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2025.05.23

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認知症の人がすんでいる世界を理解する手引書。介護をラクにする4つのコツとは?

本書は2012年に刊行された『認知症の人のつらい気持ちがわかる本』と、2014年に刊行された『認知症の人の不可解な行動がわかる本』をまとめ、最新の情報を加筆した1冊である。いずれも、公益社団法人「認知症の人と家族の会」(刊行当時は「呆け老人をかかえる家族の会」)が、かつて行った調査を基としている。

監修を務めるのは、「認知症の人と家族の会」神奈川県支部の代表であり、公益社団法人日本認知症グループホーム協会の顧問でもある杉山孝博氏だ。氏は川崎幸病院で地域医療に携わり、現在はその外来部門である川崎幸クリニックの院長を務めている。著書の執筆や監修、メディアへの出演など多方面で活躍しており、認知症分野の専門家として広く知られている。

そうした杉山氏がつづった「まえがき」の言葉は、近年、認知症を患った家族や年上の友人と関わりを持つ私にとって、すとんと腑(ふ)に落ちるものだった。
認知症の人は、その人なりの世界で生きています。そこは、私たちの常識の基準とは少しずれている世界です。本書でも述べますが、「理性の世界」ではなく、「感情の世界」ですし、「現在の世界」ではなく「過去の世界」です。本人の世界にあてはめてみれば、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあるとわかります。
本人も自分へ戸惑い、暗闇に向かって進むような不安をもっている
本人も自分へ戸惑い、暗闇に向かって進むような不安をもっている
イラスト/小林裕美子
この考え方に照らして過去のできごとを振り返ってみると、病を抱える当人にとっては、その行動にきちんとした筋が通っていたことが理解できる。一方で、かつては同じ常識を共有し、長年言葉を交わしてきた間柄だからこそ、その変化に戸惑うのも当然だと感じる。互いの間に生じた溝を埋めるには、相手が移り住んだ「新しい世界」の内実を知るしかない。その意味で本書は、認知症の人が暮らす世界への「手引書」といえるだろう。

さて本書は、「認知症の人がすんでいる世界を理解する」と題した巻頭にはじまり、大きく5つの章で構成されている。第1章では「認知症になると起こること」、第2章では「不安に寄り添い、心配ごとには対策を」と題して、実際の症状や具体例がイラストを交えながら挙げられている。中には私が体験したケースもあった。その一つが、「まだら症状」だ。
認知症の人は、いつも非常識なことをするわけではありません。常識的でしっかりした言動のなかに、「なぜこんなこと?」という非常識な言動が「まだら」に出現するのが特徴です。
この「まだら症状」は、認知症の初期から末期まで存在しています。
(中略)
症状がまだらに出現するので、周囲は、少しおかしな言動を前にしても、今が認知症の状態なのか、正常な状態での勘違いやがんこさなのか、見分けられずに混乱することがよくあります。
イラスト/小林裕美子
まさにその通りだと、深く頷かされた。私も当初は「まだら症状」について知らず、「信頼している相手を疑いたくないし、自分の受け取り方が間違っているのでは」と、自分自身に疑念を抱くことがたびたびあった。しかし問題が続く中で、徐々に相手の症状を疑うようになり、「これが認知症なのか」と気づくに至った。もっと早く知っていれば、迷い続ける時間を短くできたかもしれない。

つづく第3章では認知症の人の心の動きを、第4章では認知症に伴う困った言動とその対処法を取り上げている。そして最終章となる第5章では、認知症の「9つの法則」とともに、現状の整理の仕方や、医療・福祉・公的制度へとつながる、介護者に向けた具体的なアドバイスが掲載されている。認知症という病がまだ身近に感じられない人にとっても、この第5章に目を通しておくだけで、基本的な知識や今後の心構えを得ることができるだろう。

レビュアー

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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