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2025.06.24

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書くことが得意になれる! 詩人・小説家の小手鞠るいさんが教える実践的文章レッスン

小説家が教える「書く」楽しさ

「文章を書く」ってしんどい。いつからか、こんな言葉が頭をよぎる回数が増えました。誰かに宛てたメールやメッセージだけでなく、本来なら思ったことを書けばいいはずのSNSや感想文にまで、やりづらさを感じることも。自分の想いや心が動いたことをもっと自由に、楽しく綴ることができたらいいのに……。

そんな私の気持ちを軽くしてくれたのが『日曜日の文芸クラブ』です。この本は詩人であり小説家でもある小手鞠るい先生が、「書く」ことの楽しさ、喜びを丁寧に教えてくれる文章指南書です。
詩、日記、感想文、物語……読む人の心をつかみ、自分も楽しく「文章を書く」方法が優しく、心地よい言葉で綴られています。
たいせつなことは、浮かんできたときそれをつかまえることです。つかまえて書いてみてから、読み直して「ああでもない、こうでもない」と考えてみてください。
つかまえるのは、自分の心の野原に浮かぶ「ことば」です。
『日曜日の文芸クラブ』は全4回。短い詩から長い物語へ、階段を登るように発展していきます。
素敵な文章は、読むだけで風景が目に浮かんだり、短い文章に長い時間がぎゅっとつめこまれていたりと、まるで魔法のよう。そしてそんな魔法を私たちも使えるよう、丁寧に教えてくれます。

心の野原から生まれる言葉

第一回「詩は野原から生まれる」は「詩」を書く方法の解説です。詩は文章としては短いけれど、それだけに詩的なフレーズ、はっとするような気の効いた文章を詰め込まなければ詩としてカタチにならないのでは……? そんな疑問に、小手鞠先生はあるシンプルな方法を教えてくれています。全体的にやさしい語り口のこの本ですが、「こうすれば書ける!」という答えもズバリと書いてくれているのがうれしい。

そのようにしてつかまえた「ことば」を磨く方法を教えてくれるのは、小手鞠先生の尊敬する「言葉の魔法使い」である、アンパンマンの作者・やなせたかし先生です。
たとえば、小手鞠先生の書いた詩「雨の日の動物園」について、やなせ先生はこんなアドバイスをくれたそう。
「あのね、動物園っていうことばはね、詩のことばじゃないんだ。たとえ動物園の情景(じょうけい)を詩に書いてあっても、動物園ということばは、タイトルとして使うべきじゃない。なぜ使うべきじゃないのか、代わりのことばは何がいいのか、それは自分で考えてみて」
やなせ先生によれば「詩人は野の人」だといいます。詩とは、人工的で大きな花壇や花束ではなく、小さな花たちがひっそり咲いている野原のようなものだそう。心のなかに広がる野原に咲く花を摘み取って、自分だけの花束を作る……そんな「野の人」になら、なれそうな気がしてきませんか?
おまけのQ&Aとして「タイトルの付け方」など実践的なコラムも収録されており、自分だけの「ことば」をブラッシュアップする手助けをしてくれます。

文章を自由に羽ばたかせるために

有名作家の日記から、小学生の書いた小説までを幅広く取り上げた豊富な実例もこの本の大きな魅力です。すでに文章を書くことに慣れ親しんでいる人にも、新しい発見をもたらしてくれるはず。

岡山大学の学生が実際に書いた小説『私という人間』は、小手鞠先生が「なんと天晴れな書きっぷりだろうと、私は舌を巻きました」と絶賛するほどの出来栄えです。本書に掲載されているのはその一部ですが、続きが読みたくてそわそわするほどに引き込まれました。実はこの小説、小手鞠先生によるある制約のもとに書かれています。制約により小説の魅力が深まるのはもちろん、「ウソだらけの作り話」になることも防ぐことができています。
なんらかの制約を与えることで、小説は、文章は、表現は、より自由に羽ばたくことができる。
この言葉は「文章を書くのは苦手ではないものの、なんだか味気なくて作業のよう」と思っていた私にも、大きな刺激をくれました。心の野原に浮かんだ言葉を「作品」にするための大きなヒントをもらったように思います。

言葉と向き合うことの楽しさ、喜びを大切にする精神が、この本全体に流れているのを感じます。
文章を書くことへの苦手意識を取り除き、かわりに温かな興味と勇気を抱かせてくれる。『日曜日の文芸クラブ』は、そんな魔法のような力も備えた1冊です。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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