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2025.07.15

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認知症になる人の生活習慣とは? 日本の認知症患者500万人を半分に減らせる方法

リスクを積み重ねるか、リスクを下げるか

自分や家族が認知症になるかどうかがハッキリわかれば、どんなに気がラクになるだろうと思うが、そんな確定情報を知るのは怖いなあとも思う。そしてできることなら予防したい。つまり「とにもかくにも避けたい」と思っている。では、そんな方法はあるのだろうか。

『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』は、冒頭でこんな事実を明かす。
世の中には「こうすると認知症になる」「こうすれば認知症にならない」というように、あたかも白黒はっきり分かれるような話が溢れていますが、実際にはそんなに単純なものではありません。(中略)
リスクが積み重なることで「認知症になりやすくなる」、リスクを下げることで「認知症になりにくくなる」という、確率の上げ下げの世界を生きているのです。
本書の著者である山田悠史先生は、認知症になるかならないかの世界を、「白か黒ではなく、その間にグラデーションが広がっています」と説明する。このグラデーションの世界を学べる本だ。認知症の基礎知識や治療法、課題とその解決策が解説されている。

山田先生は、高齢者特有の問題に対処する「老年医学」の専門家。山田先生が勤めるニューヨークのマウントサイナイ医科大学の老年医学科は、USニューズ&ワールド・レポートが行う全米病院ランキングで5年連続1位に選ばれているという。

そして認知症については「根幹となる予防や治療は、日本でも米国でも同じです」とのこと。

認知症の患者さんを診察し、その家族と接する山田先生が本書で解説する「認知症になるリスクを下げる方法」は、どれも実生活で取り入れやすい。そして、テレビやSNSに溢れる「このサプリが認知症に効く」といった情報や、「自由診療」の効果についても本書は切り込んでいる。

わかりやすく、温かみのある言葉で、誰にでもすぐにできそうなことを教えてもらえる本だが、同時に耳が痛い1冊でもある。山田先生の前著『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』のファンにもぜひ読んでいただきたい。

部屋の換気をしないことのリスク

「第1章 認知症になる人の生活習慣」では、認知症のリスクを高める可能性がある13の生活習慣が、科学的な根拠とともに紹介されている。恥ずかしながら私は6つほど当てはまってしまった。

たとえばこの章で最初に紹介される「部屋の換気をしない」だ。空気清浄機が稼働しているからまあいいかと思って、ガスコンロを使って料理をするときに換気扇を回したり回さなかったり、窓を開けないことも多いのだが、これが大間違いだと本書のおかげでわかった。

どう大間違いなのか。一部を紹介しよう。
PM2.5(直径が2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子のこと。このサイズは人間の髪の毛の大きさの約30の1であり、肉眼では見えないほど小さい)と呼ばれる微粒子や、二酸化窒素などの有毒ガスは、ガスコンロで換気扇を使わず調理した場合、大気汚染で安全と考えられるレベルの100倍を超えるような濃度まで上がってしまうことが知られています。
ではなぜ空気の汚れが認知症のリスクを上げうるというのか。
実際、これまでの研究で、空気中に含まれるPM2.5が子どもから高齢者までどの世代においても、脳の発達や認知機能に影響を与えうることが報告されています。例えばある研究では、PM2.5の濃度が大気1立方メートル中に平均1マイクログラム増加するたびに、認知症リスクが3%ずつ増加すると報告しています。
そこで山田先生が強く推奨するのが「窓を開けての定期的な換気」だ。

この換気については「第3章 認知症にならない人の暮らし方」でも、山田先生の実体験とともに詳しく取り上げられている。こちらを読むとますます「換気しなきゃ……!」となる。

掃除や料理のタイミングで窓を開けて換気をするだけなら、きっと誰にでもできる。朝の交通量が少ないタイミングで窓をあけるのもいいだろう。何よりゼロ円でできる。

そう、認知症の予防法や健康食品は、高額なことも少なくない。

サプリを飲むよりお勧めしたいこと

「第2章 実は認知症予防に効果がないこと」は特に多くの人に知ってもらいたい章だ。

特定の食材や、サプリ、脳トレ、そして高額なPET検査や自由診療は、本当に認知症を防ぐのか。これらにありがちな「落とし穴」と正しい情報を冷静に見極めるためのヒントが、本章でたくさん紹介されている。それぞれ具体例を挙げつつも、この先、別の「認知症予防に効く!」と謳われる食材やサプリに出合ったときにも役に立つ考え方だ。

例えば「オメガ3脂肪酸」のサプリメントについて。認知症予防の文脈で研究が行われているものの、現段階で「認知症予防に効果がある」とはハッキリ断言できないことを、山田先生はこんなストーリーとともに紹介する。
例えばこんなストーリーを考えることができるからです。
オメガ3脂肪酸の濃度が高い人は、魚を日常的に食べられるくらい裕福で、高学歴で、よく頭を使う傾向もあった。そして、実はこの学歴の高さやよく頭を使う傾向が認知症リスクの低さや脳の萎縮の少なさに影響を与えていて、オメガ3脂肪酸が高いことによる直接的な影響はなかった。
上記のストーリーを図解するとこうなる。
つまり、この場合は、魚の摂取を増やしても、認知症リスクを下げることにはつながらない。

このエピソードは次の言葉で締めくくられる。マーカーでグリグリっと丸をつけたいくらい好きな言葉だ。
相関関係(AとBは関係がある)は必ずしも因果関係(AだからBである)を意味しません。
そして山田先生はこんな言葉もかけてくれる。
サプリの摂取に喜びを感じる方がそれに投資するのはもちろん自由です。
ただ、サプリにお金を使い、一定の時間やエネルギー(例えばインターネットでよりよいサプリを求めて検索する時間やエネルギー)を注ぐことで、それだけ別のことに使えるお金や時間、エネルギーを失うことになります。だとすれば、自分の幸せにつながることに使ったほうがいいのではないでしょうか。
人は「認知症にならない」ために生きているわけではありません。あなたの幸せを大切にしながら、できることを実践しましょう。
山田先生の言う「幸せ」は、「第1章 認知症になる人の生活習慣」や「第3章 認知症にならない人の暮らし方」、そして「第4章 認知症になっても、本当に必要なのはこれだけ」でも大切にされている考え方だ。不安を煽らず、決めつけの情報に頼らず、無理なく生きていける気持ちになる。

そう、やめた方がいい生活習慣の中でも、どうしてもやめられないものだってあるかもしれない(実は山田先生にも“やめられない習慣”があると明かされる)。

そして「第3章 認知症にならない人の暮らし方」の運動に関する項でも、「運動は認知機能の維持や改善に役立つ可能性がありますが、確実に効果があるとは現時点では言い切れません」「運動の種類を比較して『これが最強の認知症予防運動だ!』と示したエビデンスがない」と慎重に言い添えながら、運動には健康上の利点があることが語られる。

運動にメリットがあることはわかる、では何をすれば? そんな質問に対する山田先生の答えはこうだ。
私もよく患者さんから、「どんな運動をすれば良いですか?」と問われますが、そんなときには逆質問で「どんな運動が好きですか?」「どんな運動なら続けられそうですか?」と伺うようにしています。その答えがベストな選択肢だと思うからです。
自分でできそうなことを無理なく続けることこそが、一番ムダがなく、自分の幸せにつながりやすいのでは。生活習慣を見直して、社会のセーフティネットについて学ぶうちに、やがて肩の力が抜ける本だ。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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