小説家が教える「書く」楽しさ
そんな私の気持ちを軽くしてくれたのが『日曜日の文芸クラブ』です。この本は詩人であり小説家でもある小手鞠るい先生が、「書く」ことの楽しさ、喜びを丁寧に教えてくれる文章指南書です。
詩、日記、感想文、物語……読む人の心をつかみ、自分も楽しく「文章を書く」方法が優しく、心地よい言葉で綴られています。
たいせつなことは、浮かんできたときそれをつかまえることです。つかまえて書いてみてから、読み直して「ああでもない、こうでもない」と考えてみてください。
『日曜日の文芸クラブ』は全4回。短い詩から長い物語へ、階段を登るように発展していきます。
素敵な文章は、読むだけで風景が目に浮かんだり、短い文章に長い時間がぎゅっとつめこまれていたりと、まるで魔法のよう。そしてそんな魔法を私たちも使えるよう、丁寧に教えてくれます。
心の野原から生まれる言葉
そのようにしてつかまえた「ことば」を磨く方法を教えてくれるのは、小手鞠先生の尊敬する「言葉の魔法使い」である、アンパンマンの作者・やなせたかし先生です。
たとえば、小手鞠先生の書いた詩「雨の日の動物園」について、やなせ先生はこんなアドバイスをくれたそう。
「あのね、動物園っていうことばはね、詩のことばじゃないんだ。たとえ動物園の情景(じょうけい)を詩に書いてあっても、動物園ということばは、タイトルとして使うべきじゃない。なぜ使うべきじゃないのか、代わりのことばは何がいいのか、それは自分で考えてみて」
おまけのQ&Aとして「タイトルの付け方」など実践的なコラムも収録されており、自分だけの「ことば」をブラッシュアップする手助けをしてくれます。
文章を自由に羽ばたかせるために
岡山大学の学生が実際に書いた小説『私という人間』は、小手鞠先生が「なんと天晴れな書きっぷりだろうと、私は舌を巻きました」と絶賛するほどの出来栄えです。本書に掲載されているのはその一部ですが、続きが読みたくてそわそわするほどに引き込まれました。実はこの小説、小手鞠先生によるある制約のもとに書かれています。制約により小説の魅力が深まるのはもちろん、「ウソだらけの作り話」になることも防ぐことができています。
なんらかの制約を与えることで、小説は、文章は、表現は、より自由に羽ばたくことができる。
言葉と向き合うことの楽しさ、喜びを大切にする精神が、この本全体に流れているのを感じます。
文章を書くことへの苦手意識を取り除き、かわりに温かな興味と勇気を抱かせてくれる。『日曜日の文芸クラブ』は、そんな魔法のような力も備えた1冊です。