ロングセラーとして読み継がれることで、著者の元には本に関する多数の講演や研修の依頼があったという。今回、新装版を刊行するにあたっては、そうした経験から得た発見を盛り込み、内容をブラッシュアップしたそうだ。
ところで「文章」とひと口にいってみても、その内容や目的により、書き方や考え方は大きく異なる。著者は本書の冒頭で、「文章」の定義と本書を書いた目的を、以下のように語っている。
文章には、大きく分けると小説やエッセイなどの芸術文と、意見、情報、研究成果などを伝達、発表する実務文の二種類があります。本書は実務文の書き方を述べたもので、余韻の残る名文を書くための本ではありません。
(中略)書店には、すでに多くの文章術の本があります。そこに私がもう一冊加えたかった理由は、高校生にも文章の書き方の教科書として理解できるような本を世に出したいと思ったからです
さて第1章では「分かりにくい文章」を紹介する。つづく第2章では、「分かりやすい文章」を説明するために、認知心理学をベースとして、人間の脳が情報をどのように処理しているのかを解説していく。著者は、人間の短期記憶を「脳内関所」、長期記憶を「脳内辞書」と名付け、情報処理の流れをこんなふうにつづっている。
新しい情報は脳内関所で審査され、同じ種類の脳内辞書に収められます。その瞬間に私たちは「分かった!」「そういう意味ね!」と思うのです。
つまり、「過去の記憶との一致」が「分かる」の重要な要素の一つなのです。
(中略)
反対に新しい情報を脳内関所で分析しても、脳内辞書に「同じ意味のグループ」を発見できない場合は、当然「分からない」ことになります。
第3章以降では、いよいよ「分かりやすい文章」を書くにあたっての、18のテクニックに触れていく。実際、テクニック9の「読み手の視点で書く」は、接客業で謝罪文を書く時に役立った覚えがあるし、テクニック12の「センテンスを短くする」は、文章を書く仕事を始めた際、最初に意識した点だった。挙げられているテクニックは、文章を書く上でのチェックポイントになると同時に、書いた後の文章を採点する基準ともなっている。
何も学ばずに文章をうまく書ける人は、そう多くない。具体例をふんだんに取り上げた本書を通じて、明日からの仕事に役立つ知識を、大いに吸収していこう。