私もすでに人生の折り返しを過ぎて、いずれは自分も……などとぼんやり思い始めたタイミングで、本書が目に留まりました。注目したいのは、「認知症をグレーゾーンでくい止める」というサブタイトル。認知症は、一度進行したらもう止められないものと思っていたので、気になるところです。
本書では、65歳以上の人口の15%以上が当てはまるという軽度認知障害(MCI)=「認知症のグレーゾーン」の詳細について、そしてその予防や進行を止めるための具体的な方法を解説しています。
認知症の手前となる「グレーゾーン」を知る
認知機能とは、計算や文字の読み書き、時間や場所などの把握、段取りや計画、推測、見聞したことの理解、注意、そして記憶といった知的活動が含まれます。一般的な老化現象でこうした機能も低下していきますが、通常であればその進行はゆるやか。もし急激な変化が見られるようであれば、老化以外の要因があるのかもしれません。
認知症とも、年齢相応の衰えともいえない場合があります。自然な老化の範囲を超えたグレーゾーンの状態が、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)です。

「面倒くさい」「ドキっとする忘れ方」……大事なサインを見逃すな
また、認知機能の低下を実感しやすいのは、記憶力の低下。他人との約束や自分が何をするつもりだったのかをド忘れしてしまうなど、「ドキっとする」ような経験が増えたら、それもグレーゾーン突入の可能性を示すサインです。
ちなみに、年相応の忘れ方と病的な忘れ方の違いについて整理した図も掲載されていますが、その境界はあいまいで明確に区別できるとは限らないとされています。

軽度認知障害からのUターンも可能!

本書では、アルツハイマー病の進行を遅らせる新薬を含めた軽度認知障害における薬物療法の詳しい解説も掲載されていますが、ここでは身近でできる生活改善によるUターンへの道を紹介します。
まず大切なのは、認知症の危険因子を知ること。

こうした因子についてさらに深掘りし、正しい食生活や運動を含めて、今から取り組める具体的な改善方法なども解説しています。
修正可能なリスクがゼロになれば、認知症の段階まで認知機能が低下していく人はほぼ半減する(正確には四五%減)と予測されています。
認知症、そして軽度認知障害を正しく知り、対処すべき方法を学ぶことで、その予防から回復、あるいは進行抑制へと繋げていく。
本書は、認知症とは老化に伴い自然と発症する抗うことのできない病気と捉えがちだった自分に、目から鱗の発見をもたらしてくれました。認知症に対して怖がったり諦めたりすることなく、その手前のグレーゾーンで踏みとどまる、あるいは元の状態へと回復させる。そのための正しい知識や心構えを知ることができる、とても有意義な1冊です。