監修を務めるのは、「認知症の人と家族の会」神奈川県支部の代表であり、公益社団法人日本認知症グループホーム協会の顧問でもある杉山孝博氏だ。氏は川崎幸病院で地域医療に携わり、現在はその外来部門である川崎幸クリニックの院長を務めている。著書の執筆や監修、メディアへの出演など多方面で活躍しており、認知症分野の専門家として広く知られている。
そうした杉山氏がつづった「まえがき」の言葉は、近年、認知症を患った家族や年上の友人と関わりを持つ私にとって、すとんと腑(ふ)に落ちるものだった。
認知症の人は、その人なりの世界で生きています。そこは、私たちの常識の基準とは少しずれている世界です。本書でも述べますが、「理性の世界」ではなく、「感情の世界」ですし、「現在の世界」ではなく「過去の世界」です。本人の世界にあてはめてみれば、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあるとわかります。

さて本書は、「認知症の人がすんでいる世界を理解する」と題した巻頭にはじまり、大きく5つの章で構成されている。第1章では「認知症になると起こること」、第2章では「不安に寄り添い、心配ごとには対策を」と題して、実際の症状や具体例がイラストを交えながら挙げられている。中には私が体験したケースもあった。その一つが、「まだら症状」だ。
認知症の人は、いつも非常識なことをするわけではありません。常識的でしっかりした言動のなかに、「なぜこんなこと?」という非常識な言動が「まだら」に出現するのが特徴です。
この「まだら症状」は、認知症の初期から末期まで存在しています。(中略)
症状がまだらに出現するので、周囲は、少しおかしな言動を前にしても、今が認知症の状態なのか、正常な状態での勘違いやがんこさなのか、見分けられずに混乱することがよくあります。

つづく第3章では認知症の人の心の動きを、第4章では認知症に伴う困った言動とその対処法を取り上げている。そして最終章となる第5章では、認知症の「9つの法則」とともに、現状の整理の仕方や、医療・福祉・公的制度へとつながる、介護者に向けた具体的なアドバイスが掲載されている。認知症という病がまだ身近に感じられない人にとっても、この第5章に目を通しておくだけで、基本的な知識や今後の心構えを得ることができるだろう。