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2025.06.23

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いますぐ始めよう!  認知症をグレーゾーンでくい止め、認知機能を回復・維持する対策法

遠い昔、母方の祖母が自分の娘である私の母のことを忘れてしまい、母がとても悲し気な表情を浮かべていた記憶が、今も鮮明に残っています。幼い頃に体験したこの出来事が、おそらく私と認知症との出合い。

私もすでに人生の折り返しを過ぎて、いずれは自分も……などとぼんやり思い始めたタイミングで、本書が目に留まりました。注目したいのは、「認知症をグレーゾーンでくい止める」というサブタイトル。認知症は、一度進行したらもう止められないものと思っていたので、気になるところです。

本書では、65歳以上の人口の15%以上が当てはまるという軽度認知障害(MCI)=「認知症のグレーゾーン」の詳細について、そしてその予防や進行を止めるための具体的な方法を解説しています。

認知症の手前となる「グレーゾーン」を知る

私の祖母の症状がそうであったように「認知症=忘れる」というイメージが強く、私自身もそう思い込んでいましたが、正しくは「認知機能の低下が一定以上進んだ状態」のことを認知症と呼びます。

認知機能とは、計算や文字の読み書き、時間や場所などの把握、段取りや計画、推測、見聞したことの理解、注意、そして記憶といった知的活動が含まれます。一般的な老化現象でこうした機能も低下していきますが、通常であればその進行はゆるやか。もし急激な変化が見られるようであれば、老化以外の要因があるのかもしれません。
認知症とも、年齢相応の衰えともいえない場合があります。自然な老化の範囲を超えたグレーゾーンの状態が、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)です。
認知症と自然な老化の微妙な境界に位置する、まさに「グレーゾーン」。それが軽度認知障害です

「面倒くさい」「ドキっとする忘れ方」……大事なサインを見逃すな

認知症に至る際に、いくつかの前兆が発生します。これを見逃さないことが大切。先ほど「認知症=忘れる」のイメージが強いと書きましたが、実は、記憶よりも先に「意欲」が低下してきたら、それは認知症の最初のサインです。外出や身だしなみの管理、長く続けていた趣味や料理などが「面倒くさい」と感じ始めたら、注意が必要かもしれません。私は、毎日髭を剃るのは面倒くさいと感じていますが、これはもう20年以上ずっと思っていることなので、おそらく認知症サインではないのでしょう。「急に」「頻繁に」面倒くさいと思ったら要注意かも!?

また、認知機能の低下を実感しやすいのは、記憶力の低下。他人との約束や自分が何をするつもりだったのかをド忘れしてしまうなど、「ドキっとする」ような経験が増えたら、それもグレーゾーン突入の可能性を示すサインです。

ちなみに、年相応の忘れ方と病的な忘れ方の違いについて整理した図も掲載されていますが、その境界はあいまいで明確に区別できるとは限らないとされています。

軽度認知障害からのUターンも可能!

著者は、認知症というほどではないけれど自然な老化の範囲なのか微妙……という場合には、早めに医療機関を受診することを推奨しています。軽度認知障害には、回復の可能性があるからです。現状(軽度認知障害なのか、あるいは単なる老化なのか)を正しく把握して原因を突き止め、有効な対策をとることで、グレーゾーンからのUターン、あるいは進行を遅らせることが可能なのです。
ちなみに、私は健康診断であまりよくない数値が出ていたにもかかわらず数年放置した結果、今は毎日服薬する生活を送っており、もっと早く受診していれば、と後悔しています。「あなたは病気です」と診断されるのは正直怖いですが、(もしかして……)と悩みながら暮らすより、少しでも早く自分の状態をきちんと知ることが大切です!

本書では、アルツハイマー病の進行を遅らせる新薬を含めた軽度認知障害における薬物療法の詳しい解説も掲載されていますが、ここでは身近でできる生活改善によるUターンへの道を紹介します。

まず大切なのは、認知症の危険因子を知ること。
高血圧や肥満、喫煙、過度の飲酒といった万病の元ともいえるものに加えて、社会的孤立や聴覚障害が高い数値になっている点にも注目。これは、人との会話や交流は、脳の広い範囲を活性化させるので、逆にその機会を奪う社会的孤立や聴覚障害(聴こえづらい→会話を避ける→孤立)は認知症リスクを高めてしまうのです。

こうした因子についてさらに深掘りし、正しい食生活や運動を含めて、今から取り組める具体的な改善方法なども解説しています。
修正可能なリスクがゼロになれば、認知症の段階まで認知機能が低下していく人はほぼ半減する(正確には四五%減)と予測されています。
このように、生活を改善することで軽度認知障害からのUターンも可能になってくるのです。

認知症、そして軽度認知障害を正しく知り、対処すべき方法を学ぶことで、その予防から回復、あるいは進行抑制へと繋げていく。

本書は、認知症とは老化に伴い自然と発症する抗うことのできない病気と捉えがちだった自分に、目から鱗の発見をもたらしてくれました。認知症に対して怖がったり諦めたりすることなく、その手前のグレーゾーンで踏みとどまる、あるいは元の状態へと回復させる。そのための正しい知識や心構えを知ることができる、とても有意義な1冊です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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