昨年のノーベル物理学賞はAI分野に贈られましたが、当時「なぜ甘利先生が受賞しないのか」と嘆く声が専門家から噴出しました。なぜなら、受賞したヒントン氏、ホップフィールド氏とほぼ同じ理論を、甘利先生は彼らのかなり前に提唱されていたからです。
東京大学特別教授・名誉教授の合原一幸先生は、本書の解説の中で次のように書かれています。
「甘利先生の研究は他者より10年どころか、それ以上早く発表されたものも多い。ある意味早すぎる。研究者は、過去の研究に学んでその先を目指すが、あまりに先取りしすぎている甘利先生の先行研究の存在に気づかずに発表された論文も少なくない。昔は図書館で過去の論文を探しながら読んで研究テーマを設定していたので、そういうことが起き得る状況でもあった」と。
「それなら、やっぱり甘利先生に受賞してほしかった!」と思ってしまいますが、当の甘利先生は、受賞者を称え、AI分野の受賞を喜んでおられます。その業績だけでなく、お人柄も本当に素晴らしい方なのです。
そんな中、先日、甘利先生が「京都賞」を受賞されました! 科学技術や思想・芸術の分野に大きく貢献した方々に贈られる国際的な賞です。
これを機に、先生の業績をますます多くの方に知っていただきたいです。
本書は、2016年刊の旧版に新たな3章分の原稿を加えて完成した増補版です。甘利先生ご自身のご研究についてはもちろんですが、宇宙の誕生から始まり、人工知能の仕組みと研究史、そして最後には人類の未来までを展望するスケール感に圧倒されるはず。甘利先生のやさしくて格調高い文章で綴られていて(難しいと感じたところは「ざっと眺めるだけで先に進んでも構わない」とも書かれています)、どなたにも楽しんでいただけます。ぜひお手に取ってみて下さい。
──学芸第二出版部 家田有美子